第16話-ウィル

「貴方の国は魔物が少ないのですか?」

「ここ数十年は小型の魔物が冬の始まりに現れるのみです。」

穏やかな青灰色の瞳に麦穂の金の髪が揺れる。

不思議そうに僕の話を聞きその青年は俺の隣に座ると、俺をじっと見る。

「ど、どうされましたか?」

「いえ、普通なら魔物が減ったのなら喜ぶべき事象だと思うのですが、貴殿はそうは思わないので?」


まぁ、確かにそうだ。減ったというなら喜ぶべき事なのだろう。けれど……。

「災害は幸運や不運ではなく、なんらかの要因の結果です。現在の魔物減少が災いの前兆だという可能性もある。しかし我が国にはそういった事を調る機関がありません……。未知の部分が多過ぎては判断も付きません。」


彼にとっては好ましい回答だったらしく、明るくにこりと笑う。


「貴方は聡明でいらっしゃる。」

「臆病とも言えます。」

困ったように笑う僕に、彼は手を差し出す。


「ウィルです。」

ただそれだけ言うと、彼はニコリと笑った。ただ名前だけを言って握手を求めてくる。なんとも情報量の少ない人だ。だがまぁ、こういう出会いも面白いだろう。

「クリス。よろしくウィル。」

僕はウィルと名乗った青年の手を取り、ぐっと握手をした。


相手が誰なのか、大体の予測はできたものの確信は持てないまま、その後ウィルはまた元来た道を戻って行った。彼を見送ると、自分も立ち上がる。

「僕も仕事の時間だな。」


僕は元来た道をまた部屋へと向かって歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る