第12話 ベストフレンド

―― 覚えていない男の憑依視点


 俺は全く覚えていない男子生徒に憑依していた。四班の男だ。憑依した人物は、自分の容姿を頭の中でよくイメージするので、憑依した人物の容姿は分かる。だが、自分の名前は考えたりしないので、名前は分からない。


 憑依した男の視界の中で、懐かしい顔が山口と言い争っている。俺とクラスで一番仲がよかった佐竹だ。


「山口、お前、また桐木を殺そうとしたら、俺はもう手を貸さないからな」


「殺す訳ないじゃないですか。スキルがまだよく分かっていなくて、手加減の仕方が分からないんですよ。それよりも、桐木さんはこっちを殺す気でしたよ」


「お前が俺が話す前に攻撃するからだっ。俺が最初に話す約束だったろうが」


「カウンターが勝手に作動したのですよ。桐木さんが何か仕掛けて来るつもりだったのではないでしょうか」


「カウンターは抑えとけよ。まずは俺が一人で話して来るから、ここで待っていろよ」


 そう言い残して、佐竹は三班の方に歩いて行った。


 山口が佐竹の姿が見えなくなるまで見守っている。なぜか憑依している男が山口を恐れている。他の三人も落ち着きがなくなって来た。


「ふう、やっと邪魔者が居なくなりました。さて、あなたたちには、私のために死んでもらいますよ」


 山口の姿がゆらりとしたかと思ったら、奴の手刀が憑依していた男の心臓を貫いていた。即死だ。


 俺は次々に憑依先を変えるが、変わった瞬間に即死させられた。全く何もできず、ただ殺されるだけだった。あっという間だった。


(こいつっ、全員殺しやがった!)


―― そして、俺は佐竹に憑依した


『佐竹、俺だ、桐木だ』


「桐木?」


 佐竹がキョロキョロしている。


『俺のスキルで、次に死ぬ奴とこうやって荘厳な声で話ができるんだ』


「桐木、やはりさっきので死んでしまったのか!?」


『いや、違う。ちゃんと生きている。こういうスキルなんだ』


「生きていたか。よかった……。でも、何だか変なスキルだな。待てよ。次、俺が死ぬってこと!?」


『そうだ。だが、死を回避できないわけではない。これから一緒に回避していこう。それで、まずは情報の共有だが、さっき山口がお前の班の男子生徒を全員殺したぞ』


「マジかっ、あいつっ」


 佐竹が元に戻ろうとした。


『おっと、戻っても殺されるだけじゃないか?』


 佐竹は止まった。


「あいつには俺は殺せないはずだ。俺には『絶対回避』のスキルがあり、物理攻撃は効かないんだ」


 そう言いながら、佐竹はステータスを閲覧した。


 氏名 佐竹直人さたけなおと

 水準レベル 5

 役割ロール 隠密

 技能スキル 絶対回避

 魔法スペル ヘイト

 称号タイトル 隠密同心


『四人殺して、山口はレベル10になったはずだ。恐らく何らかの魔法を習得したのだろう。ロールが分かれば、何を習得出来るかはナビゲーターが教えてくれるぞ』


「山口のロールは『魔王』だ。そうか……。俺を殺せないうちは、俺と敵対しないようにすると思っていたが、油断した。あいつらには申し訳ないことをした」


『仕方ないさ。もう半分以上死んでるんだ。全員生きているのは、委員長と市岡のところの一班だけだ。二班は恭子以外は全員死亡、三班も二人死んだ。お前の四班も四人死んで、俺の五班も四人死んだ』


「そんなにかっ!? 桐木、絵梨花ちゃんと同じ班で羨ましかったが、他の男子はどうした? 初日に絵梨花ちゃんが膨大なポイント貸しをしてくれたので、何人か死んだのだろうとは思っていたが」


『絵梨花を襲おうとして、俺を殺しに来たので、返り討ちにした。今、五班にいる俺は、絵梨花を守ることしか考えていないちょっとサイコな俺だ。かなり極端な性格で、殺人技を繰り出して来るから気をつけてくれ』


「俺にも手加減なしで向かって来たので驚いたが、あれは桐木ではないのか?」


『感情が抜けた俺だ。今、佐竹と話している俺はまともだが、あいつはヤバいから近づくなよ。俺が戻っているときは大丈夫なんだがな』


「本当におかしなスキルだな」


『色々あるんだよ。で、山口はヤバいから、佐竹、俺たちと一緒に行動しないか』


「絵梨花ちゃんと一緒ってことか。それは願ってもないことだが、サイコなお前に殺されないか?」


『絵梨花に手出ししなければ大丈夫だ。さっきサイコな俺が権田を殺してしまってな。それで、絵梨花も気をつけるって言ってくれたから、そうそう殺しはしないと思う。ちなみに、俺のこのスキルについては絵梨花も知っている』


「サイコな桐木か……、危ねえやつだな……。ところで、お前、さっきから絵梨花ちゃんを呼び捨てにしているな。許せんぞ」


『サイコな俺が頑張った結果だ。お前も頑張れ』


「くそっ、この数日、俺は山口の相手で、お前は絵梨花ちゃんの相手か。ムカつくな」


 ムカつかれるのは心外だったので、俺の苦労を知ってもらうため、俺は佐竹に十六人がどうやって死んでいったかを説明した。


「なるほど。お前もそれなりに大変だったということか。で、どうやってお前たちに接近すればいい?」


 佐竹は再び五班の方に向かって走り始めた。


『俺が一緒にいる間は俺がガイドする。いなくなったら、お前は死なないということだから、好きにすればいい。そうだな、まず、無難な加世子……、あれも無難じゃないか。絵梨花がいいか。絵梨花に遠くから話しかけよう』


「分かった」


―― 佐竹の死亡フラグは回避出来たようだ。次に俺は佐伯に臨終憑依した。

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