第44話 きっと、いい未来になる。してみせる

 パーティの盛り上がりが最高潮を過ぎた頃――


 俺たちはパーティホールの外、人気ひとけのないバルコニーで休憩していた。


「はー……楽しかったけど、疲れちゃったねー……」


 パーティの参加者はそれなりの数がいて、俺たちも身内だけで楽しく踊っているわけにもいかなかったのだ。


 ダンスの誘いを受けたり断ったり。面倒なことこの上ない。


「まったくだ。数が多いからな、この先、付き合う価値のありそうなやつを選別するだけでも一苦労だった」


 くすくす、とレナが笑う。


「カインくん、ほとんどお姉さんについて回って、ダンスの誘いを断ってただけだよ?」


「仕方あるまい。アリアと付き合う価値のあるやつなどいなかったんだからな」


「そのフォローに、オレたちが逆に苦労してたんだけどな……」


「本当、カインくんってお姉さんが大好きだね」


「……まあ、ほどほどにな」


 控え目に言ってやると、意外そうにレナもグレンも目を丸くする。アリアはいつも以上に強く抱きついてくる。


「あははっ、カイン、やっと認めた~。嬉しいな、嬉しいなっ」


「やめろアリア。胸の勲章が当たって痛い」


「わわっ、ごめん。すぐ外すね」


「えっ、外しちゃうんですか? これ、すごい勲章なのに」


「でも邪魔だし……あ~、でもでも外したら王様に失礼かなぁ~?」


 レナの指摘に、困ってしまうアリアである。


 俺は苦笑して、すぐ自分の勲章を外してみせる。


「すごい勲章とは言うがな、お前たち、名誉騎士の称号とこの勲章がなにを意味しているか、ちゃんとわかってるか?」


「えっと、すごいことした分のご褒美?」


「まあそうだが、続きがある。偉業を成し遂げたその力で、この先もこの国に仕え、この国のために戦えと言われているようなものだぞ」


「それがなんか悪いのか? 名誉なことだろ?」


「名誉ね……。自由を失うことが名誉か?」


 グレンは押し黙ってしまう。俺の言っている意味を理解しようとしているらしい。


「それはそれとして、退屈しのぎにゲームでもしないか?」


「珍しいね。カインくんから誘ってくれるなんて」


「どんなゲーム?」


 俺は自分の勲章をみんなに掲げて見せる。


「この勲章メダルを、誰が一番遠くに投げられるかのゲームだ」


 みんなは揃って「えっ」と固まった。


「おいおい、それはさすがにまずいんじゃ……」


「まずは俺から行くぞ!」


 俺は全力で勲章メダルを夜空へ放り投げた。


「うわあ、こいつ本当に投げやがった!」


 グレンは慌て、レナは声も出せないほどびっくりしてしまっている。


 唯一、アリアだけ、意図を理解したのか笑った。


「そっか。そうだよね、カインが正しいよ! 勇者の力は、世界中の――人間も魔族も関係なく、平和に暮らしたいって人たちのために使うべきだもんね。この国だけに仕えてたんじゃダメなんだよね!」


 アリアも勲章を外すと、俺と同じように投げ捨てた。


「わー!!」


 ますます大慌てのグレンとレナだ。


 アリアは悪戯っ子みたいな笑みを浮かべる。


 そして俺は――。


「ふふっ、はははははは!」


 本当に久しぶりに……それこそ前世ぶりに、大きな声で笑った。


 するとレナとグレンは落ち着きを取り戻す。


「カインくん、そんな風にも笑うんだ……」


「初めて見たな……」


 やがてグレンは肩をすくめる。


「でもまあ、カインの言うことも、もっともかもな」


 レナも小さく頷く。


「はい。もしこれに縛られたら、この前みたいに勝手に動いて、勝手に助けるみたいなことも、できなくなっちゃうかもしれませんもんね」


 ふたりとも胸の勲章を外すと、さっさと放り投げる。


 勲章は月明かりを反射して、銀色に輝きながら闇に消えていく。


 代わりに、光り輝くような仲間たちの笑顔がある。


 それらのほうが勲章などより、何十倍も価値がある。


「でも、ちょ~っともったいなかったかも?」


 今更に苦笑するアリアだが、俺は心配無用とばかりに微笑みを向ける。


「気にするなよ。なにかを捨ててこそ手に入る未来もあるんだ。そしてそれはきっと、いい未来になる。……してみせる」


 誓うように言うと、アリアはまた笑う。夜空の月より明るい笑顔で。


「うん、そうだね。そうしよう」


 ちなみに後日のことだが、勲章を投げ捨てたことをエミリー教師に知られ、めっちゃくちゃに怒られた。




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第1部最後まで読んでいただいてありがとうございます!

第2部は今後、機会が巡ってきましたら書く予定ですが、確約はできません。

ひとまず完結ということで、ここまでお付き合いいただけましてありがとうございました!

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最強のラスボスが逆行転生したら宿敵の美少女勇者の弟だった件 ~雪辱を果たすため力を蓄えますが、やつは俺の獲物だからとあらゆるピンチから守っていたら溺愛されて困っています~ 内田ヨシキ @enjoy_creation

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