第8話 クチバシ研究所VS江藤家(対立)

「それで、今更何の用だ?成鶴木。」

江藤家屋敷内_


「…どうしようも無く手に入れたい宝物ってあるやん?」

「昔から口の減らない奴だな、お前は。」

玄関の大扉の先に広がる石のタイルが敷き詰められた広場は、

よくパーティーでも使われるからか、改修工事が頻繁に行われ

今もその大きさは何倍にも膨れ上がっていっている。

そんな広場で、雲一つ無い晴れ渡った空の下、



因縁に終止符を打つべく、トップが出向く。


8月2日 13時09分_


江藤家本邸にクチバシ研究所本部研究員、

成鶴木、三木が侵入。

両者ともに拳銃二丁のみで乗り込み、警備員計2名が

意識不明。

同時に、江藤春、江藤夏那が対応に当たる。



尚、同刻に報告された情報により、

クチバシ研究所のメンバーは三人を残し江藤家に

よって確保。

これが正真正銘クチバシ研究所との最後の戦いとなる。


「中学の頃からその腐った性根は変わらないな。」

「へっ…よく言う。今回の騒動の半分も自業自得だろ。」

成鶴木はズボンとベルトの隙間に挟んでいた拳銃を取り出し、

春に向ける。

「死んでもらうのが一番だよな?お前の持論なら。」

だが、春も既にエモノは用意していた。

「生憎だが…今の状況でお前の勝率は12%以下だ。

分かるだろ?俺は関わった人間を誰よりも、本人よりも

よく理解しているんだ。」

春がそう言って自分の下にある石のタイルを思い切り踏んだ。

ピッという謎の機械音とともに、成鶴木の踏んでいたタイルが

吹き飛び、地面から何本もの鋭利な刃物が姿を現す。

成鶴木はタイルの爆発を免れたものの、

飛び出した刃物の先端に肌が触れ、浅い切り傷が数か所に

できてしまった。

「いっつも邪魔ばっかしやがってクソが。」

苛立ちを少し持ったのか、成鶴木は歯ぎしりさせながら、

拳銃を春に向ける。

だが再び、春のトラップによって石のタイルが吹き飛ぶと同時に

煙幕が広がる。

「チッ…目眩ましか…。」

「いや?どうだろうだな。」

煙幕の中、体制を立て直そうと身を屈めた彼の後ろから、

横腹に重い蹴りが突き刺さった。

骨が折れるようなミシミシという音とともに、

成鶴木が広場の上を激しく転がる。

しかし、それで攻撃は終わるわけがなく、

春は新たなトラップを起動する。

成鶴木が転がっていく中、いきなり広場のタイルが

地中から伸びてきたアームのようなものに押し出され、

ちょうどそのタイルまで転がった成鶴木は青空の下で

軽く吹き飛ぶ。

その隙を見て、続けて春の蹴りが成鶴木の顔面に直撃した。

「ぶほッ…」

「…職員だよりなのが目に見えるな。」

煙幕が徐々に晴れていく。春の靴の踵は成鶴木の顔に

見事なほどにめり込んでおり、顔が丁度足の下に隠れてしまっている。

「呆気なかったが、じゃあな、成鶴木。」

成鶴木の顔から離れた春の踵が、動かないまま息を吐き続ける

彼の顔を目掛けて、振り下ろされた。


しかし、次の瞬間には、春の体にある異変が起きていた。


「…何だ…?銃痕?」

「ヒヒッ…やっぱり気づいてないなぁ、春。」

脚を思い切り振り上げた春はその場で体の至るところから

血を流し、その場でうずくまった。

春の動きが止まったことを確認した成鶴木はムクリと起き上がると、

うずくまったままの春の顔面を思い切り正面から蹴り飛ばす。

「がっ…」

「効くやろぉ?俺の開発した新兵器、〝カラスグモ〟

煙に紛れて真価を発揮する毒ガスみたいなもんや。

春くんが最初に言うた【俺よりも理解してる】っちゅう

言葉で確信したわ。どうせ煙幕仕込んどるて。」

仰向けになった春に近づき、

ガラ空きになった腹を何回も、その傷一つ無い足で

踏みつけ始めた。

「お前はッ、何もッ、学んどらんなぁ!」

「ガッ…ゲホッ…」

「お前の世話係してた寺西もッ!娘渡さんかったから

死んだし!賢咸のサンプルもッ!何も成果上げとらんしなぁ!」

優位に立った事により、どんどん口からこぼれていく言葉は、

彼が隠蔽してきた数々の悪事と、防げなかったものへの屈辱への

追い打ち。

「大丈夫やで、お前…寺西のオバハンに悪い思ってるんやろ?」

「……。」

「知ってんねんで?アンタがミスをする度に

その尻拭いを文句を言わずに何も望まずにやりこなした

信頼できる人間を、自分がダチと旅行言ってる間に

殺されたもんなぁ?行かんかったら守れたかもしれん

ゆうて、まだ後悔しとるんやろ?」

「黙れ…。」

「あ、言うとくけど寺西さんの娘さん、うちの岸半田に

無理やり子供産まされてん。初耳やろ?」

「……!!」

春の顔が少しずつ歪んでいく。

それを待っていたかのように涙をこらえようとする

春の顔を、成鶴木が蹴り飛ばす。

「ええなぁ!その顔!無念な感情抱いてくたばる顔!

最高にオモロイやんけ!」

知らなかった事実と、掘り返された記憶に蝕まれながらも、

必死に立とうと地面に手をつき、タイルのトラップを作動させる。

成鶴木の足元のタイルが少し光ると、

成鶴木の体におよそ300万ボルトの電気が放たれる。

「ガッ…おっ…こっ…」

「今は…ただ清算のためにお前を片付ける。」

(…あの涙をこらえたんは演技…!あのときの煙幕…

まさか催涙効果か何かで…!)

白衣が黒焦げになり、成鶴木の意識がかろうじて残った。

帯電性のスーツを着ていたのにも関わらず、

途中で受けた煙幕により、機能に支障が生じ、

電撃を全て受け流すことが出来ず、大半を喰らってしまったのだった。


「おま…ぜ…す」

「知ってるか?成鶴木、俺が顔を歪めるのは絶望するときじゃない。」

いまだフラフラと揺れる成鶴木の頭が春にガっと掴まれる。

春は残ったもう片方の拳を思い切り握りしめ、

思い切り顔を殴りつけた。

「あの世で謝れたら聞いてやるよ、お前のクズ話。」

声1つ発しなくなった成鶴木を確認し、

春は石タイルの上で寝転がった。



「…夏那はどうなったのやら…。」



「三木…?って言ったけ。」

ボタボタと赤い血が真っ白なカーペットを

赤に染めていく。


8月2日 13時14分_


屋敷の中央の講堂で待ち伏せていた研究員の三木と

江藤家長女、江藤夏那が接触。




しかしその7分後の13時21分_

夏那の隠し持ってた毒針を刺され、




    大量に吐血し、死亡した。












これにより、クチバシ研究所のトップ2名が脱落。




ここからは柄崎姉妹、賢咸本体、岸半田の

3大勢力の衝突により、この騒動に決着がつくのだ。











「…そうですか…敗れましたか。」

岸半田はただ1人残された署長部屋の中でポツリと呟き、

少し悔しそうに顔を歪めたのだった。




                 続く。

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