第37話 交渉開始

 死神の俺は今は市岡に臨終憑依している。死神の俺の記憶を同期したところ、ヒミカから俺に転移で戻るようにと伝言があった。エルフの使者がヒミカに会いに来るらしい。


 その条件として、オキナ島全域にかけられている転移の封印を解除するようヒミカがエルフに求めたため、今は転移ができるらしい。


「アナ、転移をお願い出来るか」


「ええ、もちろん。ルミさんと絵梨花さんと恭子さんも一緒かしら」


「それが、俺とアナだけで来い、と言っているんだ」


「変ね……」


義宗ヨシムネさんからの進言だそうだ。ドワーフ国から転移者全員を外に出す罠かもしれないから、少し残しておいた方がいいという意見だ」


「何かあっても、転移できるなら、すぐに戻れるわよ。それとも、また転移を封印するのかしら」


「少し危険だが、次は義宗さんに憑依させようと思う。本当はどういう意図での進言なのか知りたい。半日待たないといけないが」


「大丈夫なの?」


「やるしかない。義宗さんは市岡と佐竹の特訓で見る限り、自分勝手で無茶苦茶な人だ。だが、ヒミカさんには素直に従う。最悪、ヒミカさんに助けてもらう」


 ヒミカたちは俺がクラスメートにしか臨終憑依できないと思っているはずだ。それがヒミカたちにも憑依できることが知れるのは非常にまずい。出来れば危険は冒したくはないが、義宗の真意をつかんでおかないのはもっと危険だ。


「じゃあ、いったん二人で行くわよ」


「おう。絵梨花、恭子、ルミを頼んだぞ」


「分かったわ」

「分かった」


 俺と聖女はダンジョンの入口まで転移した。エルフの邪魔が入るかもしれないと警戒していたが、それはなかった。


 そして、徒歩でダンジョンに入り、再び屋敷の聖女の部屋まで転移した。二人で居間に降りて行くと、ヒミカとカナと何と義宗までいた。


「来たか」


 ヒミカが笑顔で迎えてくれた。


「はい、お久しぶりです」


「早速だが、エルフが交渉したいと言って来た。お前にも出席して欲しい」


「はい、それは構いませんが、思ったことを自由に発言していいのでしょうか?」


「構わんぞ。では、呼ぶぞ」


「一つだけいいですか?」


「いいぞ」


「俺が恐れているのは、エルフが俺たちを分断しようと画策し、それにはまってしまうことです。エルフは俺たちを魔石鉱夫としてずっと使いたいはずです。でも、エルフに頼らなくても、俺たちは自由になれます」


「それは分かっているつもりだ。実際、お前たちの半分は地上に出ているからな」


「地上の人間もこれからたくさん連れて来ますから」


 俺がそう言うと、義宗が会話に割り込んできた。


「姉貴、本当に地上の男とやっちまうのかよ」


「地上に出るためだ。愛の判定はそんなに厳しくないようだ。少しでも好意があればいいようだ。すぐに終わる。それに私は生娘ではない。どうってことはない。カナは苦労するかもしれないがな」


 カナは二百歳なのにまだ未経験なのか?


「私もするのは平気ですが、好意を持つことが出来ないと思います」


 そっちの方の心配か。


「案外桐木を好きになるかもしれんぞ」


「それはないです」


 カナがきっぱりと言い放ったが、そんなに断言しなくてもいいと思うのだが。


「姉貴、まさか姉貴も桐木を好きになるんじゃないだろな」


 義宗が俺を睨んで来る。


「さすがに子供は無理だ。私は歳上が趣味だと何度も言っているだろう」


「桐木、てめえ、調子こいてんじゃねえぞ」


「調子に乗ってないです。義宗さんのお好みの女性も集めているところです」


「けっ、俺は姉貴一筋なんだよっ」


と言う割には、義宗には一緒に転移して来た妻が十人もいるらしい。


「義宗、桐木の言った通りだぞ。エルフとの交渉の席にお前も同席させるが、仲間割れはするなよ」


「分かったよ」


 義宗はいったん落ち着いた。


「では、エルフの使者を呼ぶぞ」


 ヒミカの指示でカナが魔法の風鈴を鳴らした。涼しく澄んだ音が鳴り響いた。するとすぐにドアをノックする音が聞こえた。


 美香が取り次ぎをしてくれたらしく、美香が三人のエルフの使者を居間に案内した。


 居間には俺、ヒミカ、カナ、義宗の四人が残り、聖女と美香は自室に戻ってもらった。


 エルフの使者は我々と和平を結ぶため、思い切った条件を提示して来た。

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