第11話 友人がスカウトマンみたいで面倒くさい
「(朝から色々と疲れた…)」
教室で頬杖を付きながら、俺は窓の外を眺めて今朝の出来事を思い出していた。
◯
リビングで朝食の準備をしていると、霧宮さんがそわそわしながらやって来た。
服装は可愛らしいパジャマから制服に着替えていたので、一度部屋に戻ったことが分かる。
『おはよう』
ここはなるべく話題を振らない方がいいだろう。
本人だって忘れたい記憶かもしれないし。
『おはようございます。 あの…その…』
霧宮さんは挨拶をすると、指をツンツンさせながら言い淀んだ。
『どうかした?』
『実は…朝起きたら柳木くんの部屋のベッドで寝ていまして…私、何か迷惑していませんでしたか?』
それ、本人に聞く?!
普通だったら回りくどい言い方をしたり、他のことで誤魔化したりすると思うけど。
『そんなことはないよ。 ほら、朝食が出来たから一緒に食べよ? 簡単な物しか無いけど』
『ふふふ… 次は私が朝食を準備してあげますね!』
◯
そんな感じで朝を過ごしたので、俺はかなり気疲れをしていた。……慣れないことだらけで辛い。
「いつにも増して顔が疲れきっているな」
そろそろ担任が来るまで机に突っ伏して待っていようと思った時、背後から声を掛けられた。
この元気ハツラツで俺に話し掛けて来る人は一人しかいない。
後ろを振り向くと、西城が「よっ!」と言って微笑してきた。
「おはよう。 これには複雑な理由があるからな」
「んで、その理由は黙秘権と言って話すつもりはないんだろ?」
「よく分かっているじゃん」
当然、今回も話すつもりはない。
というよりも、朝の出来事を話せる訳がないのだ。
「最近、隠し事が増えたよな〜 まさか、俺に隠れて女でも出来たのか?! どうなんだよ!」
微妙に勘が鋭いな!!
確かに女性関係だけど、首を縦に振れる訳がないだろ…その相手が学園で可愛いと呼ばれている、霧宮さんなんだから。
「違う」
「女関係じゃないなら、俺に話せるだろ?」
「話さない」
「この間の件といい、ずっと気になって夜しか眠れないんだよ。 勿体ぶらないで教えてくれよ柳木〜」
夜が寝れているなら大丈夫だろ。
「時が来たら話す。 今はこれしか言えない」
「俺は知っているぞ。 時が来たら話すは時が来ても話さないに等しいとな」
面倒くさいな…。
「なら、余計に話す気がなくなったわ」
「お兄さん、そんなこと言わずに諦めて俺に話してくださいよ〜 いい所を紹介するからさ〜」
「どこのスカウトマンだよ」
西城は肘で俺の腕に押し付けて来た。
どこかで諦めようと思ってくれないかな。
反論する気力まで無くなってきた。
「霧宮さん、おはよう!」
「おはようございます」
「今日も可愛すぎて眩しいね!」
「ありがとうございます」
クラスメイトたちからの挨拶を受けながら、霧宮さんは教室に入って来た。
社交辞令的な挨拶もあった気がけど…。
「霧宮さん、マジで可愛いよな〜 それにしても、今日は時間ギリギリに登校なんて珍しいよな」
西城が言うのも無理もない。
普段の霧宮さんは予鈴よりも前に登校してくるが、今日は予鈴と同時に登校だ。
これにはちゃんとした理由がある。
それは俺と彼女が別々に登校する為だ。
通学路の途中で一緒に登校している姿を学園の生徒に見られたら、良からぬ噂が広がる。
その対処として別々の登校時間にしたのだが、これは俺が後の方が良いかもしれないな…。
「まあ霧宮さんだって、ギリギリに登校したくなる時があるんだよ」
我ながら根拠が無い言い訳だ。
これは…西城に通じるか?
「だよな。それに普段とは違う一面を見ると、好感度が上がるわ」
通じたよ…。
おいおい、こんなことで納得されると、色々と心配なんだけど。
「とりあえず、西城は人を疑うことを学んだ方がいいかもしれないな」
「急に何だよ」
「特に深い理由は無いけど、何となく思っただけ」
それに話題が逸れたおかげで、面倒くさい追及が無くなった。……マジで良かった。
「よーし、皆んなホームルームを始めるぞー」
教室に担任が入って来て、クラスメイトたちは自席へと戻った。
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