第9話 お風呂問題の解決策は…

 部屋の片付けを終えた俺はリビングに戻ると、既に霧宮さんがソファーに座って休憩していた。


「お疲れ様。 荷物の整理を終えるの早いね」

「山神さんの家にお世話になる際、身の回りの整理はしていたので荷物は少なかったのですよ。その時に服もかなり整理しましたし」


 霧宮さんは自分の隣をトントンと叩き、隣に座るように促してきた。


 促されるまま俺は霧宮さんの隣に座り、ふと思ったことを質問してみた。


「今、現在の手持ちの服の数は…?」

「………」


 急にジト目で俺のことを睨んできた。


「もしかして、NG質問だった…?」

「そうゆう訳ではないのですが」


 霧宮さんは腕で上半身を覆い隠しーー


「身の危険を感じたので…」


 そして、体を背けた。


 何故だ…。別に変態発言をした訳ではないのに、どうして警戒されるんだ。


「そんなに警戒しないで。 ただの興味本位みたいなものだから」

「柳木くん… その発言はアウトです」

「………っえ」


 数秒前の自分の発言を思い出してみる。


『ただの興味本位みたいなものだからさ』


 うん…興味本位で聞いたら、霧宮さんに警戒されるのは当然だな。彼女だけに限らず、他の女性にも同じように聞いたとしたらーー殴られる可能性もなくはないな。


「ごめん、俺が悪かった」


 俺は素直に謝った。


 霧宮さんは体を元の位置に戻した。


「私も警戒しすぎたところがありました。 そもそも、私から同棲を提案したのに警戒していたら本末転倒ですね」

「いや、霧宮さんは何も悪くないよ。 デリカシーのかけらもない、俺が悪いから」


 霧宮さんは「ふふふ」と笑った。


「このままでは話の終わりが見えてきませんので、お互いに悪かったことにしましょう」

「お互いに…?」

「はい。 私としては醜い争いはしたくはありません。 なので、引き分けです!」


 その提案は俺にとってはありがたい話だ。

 それに同棲初日から醜い争いをしていたら、この先何があってもやっていけないだろう。


「そうだな。 こんなことで争いをしている暇があったら、今日の夕飯のことを考えないとな」

「ですね! それで夕飯になりますが引っ越してきたばかりで冷蔵庫にはほぼ何もありません」

「そうなの…?」

「冷蔵庫を見てみますか?」

「そうする」


 ソファーから立ち上がり、キッチンへと移動した俺は冷蔵庫を開けた。

 中を確認すると、右側にお茶と水のペットボトルは入っているが、他は綺麗に何もなかった。


「本当に何もないじゃん…」

「お気持ちとして、飲み物だけですね」


 確かに飲み物は必要必需品だからあるのは分かるけど、少しだけ食材とかは欲しかったかな。 


 だけど、これ以上の我が儘は言えない。山神さんには家賃のことや他にもまだまだお世話になることが多い。かと言って、母さんにいうと…「自分の力で乗り切りなさい」とか言われるんだよな。


「これから地道に揃えていくしかない…か」

「そうですね。 一緒に買い物を行きましょうね」

「う…うん。 それで夕飯だけど、何かしら出前でも取る?」

「いいと思いますよ。 でしたら、お寿司を頼みましょう。 引っ越しのお祝いに!」


 引っ越しのお祝いで寿司は聞いたことがないけど、霧宮さんがノリノリだから否定はするのは辞めておこう。


「それはいいけど、予算は大丈夫なの?」

「そこはご安心ください!」


 そう言って、霧宮さんは近くに置いてあった鞄を寄せて、鞄の中から封筒を取り出した。


「それは…?」

「お出…デートの際に余ったお金です。 一部は貯金しましたが、それでも一万円は残しています」

「つまり、その一万円を使って」

「美味しいお寿司を頼みましょう!」


 やっぱり、贅沢な気もするけど大目に見るか…。


「それじゃあ、注文を頼んでもいいかな?」

「任せてください!」


 そう言うと、霧宮さんはスマホを操作して、お寿司の出前を注文した。




「美味しかったですねぇ〜!」

「一週間は寿司を食べたいとは思わないわ」


 霧宮さんは満足した表情をして、ソファーでくつろいでいた。その隣で俺は天井を眺めながらお腹を摩っていた。


 出前で注文したお寿司は特選人気二十四種。

 マグロ、いか、いくら、ほたて、たまご、など選りすぐりの寿司ネタが三個ずつ入っていて、かなりの満足感があった。


「この休憩中にいくつか決めないといけないことがあります」

「決めること?」


 何かあったかな…?


「お風呂の順番です」


 俺と霧宮さんは同棲はすることになったが、付き合っている訳ではない。その中でお風呂が一番の障害になるのは間違いない。


「確かに由々しき問題だな。 さて、どうする?」

「そこで私は考えました」

「ほう、その考えを聞かせてもらおう」

「一緒に入るのです」

「………っは?」


 自分の言っている言葉を分かっているのか…?

 男女で入るのは色々と問題があるし、先程も言った通り、俺たちは付き合っていない。


 どう考えても恥ずかしいし、常識的に考えたらあり得ないだろ。どこの漫画の世界だよ。


「あの…霧宮さんは俺に裸を見られて恥ずかしくないの…? 俺は見られたくないけど」

「確かに恥ずかしいですが、お風呂問題が解決するなら我慢出来ますよ」


 ダメだ。何を言っても、聞く耳を持ってくれそうにない。こうなったら、最後の手段だ。


「やっぱり、問題になりかねないから、ここはジャンケンで順番を決めよう」

「私の勇気を無碍にするのですか」


 霧宮さんは不満そうな顔をした。


「そこで不満になる理由が分からないよ。 俺は世間一般の常識を話しただけなのに」

「柳木くんの意気地無し…」


 はい…もう、意気地無しでいいですよ。

 どうせチャンスをモノにできない人ですから。


「兎に角、ジャンケンで決める方向でいい?」

「お好きにどうぞ」


 あらら、少し機嫌が悪くなったかな。


「それじゃあ、行くぞ」


 俺が右手を出すと、霧宮さんも右手を出した。


「「じゃーんけーん」」


 

 

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