第13話-手紙

日もすっかりと昇り部屋の中も温かくなった頃、コンコンとノックの音がし、エドワードが部屋に入ってくる。

「おはようございます。クリストファー様。もう起きておいででしたか。」

着替えてソファーに寝転び本を読んでいた僕にエドワードはにこりと微笑む。

「おはよう。エドワード。」

僕は起き上がると、エドワードを見上げる。


「お食事はどちらで召し上がりますか?」

「朝は部屋で。昼は大広間に行こうか。」


大広間での食事は、各国の賓客達が集まり、腹の探り合いをしたり、友好関係を構築していたり……まぁ言うなれば外交の場である。

一応、国の代表として出向いて来ているので、少しは仕事をしなければならない。


「承知致しました。こちら、イングリス国王陛下より届いております。」


テーブルにそっと置かれたのは、国王の封蝋印が着いた手紙だ。

「……お茶でも飲みながら……の話かな?」

ペーパーナイフを渡され、封筒にナイフを挟みサクサクと封を切る。


ぱらりと手紙を開くと直筆の手紙だ。


『敬愛なるクリストファー・シャルロンド・アーティ・トラスダン殿。貴殿との意見交換の席を設けたく思う。ついては明日の晩餐会に招待したい。色良い返事をお待ちしている。』


読み終わると、エドワードにその手紙を渡す。

彼もそれをサッと目を通して封筒に丁寧に戻した。

「参加だな。」

僕が言うと、エドワードがにこりと微笑む。

「一筆書かれますか?」

「ペンも便箋もないだろう?」

僕は苦笑する。

確かに、伝言を頼むよりは手紙を書いた方が心象はよいだろうが、いかんせん旅先なので思うようには……。


「こざいますよ。簡易的な物ではありますが。王家の印章入りですから、妥当かと。」


よく出来た執事だ。僕には勿体無いなと常々思う。

「じゃあ書こうか。準備してくれる?」

そう言うと、エドワードはすぐに便箋やインクを準備してくれた。僕はサラサラと返事の手紙をしたためる。


封筒へ納め封をすると、テーブルから目線を上げてエドワードに封筒を渡した。

「では頼んだ。」

「承知致しました。」


僕はまた、ソファーの上に寝転がり、ゾエの本を抱いて天井をボ――っ見つめる。


さて、今から軽く朝食を食べて、昼は外交。明日の夜は国王と晩餐会。披露宴三日後だ。


思ったより忙しいが少しくらいなら外に出られるだろうか。

暫くするとエドワードが軽食を運んでくれる。

「なぁ、エド……。」

「……なりません。外交で来ているのですよ?」

僕が何を言おうとしているのか聞かずとも分かるという風に返事を返してくる。

「まだ何も言ってない。」

ムスッとして彼を見ると、軽食のトレーをテーブルに下ろし、紅茶を入れてくれている。


「お忍びで街に出たかったのでしょう?」

エドワードがそう言うと、僕は言葉に詰まる。

僕の思考回路なんてお見通しのエドは、僕が全てを口に出す前に正確な答えを返してくる。エドワードには嘘なんて通じないし、僕も彼には頭が上がらないし、言う事も正論なのでいつも大人しく言う事を聞く。


「……はぁ。」

まぁ、そうだよな。折角信頼してくれているんだ。裏切ってしまっては元も子もない。


「じゃあ、庭園か中庭、散策していいか聞いてきてくれる?」

「承知致しました。」

エドワードはニコリと笑い、部屋を出ていった。

静かになった部屋で、テーブルに置かれた朝食と紅茶を見つめた。

カップを取り紅茶を口にすると、いつもの紅茶だ。


エドは茶葉を持ってきたのか。


郷に入っては郷に従えというが、まぁこのくらいは良いだろう。

鼻から抜ける香りは、いつも部屋で嗜む香りだ。まるで自分の部屋に居るようで安心する。


コンコンと音がして返事を返すと、エドワードが帰ってきた。

「クリストファー様、庭園も中庭も散策して良いそうですよ。ヤト様を呼びますか?」

彼の言葉に僕は首を振る。

「いや、いい。ヤトも疲れているだろ。城内なら滅多な事は起きないだろうし。行ってくる。昼前には一度戻るよ。」

早くしないと時間が無くなる。ヤトを待っている時間も惜しい。

慌てて食事を済ませて立ち上がる僕を見て、エドワードは困ったように笑い言った。


「行ってらっしゃいませ。」




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