第22話-神に愛されし-1

「まぁ、ごめんなさい。驚かせてしまったわ。」

サユ姫は唖然とする僕をおっとりワタワタと気遣い始める。

「あ……いえ……。」

「と……とりあえずお座りください。」

席を勧められてとりあえず着席する。

この人はいったいなんなんだ……。家族しか知り得ない情報を知っていた。自然と少し警戒してしまう。

「……」

サユ姫はそんな僕を見ておろおろと声を掛けてくる。

「あ……あの、申し訳ありません。貴方のお名前を聞いた時に、アーティと呼ばれた貴方と同じ髪の女性が幸せそうに微笑む映像が視えたのです。……他意はなく、お母様に愛されておいでだと、そう視えたものですからつい……。」

しょんぼりとしてしまうサユ姫に何と声を掛ければいいか分からない。


“みえた”とはどう言う事だ?


とりあえず言葉を探すが、やっぱり質問攻めにする未来しか見えない。こんな内情が他国に漏れているなど、緊急事態と言う他なかった。しかし相手は他国の二十歳にも満たない女性だ。王太子殿下の婚約者……。言葉を選ばなければ、今回の訪問が水の泡だ。


こんな時、リュシアンならもっと上手く立ち回るのだろうか。

「あ――……その……。」

僕が途方に暮れていると、ウィルによって大量の資料が机に置かれてビクリとした。

その資料の隙間から彼がこちらをきょとんと覗き見てくる。

「ん、クリス??」

神妙な顔付きの僕と、今にも泣きそうなサユ姫がウィルの方を見る。

僕が返事をするよりも早くサユ姫が緊急事態と言わんばかりに口を開いた。


「ごめんなさい、ごめんなさい!私またやってしまいました!」

ウィルは首を傾げてサユ姫を見ていたが、ハッと僕を見た。

「クリス、もしかしてサユに何か言い当てられちゃった?」

状況を察した様に僕を見て、少し慌てたようにウィルが言った。僕は苦笑して彼を見る。

「僕の名前の由来をね。大した事では無いんだけど……身内しか知らない事だから驚いたんだ。それより、言い当てたって?」

僕としてはまだ笑えないのだけど、そこは笑顔で対応する。

「すまない。サユに悪気は無いんだ。」

ウィルはまずそう僕に謝罪し、問いに答えてくれた。

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