マネキンとUMA

藍田レプン

マネキンとUMA

 私が中学生のころに体験した話である。


 その日、私は家族と共に、大阪の港に来ていた。遊覧船に乗るためである。

 ガレオン船を模した大きな遊覧船に乗ると、私は出港時間まですることも無いので、甲板に出て家族と一緒に波止場と船の間で揺れる海面を見ていた。

 大阪の海はお世辞にも綺麗なものではなく、濁った深緑色の海面に、様々なゴミが浮いていた。

 その中に、ひとつ奇妙なものがあった。淡いピンク色の、縦長の曲線で構成された、大人ほどの大きさをした物体が半分沈むように浮かんでいたのだ。そのころから私は『奇妙なもの』が好きだったので、あれはもしかしてUMA(未確認動物)ではないのかと心をときめかせた。

「ねえ、お父さん。あれ、あれ見て」

 私は隣に立つ父に、そのピンク色の物体を指さして教えた。

「あれ、UMAじゃない? なんだかワニみたいに見えるし、ねえ、あれ」

 私の声に、他にも甲板に上がっていた複数の客がなんだなんだ、とざわめきだした。写真を撮っている者もいる。

 私の発言で場が盛り上がったことに、父はバツが悪そうな顔をして、その物体を凝視した後、違う、と冷静に答えた。

「あれはマネキンだ」

 私は目が悪かったので、甲板の手すりにつかまり、再度よく目を凝らして眼下の物体を観察した。

 よくよく見ると確かにそれは、首や手足の一部が欠損した、汚れたマネキンの胴体だった。誰かが不法投棄したのだろう。

 UMAの正体がマネキンだとわかると、周りの客たちもその偽UMAから興味を無くし、散り散りに去っていった。

 マネキンか。

 まあそんな簡単にUMAが見つかるわけもないし、大阪湾のしかもこんな陸に近いところで、遭遇できるわけもないか。

 それでもなんだか諦めきれず、私は一人で甲板に残り、その薄汚れたマネキンを見続けていた。


 薄曇りの空に、耳に痛いほどの汽笛が鳴り響く。

 船が出港し、汚い海に汚いあぶくを立ててゆっくりと離岸する。

 マネキンが少しずつ遠ざかる。

 その瞬間、海面に突き出た大きな顎(あぎと)がばくり、とそのマネキンをひと呑みし、海面からマネキンは姿を消した。

 甲板に出た客たちは、みんな沖の方を見てはしゃいでいる。

 その『なにか』を目撃したのは、私だけだった。

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マネキンとUMA 藍田レプン @aida_repun

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