第39話 お姉ちゃんには、敵わないな……

「行くぞ!」


 合図とともに、俺たちは戦闘を再開した。


 体が軽い。自重を感じないほどに力がみなぎっている。魔力なしで、敵を殴り倒せるほどに。


 身体強化能力に目覚めたのか?


 うぅん、違うと思う。


「!?」


 声というより思考が流れ込んできて、俺はアリアに目を向けた。アリアも同じように目を丸くしている。


 その一瞬が隙となり、俺は敵の接近を許してしまった。死角からの一撃を受け、膝をついてしまう。


 危ない!


 また思考が流れ込んだかと思うと、俺にトドメを刺そうとした敵が魔力で撃ち抜かれていた。


 アリアの指先から発射された、圧縮魔力だ。


 アリアの驚きが伝わってくる。そして俺の納得も、アリアに流れているだろう。


 この能力は『血の共鳴レゾナンス・フィール』だ。


 学園の図書館で読んだ、過去の勇者たちの覚醒能力の記録。その中にあった、血の繋がった勇者同士でのみ発動する力。


 互いの能力を共有できる。


 俺はアリアの身体能力と技を。アリアは俺の魔力と魔法を。


 そしてなにを考え、なにを感じているのかもわかる。


 痛みも、苦しみも、勇気も、闘志も!


「レナ、グレン! 前は俺たちに任せろ!」


 もはや俺とアリアには、目配せさえ必要ない。一緒に飛び出していく。


 ふたりが、ひとつになったような感覚だ。


 ふたりの視界を共有して互いの死角を補い、戦場を掌握。豊富な戦闘経験からくる俺の判断が、俺の魔法とアリアの技を最適化して敵にぶつけていく。


 ヴァウルどもが分体を何体繰り出してこようとも、斬り、蹴り、撃ち、砕く。


 分体の復活速度より、こちらが倒すほうが早い。


「ぐぅう、強い……! しかし、どんなに凄まじい連携を見せたとしても、所詮はふたり! 数十人の私に勝てるわけがありません!」


 焦りからかヴァウルは、レナやグレン、ゾールたちに当てていた戦力を集結させた。俺とアリアを物量で押し潰すつもりだ。


 確かに、この数には太刀打ちできない。


 でもチャンスだね?


 そうだ!


「グレンくん、下がって!」


「レナ! ゾールたちと一緒に防壁を張れ!」


 俺たちの指示を受け、ふたりは後退する。


「俺たちはこの瞬間を――」


「――待ってたんだよ!」


 俺とアリアは身を寄せ合い、ふたり分の魔力を集中して練り上げる。


「まとめて消えてなくなれ!」


二重ダブル!」


閃爆ブラスト!」


「「――魔砲キャノン!!」」


 同時に放たれたふたつの魔力波動が、交差して渦を巻く。


 目の前の分体たちを刹那のうちに飲み込んで突き進み、集団の中心で巨大な爆発を巻き起こす。


 巨大に膨れ上がっていく高熱の閃光が、集結したヴァウルたちをすべて焼き尽くす。


 火傷するほどの爆風が吹き荒ぶ中、俺たちは見た。


 生き残りが、ふたり。魔力防壁を張り、かろうじて消滅を阻止した者がいる。


「はっ、ははは……っ。まさ、か。ここまで追い詰められようとは……しかし、あなたたちの魔力はもう無い! 私の勝ちだ!」


 再び分体が生み出されていく。だが、そんなものに俺たちは目もくれない。


 もう倒すべき本体は見えたのだ。


 俺たちの狙いは、今の一撃を耐えられるやつを見つけることだったのだ。


 そして俺たちの力は、魔力だけではない。


「グレン! 剣を貸してくれ!」


「おぉ! 使え!」


 呼びかけに応じ、躊躇いなく剣が投擲される。それを空中でキャッチ。そのまま本体の一方へ向けて、斬りかかる。


 アリアも同時に、もう一方の本体へ飛びかかっていた。


 それぞれの剣が、燃え上がるように聖気をまとう。


ツイン!」


聖光ブライト!」


「「破斬スラッシュ!!」」


 魔将ヴァウルの肩口から、鋭く斜めに斬りつけた。深く食い込んだ瞬間、剣の聖気が爆発。


 ヴァウルは内側から爆散した。


 バラバラに弾けた肉体が塵となって消えていく中、首だけがごろりと地面に転がる。


「バカ、な……数十人の私が、たった、ふたり、に――」


 信じられないといった表情のまま、その首も塵となって風に流される。分体も、次々に消滅していった。


「……バカめ。お前は、ずっと独りだった。そんなのが、ひとつになった俺たちに、勝てるものか」


 そうだろう?


 アリアに目を向けると、笑顔で大きく頷いてくれる。


 戦いの終わりを実感したからか、俺とアリアの金色の聖気は消える。ふたりの共有も切れる。


 けれど、そんな能力などなくとも、俺には今アリアが感じていることも、次にすることもわかる。


「やった……! やったよ、カイン! わたしたち勝てたよぉお!」


 ほら。こうやって大げさに喜んで、俺に抱きついてくるのだ。


「ふん、魔将ごときを討ち取ったくらいで喜びすぎだぞ。でも……まあ今日は、一緒に喜んでやってもいい……」


 そして、きっとアリアも、俺がどう感じているか知っている。


「はいはい。カインも嬉しいんだよね、お姉ちゃん、わかってるよ~!」


 ほらな。まったく……。


 お姉ちゃんアリアには、敵わないな……。




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