第1話 新しい任務

「ーー任務お疲れさま。さすが周防すおう姉弟ね。大変な任務だったでしょう?」

「そうでもないですよ。すごいのは遊馬あすまです」

「その遊馬くんの姿が見えないようだけど?」

「あー……いつものやつです。すみません」

「不思議ね。記憶力が悪いわけじゃないのに」

「あはは……私もそう思います」


 帰還した飛鳥あすかに声をかけたのは保科栞ほしなしおりだった。彼女は若くして時の守り人【タイムキーパー】たちの管理をしている人物だった。


 タイムキーパーは優秀な人材で構成されている。タイムマシンの使用、歴史への介入を認めるのだから間違いは許されない。的確な判断力、安定した精神、優秀な頭脳等求められる素養は様々だ。中でも周防姉妹は特に優秀であり、多くの任務を成功させていた。


「新しい任務があるの。正しくは協力要請だけど。今のタイムキーパーたちが手こずっている任務を手伝って欲しいの」

「了解しました。今、話をしますか?」

「いえ、遊馬くんが帰って来てからでいいわ」


 ふうと栞は溜息をつくと表情を和らげる。


「……今、誰もいないから素に戻らせて」

「ふふ。大変ね、保科管理官も」

「栞って呼んでよ、飛鳥」

「はいはい、栞。随分疲れてるみたいだけど何かあった?」

「…………タイムマシンの私的利用があったのよ」

「あぁ、それはヤバいヤツ」

「……とりあえずタイムマシンを取り上げて、拘束してるところ。後始末大変だった……」

「……ってことは記憶抹消してから除隊、か」

「タイムキーパー少ないのに勘弁してほしいよ……」

「ま、ルール守れないヤツは淘汰とうたしていかなきゃ。下手に放置すると、それこそ世界が終わりかねないもんね」


 世界は滅びかけている。

 タイムマシンの発明を起因として。


「……タイムマシンなんか発明されなかったら良かったのに」

「……まー、無理だろうね。人間は後悔する生き物だから。誰もが一度は思うでしょ?過去に戻れたら、ってさ。神憑凪かみつきなぎがタイムマシンを発明しなくても、他の誰かが遅かれ早かれタイムマシンを発明してるよ」

「……それもそうだね」


 神憑凪ーー彼女こそがタイムマシンの発明者。諸悪の根源であり、禁忌を犯した大罪人。


 タイムマシンは希望をもたらした。

 人々は思いのままにタイムマシンを使い、歴史を改変した。

 最初、人々は救われたかのように思えた。


 ある日、唐突に“都市”が消えた。

 虫食いのように“都市”はえぐり取られた。

 その虫食いはじわじわと周囲を侵食した。


 人の存在も不安定になり、身体が透ける者が続出した。

 中には消滅した者もいた。

 何がどうなっているかわからない混乱の中降り立ち、真実を告げたのが保科栞である。


 世界は滅びかけている。

 タイムマシンの利用により、歴史に矛盾が生じ、世界の存在が不安定になっている。

 それをタイムパラドックスと呼ぶ。

 タイムパラドックスをなくすため、彼女は時を守る機関、時の守り人【タイムキーパー】を立ち上げた。

 時空の安定率を数値化し、存在を安定させる。

 タイムマシンの使用を制限し、作られた矛盾を正していく。

 たくさん存在する世界ーーパラレルワールドにおいて、安定率の高い世界を“真世界”、安定率の低い世界を“偽世界”と定義し、世界の統合をはかるのが、タイムキーパーの使命であり目的である。


「あ、飛鳥。こんなところにいた。管理官と一緒だったんだね」

「管理官なんて水臭いな。わたしたち、幼馴染なのに」

「そりゃ、プライベートはそうかもしれないけど、任務が関わるときはそうじゃないでしょ?……っと、失礼しました。周防遊馬、ただいま帰還致しました」


 遊馬の敬礼に栞も飛鳥も居住まいを正す。


「任務お疲れさまでした。さっそくですが次の任務です。“織田信長”の手助けをしてください」


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