第13話 可愛い同級生の手作りお弁当


 午前中の授業が終わり、昼休みに突入した。

 いつもならコンビニや売店で昼食を買っていたが、今日の昼は違った。


 俺は鞄から弁当箱を出し、机に置いた。


「あれ? 柳木が手作り弁当を持って来ているなんて珍しいな」


 大きめの袋を片手にやって来た西城が、俺の机の上にある弁当箱を見ながら言ってきた。


 実は、この弁当は霧宮さんの手作り。

 何でも、自分の分を作る時に、俺の分まで一緒に作った方が楽とかで作ってもらった。


 あと、健康面に関しても色々言われた。


 まあ…女子の手作り弁当(母さん以外)は初めてだから嬉しいんだけどね。


「毎日コンビニや売店だと健康に悪いしな」

「そうなんだよな〜 俺もさ、毎日似た様な物ばかりだから、健康面が心配なんだよな」


 そう言って、袋から牛丼を出した。


 ………牛丼?!


「西城…健康面が心配と言っていたけど、それは無理があるぞ」

「仕方がないだろ。 登校中に香りに誘われて、昼に牛丼を食べたい欲になったんだから」

「それは…品質は大丈夫なのか?」


 お店の牛丼だとしても、数時間も蓋を開けないで教室に置いとくと色々と心配だ。


 冬ならともかく、春から秋までは…ね。

 

「大丈夫だろ。 前にも似た様なことをして、体調を崩さなかったし」

「本人がそう言うならいいけど…何か起こったとしても俺は知らないからな」


 「大丈夫、大丈夫」と言いながら笑顔を見せ、そして俺の弁当を指差して言葉を続けた。


「それよりも、早く弁当を見せろよ〜」

「何で見せないといけないんだよ」

「弁当ソムリエとして、柳木の弁当を採点してあげようと思ってな」


 毎日似た様な物ばかり食べている奴が弁当ソムリエを名乗るなよ。それに弁当ソムリエって何だよ。


「採点はしなくていい」

「えー」

 

 不満そうな声を上げる西城を無視し、俺は弁当箱を開けることにした。


 弁当は二段になっていて、一番上の蓋を開けるとおかずがあり、下の旦那は白米が入っていた。


 これは…凄いな。そして美味しそうだ。


 すると、西城がお弁当を見てきた。


「ふむふむ… 玉子焼きに唐揚げ、さらに彩りのブロッコリーにタコさんウインナーとは…」

「勝手に採点をするな」

「なぁ、このお弁当は本当に柳木が作ったのか?」


 ドキ?!

 前にも思ったけど、ほんと勘がいいよな。


「ど、どうしてそう思うんだ?」

「上手く説明出来ないけど、ここまで器用に作れるものなのかな…と思ってな」

「失礼だな! これくらい普通に出来るわ!!」


 実家にいた時に偶にだけど、母さんから料理を少し教わっていたからな。

 まあ、それで料理を作ったのは片手で数えられる程だけど…。


「どうやら俺は柳木のことを低く見積もっていたらしい。 悪かったな」

「本当に失礼な奴だな!!」


 呆れながら言い、俺は玉子焼きに箸を伸ばした。


 玉子焼きを食べると口の中に甘さが広がり、とても大好きな味だった。いくらでも食べれるな。


「霧宮さんのお弁当可愛い〜!」


 突然、教室内に女子の声が響いた。

 視線を向けると、霧宮さんが二人の女子と昼食を取っていた。


「霧宮さんのお弁当気になるよな」

「そうか?」

「柳木は気にならないのかよ?」

「気にならない」


 だって、目の前にあるお弁当と霧宮さんのお弁当は一緒だからな。


 あれ…? これ中身が同じだと、西城から面倒くさい疑いを掛けられるのでは。


「タコさんウインナー懐かしい〜!!」

「高校生になると見掛けなくなるよね」

「簡単に作れますよ」


 その話を聞き、俺はタコさんウインナーを一気に口に運んだ。一つ目の証拠隠滅だ。


「もしかして、唐揚げも手作りなの?」

「はい! 頑張って作りました!」

「霧宮さん、いい主婦になるね」


 次に三個の唐揚げを頑張って食べた。

 二つ目の証拠隠滅だ。

 

「玉子焼きも美味しそうだね! 少しだけ貰ってもいいかな…?」

「ずるい!! 私も一口だけ食べたい!!」

「もう…一口だけですよ?」

「「ありがとう」」


 玉子焼きは既に食べ終えていたので、全然進んでいなかった白米を食べ進めた。

 

「なぁ、霧宮さんのお弁当と柳木のお弁当の中身が一緒な気がするけど…気の所為か?」

「気の所為だろ」

「そんなことは———って、食べるのはや?!」

「西城が遅いんだよ」


 それにしても、顎が疲れた…。

 証拠隠滅の為に一気に食べたけど、もう少し味わって食べたかったな。


「いや、柳木が食うのが早すぎるんだよ」

「偶々さ」

「まあ、それはいいとして、お弁当が同じなのは本当に気の所為なのか? 俺の記憶ではほぼ同じだと思うんだけどな」

「気の所為だ」


 そう言って、俺は白米を口に運んだ。


 西城はずっと疑いの目を向けてくる。

 

「本当に気の所為なのか?」

「本当に気の所為だ」


 面倒くさい。

 早く諦めてくれないかなー。


「分かった。 今回は手を引いてやる」

「次があっても、全て気の所為で終わるけどな」

「非情だな」

「他の人には優しく教えるけどな」

「俺だけ辛辣なのかよ…」

「当然だろ」


 「俺だけかよ…」とボソボソと呟きながら、牛丼をどんどん掻き込んでいく。


「よし、俺は決めたぞ」

「何をだよ」

「次の休みの日に俺は柳木の家に遊びに行く!」

「…………っは?」


 家に来る…? 

 いや、来なくていいんだけど。


 

 

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