人生は神ゲーだ。

赤木悠

Q.別の人生を送れるとしたら、どんな人生にする?

『人生は神ゲーだ』と言った奴がいるらしい。


 誰しもが『人生』という大長編ゲームの主人公であり、ルートは無限で圧倒的自由度で進められるのだと。


 だが、ここまで生きてきた俺にとっては「人生はクソゲー」だった。ルートは自由と言っても、自分の意志だけで進めていけるわけじゃないし、自分にとって理不尽なイベントばかり。攻略本なんて物ももちろんない。さらには、このゲームはリセマラ不可で、人によってスタート時の才能や親ガチャボーナスの差が大きすぎる。

 本当に、運の要素が大きすぎる。


 そして、人生が終わりに近づいた今でこそ思うのだ。


 人生に正解のルートが決まっていたら、自分でルートを選べるだけの才能を持っていたらもっと良い人生が送れたのではないか、と。



 まあ、このは一度きり。やり直す生まれ変わることはできないのだから。今更、こんな妄想をしても仕方が無い。

 俺は、独房の中で死刑執行の時を絶望しながら待っていた。





 死刑執行の前日、そいつは突然現れた。

 鍵のかかった牢屋の中、目を覚ました時に枕元に立っていたそいつは、男かも女かも分からなかった。黒い服で覆われていて、顔も体つきもよく分からない。そいつは、自分の事を【人生屋】と名乗った。


「初めまして。人生屋と申します。今世での人生に絶望している方に新たな人生を提供する仕事をしております」


「どこから、入ってきたんだお前」

「そんな些末な事はどうでも良いではないですか。とはいえ、見たところ貴方様は今世の人生にひどく絶望なさっているご様子。どうでしょう?新たな人生をやり直すというのは?」


 そう言って、奴は一枚の契約けいやく書を見せてきた。


【契約書】

【契約内容および注意事項】

・この契約書にサインすることであなたは人生をやり直すことができます。

・あなたは寿命を全うするまで何度も別の人生でやり直すことができます。

・生まれ変わる人物は毎回ランダムです。同じ人物として人生を送れる可能性もありますが、全く別の人物、人生として生まれ変わり、何度もやり直す確率が高いです。

・人生をやり直す度にあなたの記憶はリセットされます。

・この契約後の最初の一回はサービスで好きな人生を選ばせてあげます。

・契約破棄には、契約者本人と契約書を提示した人生屋の両方の同意が必要です。


 そして、紙の右下に署名欄があった。




 普通だったらこんな怪しさ満点の奴と契約を結ぶ奴なんていないだろう。だが死刑が迫り絶望している今の俺にとっては、こいつがどういう奴で、怪しくないかなんてどうでも良かった。今のこのクソみたいな人生を一度だってやり直せるならば、何でも良い。すがれるものには縋りたかった。


「分かった。あんたが何者であれ、人生をやり直せるならやり直したい。ただ、生まれ変わる前に一つ聞きたい。何で俺にこんな機会を与えてくれるんだ。」



 人生屋は微笑んで言った。


「気にしないでください。ただの暇つぶしですから。ささ、ここにサインを。ああ、最初の人生がどんなものが良いかは、サイン後に口頭で私に言ってくださればOKです」


 俺は少し考えてから、奴の出した契約書にサインをして、こう言った。


「わかった。じゃあ、『      な人生』を送らせてくれ」


 その瞬間、世界がひっくり返った。力が抜け、まぶたが落ちる。

 薄れゆく意識の中、遠くでカチチチチという時計の針が高速で回っているような音が聞こえた気がした。

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