第2話

家への帰り道、職場での暗い気持ちを持って帰りたくなくてバス停のベンチに座ってみる。

時刻表を見てみるとバスが10分後にくる。それまでには立ち上がらなければ。


体の汚いものを出すイメージでふーっと息を吐く。

全て吐ききったら3秒息をとめる。

すぅっと胸いっぱいに息を吸う。

その際に光を吸い込むイメージで。

胸いっぱいに吸い込んだら3秒息をとめる。

繰り返し。


ネットで知った落ち着く呼吸法。

効くのかどうか、効いているのかどうかわからないけど、どうせ呼吸はするんだし、呼吸は無料だし。


次は地球の中心につながるイメージで、と言っていたけれど正直そんなイメージなんてわからない。教科書に載っていた地球の核を思い出す。そしてなぜだか梅干しを思い出して地球の核はすごく硬いのかな。なんて考える。グラウンディングなんてとても無理だ、と諦めてとりあえず呼吸を意識する。

頭がスーッとしてきた感じがして時計を見る。ベンチに座って5分。意外と時間は経っていなかった。

ポン、と肩に手が置かれた。すごく驚いて振り返ると産まれたばかりの娘を抱いた妻だった。

「バス停で何してるの?驚いたよ」

「うーん、ちょっと休憩。そっちは?」

すやすや眠っている娘に触りたかったが、手を洗っていないので我慢する。頬に涙の跡があった。

「この子がグズついていたから少しお散歩。もしかしたら帰ってくるかなって思ってたんだけど、ちょうど会えたね」


立ち上がり一緒に帰路につく。

「バス停で目をつぶってるからどうしたのかと思った」

「グラウンディングしてたんだよ」

「なにそれ?スポーツの用語?」

「ちがうちがう、なんていうか…リラックスする呼吸の仕方…かな?」

「え?何かの宗教?」

「ちがうちがう」

他愛のない話。もしもバス停で一息ついてなかったらこのひと時を楽しむことができなかったかもしれない。

家が近くなる。


「家に着いたら起きるんだろうね」

「そうだね〜、今夜もがんばりますか」


実はまだ暗い気持ちが残っているが、とりあえず置いておいて、今に集中できそうだ。

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