第23話 こんな気持ちで覚醒したって嬉しくないもんっ

 とはいえ、その目だ!


 殺意がこもったようなその冷たい視線!


 そして湧き上がる聖気は、俺の知る勇者アリアがまとっていたもの。


 経緯はともかく、ついにやった! これこそ俺がアリアに求めていた姿だ!


 が、あれ? これやばい?


 殺意じみた視線は俺に向けられている。魔力不足の今、俺に対抗できる術はない。


「こ、殺される……!?」


 逃げるか? いや、動いたら殺られる……!


 戦慄して固まっていると、やがてアリアは自身の発光に気づいた。


「あれ? この光……?」


 冷たい雰囲気が消え、いつものアリアに戻る。


 好機! 逃げるなら今だ!


「や、やったな、アリア! 新たな勇者の力に覚醒したんだ!」


「お、おめでとう、お姉さん!」


 レナも冷や汗をかきつつ、俺に続く。


 アリアはぷるぷると震えたかと思うと、みるみるうちに瞳を潤ませていく。


「こ……こんな気持ちで覚醒したって嬉しくないもんっ!」


 頬を膨らませて、足早に立ち去っていく。


 それを見送って、俺たちはやっとひと息つけた。


「どうしよう。お姉さん、誤解しちゃってる」


「そうらしいが……」


 だが俺とレナの関係を誤解したとして、なぜ姉のアリアがああなる?


「ひとまず、ほとぼりが冷めるまで待つか。今はなにを言っても聞きそうにない」


 その場はそう言って、レナと別れたのだったが……。


 ほとぼりは全然冷める気配がなかった。


 翌日の特訓にも来てくれたのはいいが、俺と目を合わせようともしない。


「グレンくん、模擬戦の相手お願いしていい?」


「いやオレは剣は……。いつもみたいにカインに――ひっ」


 アリアの無表情の圧にたじろぐグレンである。


「強化魔法、わたしはハンデつけるから。お願い」


「わ、わかったよ」


 やや強引にグレンを付き合わせ、アリアは特訓を開始する。


 新たに覚醒したのは、俺の知る勇者アリアと同様、身体能力を飛躍的に向上させる能力だ。


 強化魔法全開で挑むグレンに対してさえ、余裕で相手ができる。


 やっていくうちにグレンの闘争心にも火がついたらしい。


「こりゃいい! またひとつ壁を破れそうだぜ!」


 ボコボコにされながらも嬉しそうに立ち上がり、何度でもアリアに挑んでいく。


 一方のアリアは、鬱憤を晴らすように、がむしゃらに模擬剣を振るい続ける。


 模擬戦を繰り返したあと、休憩も取らずにひとりで組木を相手に技の特訓を始めるほどだ。


「……アリア、ちょっといいか」


「ダメ。今、集中してるから」


 話しかけても、こちらを一瞥もしない。


「だが……」


「…………」


 もはや返答すらない。


 せっかく、例の必殺剣について助言できると思ったのだが……。


 話ができないなら仕方がない。俺は俺の修行に集中することにする。


「……カインくん、平気?」


 心配そうにレナが声をかけてくる。


「なにがだ?」


「なんだか寂しそう」


「べつに、平気だ」


 いずれ宿敵になる相手なのだ。反抗や無視など、むしろ望むところだ。


 だが……やはり俺はどうかしてる。こんなにも、胸が苦しい。


 それから数日、アリアとは口を利けなかった。特訓は、アリアとグレン、俺とレナの2組に分かれてしまって、ほとんど接触しなくなりつつあった。


「なあグレン……アリアの様子はどうだ?」


 寮の自室で尋ねてみる。グレンは明るく口を開く。


「お前の言う通りだった。アリアはすげえよ。オレがついていくのにやっとなくらいだ。ちょいと悔しいが、相手としちゃ魅力的だ。それに……」


 そこでグレンは言い淀む。


「なんだ?」


「いや、その、な? お前がシスコンになるのも、わかるっつーか……」


「つまり? はっきり言え」


「な、なんかっ、可愛いんだよ。特訓してるときはすげえ真剣で、凛々しいけどよ。終わったあとに笑うと、すげえ可愛くて、ギャップっていうか……」


「そうかよ。もういい」


 グレンがアリアに惹かれつつあるのは思惑通りだ。それでいい。いいのだが……。


 くそ、なんだよ! アリアめ、グレンには笑顔を見せてるのかよ!


 翌日の特訓前。俺はアリアを捕まえた。


「あんまりグレンと仲良くしすぎるな」


 アリアは無視せず、俺を睨んだ。


「わたしが誰と仲良くしたっていいでしょ。カインだって、レナちゃんとすっごくすっごく仲良くしてるじゃん!」


 一瞬怯んでしまうが、ここで黙るわけにはいかない。


「レナは関係ない。今のお前は無理し過ぎなんだ。このままじゃ体を壊す。グレンは、そこがまだわかってないんだ」


「余計なお世話。わたしなら平気だもんっ」


 背中を向けるアリアだが、一歩だけ進んで立ち止まる。後ろ髪を引かれるように、顔だけ振り向いた。


「……ごめんね。でもわたし、カインとレナちゃんの邪魔はしたくないから……」


 なにが、ごめんだ。


 そんな寂しそうな顔をして言うことかよ……。


 アリアはそのまま必殺剣の特訓に入ってしまう。もう話せるような雰囲気ではない。


 仕方なしに、いつものようにレナと魔法の特訓に入る。


 だが、今日ばかりは目を離すべきではなかった。


「カイン、来てくれ! アリアが急に倒れちまった!」




------------------------------------------------------------------------------------------------





読んでいただいてありがとうございます!

お楽しみいただけているようでしたら、★評価と作品フォローいただけましたら幸いです! 応援いただけるほど、執筆を頑張れそうです! よろしくお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る