第11話 友人がスカウトマンみたいで面倒くさい

「(朝から色々と疲れた…)」


 教室で頬杖を付きながら、俺は窓の外を眺めて今朝の出来事を思い出していた。



 リビングで朝食の準備をしていると、霧宮さんがそわそわしながらやって来た。

 服装は可愛らしいパジャマから制服に着替えていたので、一度部屋に戻ったことが分かる。


『おはよう』


 ここはなるべく話題を振らない方がいいだろう。

 本人だって忘れたい記憶かもしれないし。


『おはようございます。 あの…その…』


 霧宮さんは挨拶をすると、指をツンツンさせながら言い淀んだ。


『どうかした?』

『実は…朝起きたら柳木くんの部屋のベッドで寝ていまして…私、何か迷惑していませんでしたか?』


 それ、本人に聞く?!

 普通だったら回りくどい言い方をしたり、他のことで誤魔化したりすると思うけど。


『そんなことはないよ。 ほら、朝食が出来たから一緒に食べよ? 簡単な物しか無いけど』

『ふふふ… 次は私が朝食を準備してあげますね!』



 そんな感じで朝を過ごしたので、俺はかなり気疲れをしていた。……慣れないことだらけで辛い。


「いつにも増して顔が疲れきっているな」


 そろそろ担任が来るまで机に突っ伏して待っていようと思った時、背後から声を掛けられた。


 この元気ハツラツで俺に話し掛けて来る人は一人しかいない。


 後ろを振り向くと、西城が「よっ!」と言って微笑してきた。


「おはよう。 これには複雑な理由があるからな」

「んで、その理由は黙秘権と言って話すつもりはないんだろ?」

「よく分かっているじゃん」


 当然、今回も話すつもりはない。

 というよりも、朝の出来事を話せる訳がないのだ。


「最近、隠し事が増えたよな〜 まさか、俺に隠れて女でも出来たのか?! どうなんだよ!」


 微妙に勘が鋭いな!!

 確かに女性関係だけど、首を縦に振れる訳がないだろ…その相手が学園で可愛いと呼ばれている、霧宮さんなんだから。


「違う」

「女関係じゃないなら、俺に話せるだろ?」

「話さない」

「この間の件といい、ずっと気になって夜しか眠れないんだよ。 勿体ぶらないで教えてくれよ柳木〜」


 夜が寝れているなら大丈夫だろ。


「時が来たら話す。 今はこれしか言えない」

「俺は知っているぞ。 時が来たら話すは時が来ても話さないに等しいとな」


 面倒くさいな…。

 

「なら、余計に話す気がなくなったわ」

「お兄さん、そんなこと言わずに諦めて俺に話してくださいよ〜 いい所を紹介するからさ〜」

「どこのスカウトマンだよ」


 西城は肘で俺の腕に押し付けて来た。


 どこかで諦めようと思ってくれないかな。

 反論する気力まで無くなってきた。


「霧宮さん、おはよう!」

「おはようございます」

「今日も可愛すぎて眩しいね!」

「ありがとうございます」


 クラスメイトたちからの挨拶を受けながら、霧宮さんは教室に入って来た。


 社交辞令的な挨拶もあった気がけど…。


「霧宮さん、マジで可愛いよな〜 それにしても、今日は時間ギリギリに登校なんて珍しいよな」

 

 西城が言うのも無理もない。

 普段の霧宮さんは予鈴よりも前に登校してくるが、今日は予鈴と同時に登校だ。


 これにはちゃんとした理由がある。


 それは俺と彼女が別々に登校する為だ。


 通学路の途中で一緒に登校している姿を学園の生徒に見られたら、良からぬ噂が広がる。

 その対処として別々の登校時間にしたのだが、これは俺が後の方が良いかもしれないな…。


「まあ霧宮さんだって、ギリギリに登校したくなる時があるんだよ」


 我ながら根拠が無い言い訳だ。

 これは…西城に通じるか?


「だよな。それに普段とは違う一面を見ると、好感度が上がるわ」


 通じたよ…。

 おいおい、こんなことで納得されると、色々と心配なんだけど。


「とりあえず、西城は人を疑うことを学んだ方がいいかもしれないな」

「急に何だよ」

「特に深い理由は無いけど、何となく思っただけ」


 それに話題が逸れたおかげで、面倒くさい追及が無くなった。……マジで良かった。


「よーし、皆んなホームルームを始めるぞー」


 教室に担任が入って来て、クラスメイトたちは自席へと戻った。

 

 

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