第4話 可愛い同級生と放課後ティータイム

 翌日。教室に着いた俺は鞄を机の横に引っ掛けて、椅子に座った瞬間に不貞寝をした。

 ここは窓際の一番後ろになるので、少し窓を開けると心地よい風が入ってくる。


(気持ちいいな)


 ただ一つ気になるのはクラスメイトたちによる雑音だ。いくつかのグループに分かれて話をしているので、様々な会話が聞こえてくる。


「昨日のドラマ面白かったよね」

「あの場面からの展開は想像が付かないよね」

「来週が気になるよ!!」


 ドラマは興味本位か山神さんが出演している時しか見ないから分からないな。


「昨日、SNSでナンパされたわ」

「そりゃ、あの投稿した写真なら男は必ず食いつくだろ(笑)」

「分かる〜 私も目の前で食べたくなったもん」

「変態か!」


 自慢のように大きな声で話すなよ…。

 そこまで自慢しても、将来的には何も価値を見出せないと思うけど。


 突然、トントンと肩を叩かれた。


「柳木、おはよう」

 

 この声はもしかして西城かな?


 西城祐希。この学園で唯一の俺の友達だ。

 身長は百七十センチ前半で、部活動は入っておらず、俺と同じ帰宅部ということで仲良くなった。

 

 腕から額を離して顔を上げると、予想した通りの人物が目の前にいた。


「おはよう」

「相変わらず眠そうな顔をしているな。 昨日もゲームで夜更かしをしていたのか?」


 目の前の席に座りながら西城は聞いてきた。


「それはいつものことだろ。 まあ寝付きが悪かったのは事実だけど」

「柳木がゲーム以外で寝付きが悪くなるなんて珍しいな。 何があったんだ?」


 その質問は来るよね。

 だけど唯一の友達である西城だとしても、霧宮さんとのことは伝えられないな。これは二人だけの秘密の約束だから。


「そのことに関しては黙秘権を使わせて貰います」

「大した理由ではなさそうなのに黙秘権だと、余計に気になって仕方がないんだが」

「そこは我慢してくれ。 俺にだって一つや二つ、秘密を抱えているものだよ」

「格好良く言ってるつもりらしいけど、俺から見たら全然格好良くないからな」

「思ってても口には出すなよ!!」


 西城に弱めな肩パンチを喰らわせたところで、教室内の雑音がさらに上がった。


 視線を向けると、教室の後方出入り口に数人が集まっていて、その中心には霧宮さんがいた。


「霧宮さんだ。この光景にも見慣れてきたな」

「クラスの名物光景の一つに認定されるな」

「名物…光景? 誰が作ったんだ?」

「いま思い付いた」


 ほぼ毎日同じような光景が起きていれば、名物光景と言ってもおかしくはないだろ。

 他のクラスの人達だって見に来ているんだから、もはや金を取れる観光地でもあるな。


「おっ…! 霧宮さんがこっちを見ているぞ!」

「………っん?」


 西城に言われて、もう一度視線を向けると、霧宮さんは確かにこちらに視線を向けていた。


 そして———小さく手を振ってきた。


「霧宮さんが俺に手を振ってきてくれたぞ!」

「う…うん。 良かったな」


 西城、ごめんな。それは俺に向けて手を振ってくれたんだと思う。こんな窓際に手を振る訳がない。


(………ん?)


 苦笑していると、霧宮さんが机を指差してきた。

 理由は分からないけど、「中を見て」と受け取った俺は机の中に手を入れてみると、


「(何か入っているな)」


 西城にバレないように中身を取り出すと、四角に小さく切られた紙が入っていた。

 そして『放課後、複合施設の喫茶店に集合』と書かれていた。


 連絡先を交換してなかったから手紙になるのは仕方がないけど、入れている瞬間を誰かに見られたらどうするつもりだったんだろう。

 とりあえず西城にバレると面倒くさいので、即座に手紙をポケットにしまった。


「(とりあえず、連絡先の交換しないとだな…)」


 窓から見える青空と上空の強い風によって動いている雲を眺めながら、俺はボソッと呟いた。


 

「あれ…? まだ来ていないのか」


 放課後、霧宮さんに指定された喫茶店へとやって来たが、彼女の姿はどこにも見当たらなかった。

 席に荷物を置いた俺は、先にアイスティーを注文をして彼女が来るのを待つことにした。


 ゲームをして待つこと十五分。

 扉の方に目を向けると霧宮さんの姿が見えた。


 店内へと入った彼女は周囲を見渡し、俺を見つけると真っ直ぐこちらは歩いて来た。


「遅れてごめんなさい。帰り際に色々ありまして」

「待つことには慣れているから大丈夫だよ。 とりあえず、飲み物でも注文してきたら?」

「そうですね!」


 霧宮さんは荷物を置いて、注文口へと向かい、すぐにトレイを持って戻ってきた。


「で、色々あったらしいけど何があったの?」

「それは遅刻したことを怒っていますよね」

「単純に気になっただけで怒ってはいないから」

「良かった」


 霧宮さんはホッとした表情を見せた。

 自分から誘いながらも、誘って本人が遅刻したことを気にしていたのだろう。


 そしてコップの蓋を撫でながら言葉を続けた。


「実は…他クラスの男子から告白されていました」


 よく考えてみれば当然か。

 噂では入学して二日目で告白されていて、既に先輩や同級生を合わせて数十人と聞いたことがある。

 真実なのかは目の前の本人に聞かないと分からないけど———こ興味本位で聞く話ではないな。


「その…他人事みたいに聞こえるかもしれないけど、大変だったんだね」

「悪気がないのは分かっているから平気だよ。 それに告白は断ってきたし」

「その男子と鉢合わせになる度に、気まずい雰囲気になってしまうね」

「もう、また意地悪をしていますよね!!」


 霧宮さんは頬を膨らませた。


「そんなことはないさ」


 ただ、頬を膨らませた霧宮さんは可愛いから何度でも見たいと思ってしまうんだよね。

 

 霧宮さんはため息をついた。


「まあ、いいでしょう。 今日は別の話をする為に柳木くんをお呼びしたのですから」

「そー言えば、何で俺は呼ばれたの? 連絡先を交換するため?」

「それもありますが、目的は別にあります。 とりあえず、連絡先は忘れない内に交換しましょう」

「そうだね」


 お互いにスマホを取り出し、QRコードで連絡先を交換し登録をした。


 おぉ…。今まで両親と西城しかいなかった友達欄には“ASUKA“と名前が登録されていた。


 初めての女子の連絡先に舞い上がりそうになったけど、気持ちを落ち着かせる為にアイスティーを飲み熱を覚ました。


「では、本題に入らせていただきますね」


 霧宮さんの言葉に俺は頷いた。


「ゴールデンウィーク最終日、私と一緒にお出掛けをしませんか?」

「いいけど…何をするの?」

「同棲に必要な小物類を見に行きたいのです!」

「確かに家から持って行くことは出来ないから、揃える必要はあるか」

「予算の方も安心してください! 山神さんから必要経費として五万円頂きましたから!」

「そんなに?!」


 山神さん…太っ腹すぎる。

 バイトをしていない俺からしたら小物類を買うのにも少し抵抗があったから。……両親に頼んだとしても一万円しかくれないだろうし。


「これならお互いに好きな小物類が買えそうだね」

「今から見に行くのが楽しみです♪」


 それから集合場所と時間を決めた後、霧宮さんはケーキを注文する為に注文口へと向かった。



 

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