第13話 ストレス

―― 佐伯の憑依視点


 佐伯の親父は工務店を経営しているようだ。寝る前に佐伯は家族のことを思い出している。妹がいるようだが、佐伯に顔が似ていて、気の毒だった。隣には今日無事に仲間に加わった佐竹が寝ている。


 サイコな俺は一人部屋だ。絵梨花がいなければ危険はないのだが、佐伯がサイコな俺を怖がっているため、別部屋となった。


 女子は、絵梨花と加世子と、今日もう一人仲間に加わった恭子が、同じ部屋で寝ている。


 加世子は顔の火傷が完治してからは、精神も随分と落ち着いたようで、転移前の明るい性格に戻りつつあるが、人を二人殺しているので、気を付けないといけない。


 麗亜は何と山口のところに行ってしまった。あんな奴のところに行っても不幸になるだけだと思うのだが、男女の仲はよく分からない。魔王と魔女ということで、悪を極めるつもりなのだろうか。


 山口は麗亜と合流してからは、もう俺たちを追って来なくなった。


(山口のやつ、女が欲しかっただけか?)


 佐竹が言っていたが、山口は最初は三班を狙っていたらしい。山口と麗亜が付き合っていたという話は記憶にないが、別に絵梨花でなくてもよかったみたいだ。


 ということで、今日は本当に色々なことがあった。俺は一回死んだし。当面の問題は佐伯を守ることだ。一番危ないのはサイコな俺だ。あと念のために加世子もマークしておこう。


***


 男三人、女三人の総勢六人の混成パーティは、ナビゲーターのカナの作戦に従って、地下一階の最強種トロールを狩るべく、今日から訓練をすることになっていた。


 今回、カナが作戦を立案するにあたって、いくつかのことが判明した。


 まず、ナビゲーターには実体と幻影体があり、通常は実体の意識をコピーした幻影体がナビしてしているが、混成班をナビするため、二班、三班、五班の幻影体を合体させたらしい。どうやら俺は、合体操作中の実体の胸を揉んだらしい。


 次に、ナビゲーターは鑑定スキルで、班のメンバーのステータスを参照するが、ロールとスキルは最初の一つだけしか見えないらしい。従って、俺が死神から得たロールやスキル、他人から得たスキルは、俺にしか見えない。


 朝食後、訓練に向かう前に、佐伯と加世子から、武器と防具の支給を受けた。武器や防具は、工作のスキルを持つ佐伯と、鍛治のスキルを持つ加世子が、作製したり、加工したものを使用する。


 俺は昨日の午後、佐伯と加世子の作業を見ていたが、佐伯は木、加世子は鉄を扱って、上手く役割分担していた。だが、佐伯は加世子を相当に恐れている感じだった。


(佐伯はストレスでおかしくなるんじゃないか)


 武器と防具を装備して、すぐに訓練に向かった。トロールの前に、オーガの何体かと戦ったが、楽勝だった。

 

 佐竹の加入は非常に大きい。オーガは低脳であるため、ヘイト管理が容易い。ヘイトを佐竹に向けさせれば、オーガは物理攻撃しかしてこないため、敵の攻撃が全く当たらなくなるのだ。しかも、佐竹はヘイトを集める魔法も使える。


 その間に攻撃力のある恭子、俺が攻撃して、絵梨花が治癒役をこなし、佐伯と加世子は最後方で武器や防具のメンテを行った。


 恭子は最初のうちは、サイコな俺の後ろで見ているだけの感じだったが、上手くコツを掴み出して、サイコな俺とのコンビネーションがどんどんよくなっていくのが、佐伯の目を通して見て、よく分かった。


(何だかとてもいい感じだが、佐伯はどうやって死ぬのだろう。何とか回避したいな)


「オーガ六体が一日のノルマだけど、この調子なら、あっという間だな」


 佐竹が昼食のおにぎりを食べながら話し始めた。


「そうね。とりあえず、あの嫌なプレッシャーからは解放されそうね」


 絵梨花が答えた。ポイントの貯金はあるものの、一日のノルマが達成できないと、いつか貯金がなくなると言うプレッシャーが半端ないらしい。


 サイコな俺は二人の会話の様子を淡々とした表情で見ている。昨日、絵梨花から佐竹と佐伯は攻撃しないように念入りに注意されていたが、今のところ機能しているようだ。


「もう、トロールってのも大丈夫じゃない?」


 加世子のあっけらかんとした言い方に、恭子が反論した。


「私の二班もいい感じだったが、トロールに出会って、私以外、あっという間に皆殺しにされた。すごく強いぞ」


「もうあと数日は訓練が必要です。トロールには再生能力がありますので、それを上回る攻撃力が必要です。今の倍の手数が欲しいです」


 カナに従った方がいい。


 こういった話にも佐伯は加わらず、昼食を食べ終わると、すぐに武器と防具の整備に取り掛かった。


(こいつ、かなり危ないんじゃないか?)


 ぶつぶつ言いながら武器を磨いている。思考が悲しみ一色だ。どうする? 話しかけるか?


 元々ストレス過多だったところに、拠り所としていた権田が死亡し、色々気を使ってくれていた麗亜が消えて、心が折れた感じだ。


 そして、やはり、危惧していたことが起きてしまう。


 お昼休み後のオーガとの一戦目に、精神錯乱状態になってしまった佐伯が、加世子に襲いかかったのだ。


『おい、佐伯っ』


 俺の声に佐伯が少しビクッとした直後、佐伯は加世子に喉を切り裂かれていた。


(加世子、相変わらず躊躇しないな。電光石火の早技じゃないかっ!)


 加世子たちの前にいた絵梨花が事件に気づいたときには、すでに佐伯は死亡していた。


 そして、俺は何と次に山口に臨終憑依するのであった。


――  データ

 キョウコ 外科医11 手術

     (忍術、弓術、拳法、

      柔術、盗賊技)

      点滴、輸血

 カヨコ  小悪魔10 治癒

     (鍛治、刀技、大工)

      デトクス、キュア

 サタケ  隠密6 絶対回避

      ヘイト

 エリカ  エロ聖女10 悩殺技

     (応援歌)

      チャーム、キュア、クレイジー

 キリキ  殺人鬼(死神の使い)11 殺人技

     (臨終憑依、一念通天、剣術、

      ボクシング、槍術、空手)

      キル、パージ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る