第二十九話 過去に戻って救える物

「まぁ真面目な話婚約者は、

 早めに決めないといけないわよ」

 

「あっまだ話し続いてたんですね」


「当然よ、今のうちに決めとかないと

 無理矢理決められるわよ」


…婚約者か、前世ではいたらしいが

黄巾の乱から始まりその後の不安定な状況で

いつの間にか話自体、自然消滅していた。


「うーん、この涿郡だったら

 奏家とか徐家とかかしら?」


「奥方、それでは横槍が入ってくるでしょう

 …どうでしょう外に目を向けては?」


賈詡が高春に助言する。


「外?…幽州…じゃなくて他の州って事?」

「はい、例えば」

「…凉州とか?」


賈詡は、ニコリと微笑む。


「そりゃいい、凉州の娘はおすすめですぞ」

「あら華雄殿まで…何か思惑がありそうね」

「そんな事は…いえ」


賈詡が華雄に余計な事を言うなと

睨みつける。


「ふふ、まぁ私としては近場

 せめて冀州か并州がいいわね」

「しかし…」


高春と賈詡の会話が続いていく。


「ん?良…聞いてましたか?」


高春が静かな劉良に気づく。


「いや…はい」


「その様子だと

 あまり乗り気じゃないみたいね」


劉良は、高春が言う様にあまり興味がなかった…いや…違うな忘れられないのだ。


『…旦那様』


…愛する妻を


故郷も家族もそして愛する人も全てを失い

ボロボロだった劉良に寄り添ってくれたのが妻だった。


妻自身、辛い過去を持ち

それにより暴れたり

自らを傷つけてしまったりとしていたにも

関わらずだ。


そんな妻の事が愛おしかった

共に幸せに生きようと誓ったのに

約束を守れなかった。


「…貴方、誰か好きな子がいるのね?」

「…えっ?…いや」


顔に出ていたのだろうか?

どうやら母上には、隠し事ができない様だ。


「良、誤魔化さないの

 恥ずかしいかもしれないけど

 言うなら今よ後になって後悔しても

 過去には戻れないのですから」


過去には戻れないか

…私は、戻ってきてるがな…


「…あっ!!」


そうだ!!

そうなのだ私は、過去に戻っている!!

だったら救えるのではないのか

傷だらけで笑顔をあまり見せなかった

愛しい彼女を!!


「くそっ、何で今まで

 気づかなかったんだ!!

 自分の無能さに嫌になる」

 

「りっ良?どうしたの?」


突然奇声をあげた劉良に高春は、

恐る恐る声をかける。


「母上」

「なっ何?」

「一人の女性を探したいのですが」

「いいけど、その子の名前は?」


「はい、つ…じゃなくて

 彼女の名前は、白で姓は…わかりません」


「わからない?」


「はい」


彼女は、張を名乗っていたがそれは、

自分と会ってから名乗り出したもので

その前のは、教えてもらえずわからない。


「うーんそれだけでは分からないわ

 探してって事は、今住んでいる場所も

 分からないって事でしょ?」


「…はい、并州か凉州の

 どっちかだと思うのですが」


凉州は、妻の出身地で

并州は、妻と出会った場所でいつから并州に来たのかがわからない。


「探すのは難しいわね…」

「やっぱり難しいですか?」

「えぇ探す範囲があまりにも広すぎるわ」


やっぱりダメか…

何か何か手がかりになる物はなかったか?

記憶を思い出すが分からない。


「…くそっ」


劉良は、自分の妻の事を何も知らない事に

悔しさを滲ませる。


「ふむ、少しよろしいでしょうか?

 もしかしたらその女性わかるかもしれません」


「えっ!?本当ですか!?」


劉良は、賈詡の方を見る。


「えぇ并州か凉州にいて名を

 白と言うのでしょう?

 凉州にいた時に会った

 子供が白だったはず」


「姓は何と?」


「…申し訳ない覚えていません

 あれだったら調べて見ましょうか?」


「お願いします!!」


「はい分かりました…が、

 やはり貴方が直接見ない事には、

 確信に至らないと思いますよ」


確かに人違いと言う可能性もあるのか

…でも凉州か


「良、ダメよ貴方はまだ子供なんですから」


「母上…わかってます」


母上が言う通り

今、幽州を離れる事はできないだろう。

くそもしかしたら妻かもしれないのに…


「しかし何で劉良は、そこまで必死なんだ?

 それに何処であったんだ?

 幽州から出た事もないのに」


華雄の質問に劉良は、動揺する。

「あっ…それはその」


確かにどう言い訳しようか考えてなかった

どうしよう…。


劉良が必死に言い訳を考えていると

侍女がやってきて父の帰りを報告した。


「いっ色々あるんです!!

 取り敢えず父上を迎えに行きましょ」


「ちょ!!良!?」


劉良は、これ幸いと部屋を出て行った。


「取り敢えず奥方我々も行きますか?」


「ええ…後でしっかり聞きださないと」


そう言って高春達も部屋を出て迎えに向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る