第27話-密談
なんとかエドワードが指定した時間までに王城に戻ったが、指定ギリギリの時間だったために、チクリチクリと彼の小言を聞く羽目になってしまった。夢中になりすぎた僕が悪いので、素直に小言を聞きながら晩餐会の支度をする。
「イングリスとは良縁を結びたいのでしょう?その様に時間にだらし無くあっては良い話もできなくなります。」
「……すまない。以後気を付けるよ……。」
「私の様な使用人に謝れと言っているのではありません。」
そんな事を言いながらも小さくなっている僕を父が子供を叱るような目で見てくる。まったく歯が立たない。
「……肝に銘じる……。」
「何度聞いたか分かりませんね。」
うぅ……。エドワードのこの真綿で首を絞めて無慈悲に引き摺り回すような説教は幾つになっても苦手だ。
身なりを整えていると、コンコンとノックの音がする。あちらの迎えの者が来たのかと、エドワードがさっと扉を開けに行く。
「これは……王太子殿下……。」
エドワードの驚いた声色に振り向くと、ウィルがスタスタと部屋に入ってくる。
「ウィリアム殿下?どうされましたか?」
彼は俺を見つけてニコリと笑った。
「晩餐会に出席する友を迎えに来た……――と、いうのもあるが、少し昼間の事で話がしたくてね。」
チラリと彼がエドワードを見る。
ああ、聞かれたくない話なのか。
「エド下がっていい。定刻にはきちんと移動する。」
「承知致しました。」
僕がそう言うと、エドワードは胸に手を当て礼をして部屋を出ていた。
さて、晩餐会まで一刻程度しかない。
あまりギリギリでは礼儀に反する。
「で、どうしたんですか?ウィル?」
二人でソファーに対面で座り、ゆったりと彼の言葉を待つ。
「先程のサユの話は国王は知らないんだ。だから秘密にしていて欲しい。」
真剣なウィルの表情は、冗談の様には思えなかった。
「国王が知らないとは……。何か理由があるのですか?」
「サユの力は守護する者からその宿主の技量を測り、心を測る事ができるんだ。彼女の前で如何に表面を整えようとも、悪意と嘘は隠せない。国王が知れば必ずその能力を使うでしょ?」
それはまた……。知られてしまえば国王や王太子に敵対する者達はサユ姫が邪魔で仕方ないだろうな。
ウィルはサユ姫を政治の道具にはしたく無いのだろう。
「では、なぜ僕には話したのですか?」
「サユがね、君をすごく気に入っているんだ。君だけは裏切ってはいけないらしい。私との相性も良いそうだ。」
「あはは。光栄ではありますね。」
僕は困った様に笑う。
「だから、今夜の晩餐会ではサユの能力については一切触れないでくれ。頼む。」
そう言って頭を下げる彼を見る。
口頭のみのリスクしかない契約を、この人は信じるのか?
「殿下、口約束なん良心や信頼関係が無ければ成り立ちません。危険な賭けです。王太子ともあろう者がそのような事では必ず足元を掬われる。サユ殿がいかに“大丈夫”だと言ったとしても信じ過ぎるのは危険しょう。物事に絶対などありません。それとも、殿下は僕を試しておいでですか?」
あ――……僕もエドワードみたいな事を言い始めたな。こんなふうに言わなくても、書面で協定を組もうと言えばいいだけの話なのに。
まったく嫌味な言い方だ。
だがしかし、口約束程信用出来ないものは無いのだ。
すると、ウィルは頭を下げたままクスクスと笑し始める。
「ふ……、やっぱり、サユの言った通りだね。」
笑いながら僕を見る目には隙は無い。……なんだ。
「やはり試されていましたか?」
腹が立つかと思いきや、思ったよりも平気だ。
「申し訳ない。クリスの言う通りだ。物事に絶対なんて物は無い。常に何通りかの対策を考えておくべきだね。」
そう言うと、ウィルは懐から封筒を取り出しテーブルに置いた。
「いずれ未来を担う我々で、細やかな協定を結ぼう。君にとっても悪い話じゃ無いよ。私はゾエさんの事知ってるからね。」
ウィルはニコリと笑った。
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