宝石が奏でる不思議な世界

色石ひかる

第1部

第1章 ぬいぐるみとナクユ

第1話 喋るぬいぐるみ

「ヒントのないパズルを解いているみたいよ。私に対する挑戦かな」

 目の前で2体のぬいぐるみがにらみ合っているけれど、正確には本物のぬいぐるみではない。家に届いた郵便物を開けて、宝石をさわったらテーブル上に出現した。パズル業界では若手四天王と呼ばれている私でも時間のかかる高難易度パズルね。


美奈みなさんが困っているにゃ。説明すればパズルを解いてもらえるにゃ」

「俺なら感覚的にわかる。並戸なみとに説明は不要だ。宝石を手にとれば済むことだ」

 言葉を話して動き回っているけれど触ることはできない。仮想空間のゲームは日々進歩しているけれど、ゲームには装置が必要よね。周囲をみたけれど関連装置は存在しない。20代半ばで初めての体験だった。


「お願いだから私の話を聞いてよ。パズルを解くために何故宝石が必要なのかな。パズルも事前の情報が大事よね。順序立てて説明がほしい」

 小さい頃からパズルが大好きだった。県内にある大学に通いながらパズルクリエーターのアルバイトをしていた。大学を卒業するとアルバイトが仕事になって、そのまま大学時代と同じく市内に住んでいる。


 パズルの話題はすごく興味があるけれど、私を誘ったのはぬいぐるみだった。

「キリリキが話を急かすからにゃ。私たちはナクユから来たにゃ。特別な課題をパズルで解決するにゃ。そのために美奈さんの力が必要にゃ」


 可愛らしい声のぬいぐるみが目をつり上げた。頭も胴体も菱形で作られていてピンク色の猫にみえる。ふわふわした毛並みと長い尻尾もあった。菱形の体にマス目が書かれていて、マス目にある数字は青色と白色で目にとまる。


「ロクヨの話は遅すぎる。早くナクユへ行く必要があるぞ。感覚的にわかるだろ。並戸は宝石を手にとってくれ。ナクユに向かうぞ」

 私を呼び捨てにするぬいぐるみがキリリキくんね。人間ならやんちゃな男の子に思えた。全身は金属の光沢があって4角を合わせた形にみえて、白マスと黒マスの模様がある。小さい男の子が好きそうなロボットを思われる姿だった。


 先ほどから話が進まなくて、キリリキくんとロクヨちゃんを離そうにも触れなかった。私を襲う素振りはなくて危害はなさそうだけれど、このままの状態では何も変わらない。パズルが私を待っている。話を進める必要があった。


「私が宝石を使ってナユクに行くのよね。そこでパズルを解けば特別な課題が解決できる。どのようなパズルか楽しみね。話したい内容はあっているかな」

「その通りにゃ。特別な課題は私とキリリキで別々にあるにゃ」

「並戸も少しは感覚的にわかってきたか。まずは目の前にある宝石だ。手にとればナクユに連れて行けるぞ」


 キリリキくんは透明な宝石を指さす。1円玉くらいの大きさがある宝石はダイヤモンドを思わせる透明感で、ふくらみのある楕円形状はあめ玉を思わせた。

「透明できれいだけれど普通の宝石よね。パズルの問題でも隠れているのかな」

「今はナクユへ行くのが重要だから、宝石に触ればわかる。並戸は何をためらっている。感覚的にわかるだろ」


 触っても平気かわからないけれど、宝石はパズルと関係がある。私には充分な理由で、パズルのためなら何でもできる。引き寄せられるように宝石を手にとった。

 宝石がまばゆい光に包まれる。瞬間的に目を閉じて、少ししておそるおそる目を開けると青色の宝石がついたペンダントに変化している。金色のチェーンを手にとって眺めると、青色の宝石と思った裏側は赤色の宝石だった。


「今のは何? ペンダントも不思議だけれど、宝石に色がついている」

「感覚的におかしいぞ。本来は青色の宝石のはずだ」

 キリリキくんが不思議がっていた。


「これであっているにゃ。私は赤色で間違いないにゃ。ペンダントになったのは着けやすくするためにゃ」

 逆にロクヨちゃんには慌てている雰囲気がない。キリリキくんも状況が把握できたのか視線を私へ向ける。


「そのままペンダントを身につければ、パズルを楽しめる世界に行けるぞ」

「パズルと関連するペンダントだけれど、ペンダントでは特別感がないよね。せっかくだからナクユのジュエリーと呼ぼうかな」


「ナクユのジュエリーにゃ。わかりやすい呼び名にゃ。私も同じく呼ぶにゃ」

「もうひとつ知りたい。ナクユについて教えて、パズルとの関連が謎のままよ」

「あとで説明する。ナクユへ行くのが先だ。では行くぞ」


 キリリキくんはせっかちかもしれない。情報が少ないけれど、私に解けないパズルはなかった。ナクユのジュエリーを首につけた。少しするとキリリキくんの目が赤く光り出す。


 周囲が白くぼやけて視界が狭くなって思考も鈍くなった。睡魔も襲ってくる。意思に反して体の力が抜けていって、何か話そうにも唇が動かなかい。意識が薄れていく中で、キリリキくんの赤い目がいつまでも光っていた。

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