第26話 わたし、なにかやらかしちゃいました?

「ふむ……」


 俺は野外で新聞を読みながら唸ってしまった。


 王都の第6騎士団が、魔王ゼートリック4世傘下の魔将を討伐に出たそうだ。


 あの第6騎士団のことは俺もよく知っている。絶対に忘れることはない。


 この俺が――魔王ゾール自らが、恨みを晴らすために皆殺しにしてやったのだから。


 だが、ただ虚しいだけだったな……。


「あの~、カイン・アーネストくん? ここでなにしてるんですか? SクラスとAクラスの試験は来週ですよね?」


 メガネの女教師エミリーに声をかけられて、新聞から顔を上げる。


「Dクラスは今日だろう? 俺はそれを見に来ただけだ」


 俺の視線の先には、学園の管理する人工ダンジョンの入口が複数ある。Dー1教室の各パーティが別々の入口から入っていったばかりだ。


「いやあの、Sクラスは授業中ですよね? 教室に戻ってもらえると~……」


「気にしないほうがいいんじゃないか? 俺は最近、グレンと仲が良くてな。ラングラン家について、エミリー先生はどう思う?」


「あ、はいっ。気にしません! 私、長い物には巻かれる主義なので~」


 そそくさと立ち去り、エミリー教師はダンジョンの入口のほうへ戻った。


 魔法を用いて、試験中の生徒の状態をモニターしているようだ。


 俺は再び新聞に目を落とし、試験終了を待つ。


 2時間も経つ頃、ひとつのパーティが帰還した。


「ひぃい~、ダンジョン攻略ってこんな難しいの~?」


「敵、強すぎぃい~……」


 最奥に置かれているという、攻略の証のメダルは回収してきたようだが、そのパーティはみんな満身創痍だった。


 その後、数分おきに次々にパーティが帰還する。そのどれにも、アリアの姿はない。


 残るパーティは、あとひとつ。


 なにをしているんだ、アリア? お前の実力なら、誰より早く攻略できるだろうに!


 俺が固唾を呑んで様子を窺っていると、最後に戻ってきたパーティに動きがあった。


「先生、ちょっとおかしくないですか!? あんなバカ強い敵がいるなんて!」


 息も絶え絶えに、エミリー教師に訴えている。


「大袈裟ですよ。あなたたちの実力に合わせた敵が出てくるはずです。ちゃんとパーティで力を合わせれば――」


「いやゴーレムは無理ですよ! 攻撃全然効かないし! 先生でもあれを壊すのは難しいって、前に言ってましたよね!?」


「ゴーレム? えっ、ゴーレムが出たんですか!? Dクラスに!? おかしいです、参加者の実力を読み取って、自動的に適切な強さの敵を出すようになっているのに……」


 なるほど、そういうことか。


 俺はエミリー教師に近づいていく。


「それはまずったな、エミリー先生。参加者の実力を読み取ったんなら、アリアの実力も読み取ったはずだ。だから、こうなったんだ」


「そんなまさか。ゴーレムっていったら、このダンジョンで出せる最強の敵ですよ。上級生のSクラスでも、ゴーレムが出るのは稀なんです」


「でも言われてみれば確かに、アリアさん、あのゴーレムやっつけてた!」


 話を聞いていた生徒が声を上げる。


「僕も見た! なんか凄い技で粉々にしてた! めちゃくちゃ格好良かった!」


「それにそれにアリアさん、私のこと助けてくれて! 怪我も治してくれたし」


「敵は自分が引き受けるからって、アリアさんが残ってくれたんです! そうじゃなかったら、私たちみんな、ダンジョンの中で倒れてました!」


「まさに勇者って感じだったよね」


 次々に証言が出てくる。


 その活躍ぶりに、俺は腕組みをして何度も頷く。


 そうだ。アリアは強いし、格好いいし、優しいのだ。勇者なのだ!


 まるで自分のことのように鼻が高い。


「だから抗議しただろう。アリアがDクラスはおかしいと。その間違いが、今日、生徒を危険に晒したんだ」


「いや、でも、えー……?」


 それからしばらくして、アリアとそのパーティは帰ってきた。


 制服の上から着込んだ軽鎧にキズや汚れはあるものの、アリア本人は無傷のようだ。


「すみません、時間かかっちゃいました~。ミスティちゃんたちも、付き合ってくれてありがとね~」


「まあ、アリアちゃんから離れたら逆に危なかったしね……」


 パーティの面々に疲労の色はあれど、最後になってしまったことに文句はなさそうだ。


「どうした、ずいぶん手間取ったな?」


 俺が声をかけると、アリアは笑顔を輝かせる。


「カイン来てくれたんだっ。えへへっ、あのね、カインが教えてくれたことやってたんだよ」


「どれだ?」


「ほら、危険な敵が発生し続けるなら、発生源を壊せって言ってたでしょ? みんなが安全に帰れるように、全部壊して回ってたの」


「ぴえぇええ!?」


 エミリー教師が絶叫する。


「あれ壊しちゃったんですか!? っていうか、壊せる物だったんですか、あれ!?」


「はい! 必殺の聖光破斬ブライトスラッシュで!」


「すごい……いや、すごいんですけど……!」


 エミリー教師は、崩れるように地面に這いつくばった。


「修理費がッ! 今年の予算全部飛んじゃうッ! どうすればいいのぉ~!?」


「えっ、あれ? わたし、なにかやらかしちゃいました?」


 その様子に、俺はにやりと笑う。


 本来、攻略時間が長ければ長いほど点数は低くなるものだが、エミリー教師が恐慌するほどの実力を示したのだ。失点を補って余りある点数が付けられるだろう。


 アリアのSクラス入りは、まず間違いあるまい。


「ふふん、よくやったなアリア。褒めてやる!」


 だが、アリアにばかりいい格好はさせんぞ。


 俺の試験のときには、学園中の度肝を抜いてやる!




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