異世界調査の任務に就いた俺は、星を滅ぼした宿命を知ることとなった

いぬぶくろ

異世界進出前夜

 ホールに浮かんだホロディスプレイに映し出された自分の成績を一瞥して、「ふぅ」と息を吐く。


『体裁は整えることができた』


 俺が乗っている宇宙コロニアル船――イニシスタ――には人権に階級が存在しており、支配者層に灰色の髪を持つグレーダーと呼ばれる人類が存在し、被支配者層はカラーズと呼ばれる、俺から見れば一般的人類が存在している。


 グレーダーはカラーズを下に見ており、そこには断絶する深い溝があり、ちょっとやそっとどころか、絶対的に埋まるどころか近づくことすらないが存在している。


 そんな中で、俺の髪は黒髪――本来ならカラーズに属する色を持っているのだか、先ほどからグレーダーに良く挨拶される。

 それは俺が外――救難ポッドによってこの宇宙コロニアル船イニシスタに連れて来られたからだ。


 保護され、心身共に不具合なくまた感染症もないことが確認されると、イニシスタの全てを決める最高評議会の一員の家で身分を保証され、グレーダー居住区に住むことを許された。


 ここから分かる通り、本来ならお客様待遇の俺に『成績』などは関係ないのだが、元々学生訓練兵として過ごしてきた記憶・・があるので、お客様身分で居るのが心苦しくなり兵士の真似事などしている。


 記憶がある・・・・・というのも、救難ポッド内で低酸素状態が長く続いたことによる脳機能障害の一種になってしまい、昔の記憶の一部が飛んでしまっているからだ。


 お客様としてではない、使える兵士としての体裁を整えることができた、と言うのが先ほどの言葉の真意だ。


「さすがだな、マモル」


 声をかけられ振り向くと、予想通りそこにはアスクが立っていた。

 アスク――最高評議会一員を親に持つ、このイニシスタ支配者層一族の一人であり、俺の保護者の息子であり、友人だ。


「ありがとう。何とか、恥じにならない得点はとれたよ」


 笑いながら答えると、アスクの眉間に寄ったシワがほぐれ、笑顔となった。


「このようなことをする必要はないというのに、お前は真面目だな。そして強い。そんな君が親友であることは、俺も鼻が高い」

「その鼻がさらに高くなるように頑張るよ」

「よしてくれ。高くなってしまっては、マモルと離れて話さなければいけなくなる」


 ハハハ、とくだらない話で笑い合う。

 ここだけ見れば、学校で笑い合う友人に見えるが、本来であれば断絶した世界の住人なんだろう、とそんなことを考える。


「明日から任務につくだろう。今日はウチで食っていけるだろ?」

「もちろん、アスクの誕生日だしな」


 そういうと、表情の少ないアスクの顔が満面とまではいかないが、笑みがこぼれた。


「覚えていてくれたか」

「数少ない親友の誕生日を忘れるもんか」


 ガシッ、と手を握る。


「でも毎日のように行っても本当に迷惑じゃないのか?」

「迷惑だったら、誘いやしないさ。私の家族とマモルは家族同然、そこに迷惑なんかあるものか。妹だって、マモルが来ると機嫌が良くなるんだ」


 アスクの妹のレイアは、アスクと違い感情の起伏が小さいというが、俺はそんなことはないと思う。

 よく話しかけてくれるし、何かと、それこそアスク以上に気にかけてくれるところがある。

 まるで、姉が情けない弟を心配するかのように。


「それじゃぁ、今日もお邪魔するよ」


 そうと決まれば、早く用意を始めないといけない。

 お客様待遇が嫌で、寮暮らしできるように取り計らってもらったため、俺の部屋からアスクの家までかなり離れている。


 それに、訓練をしたあとなのでシャワーも浴びなければいけない。

 そう考えながらアスクと共に歩き出した時、角から現れた人影とぶつかってしまった。


「わっ!」

「きゃぁっ!?」


 ぶつかったといっても、俺の方がガタイは良いので完全に吹き飛ばす形になってしまった。

 相手は女の子。しかも、カラーズの。

 女の子は「痛ったぁ~」と打った肩を擦りながら文句でも言おうとしたのかこちらを睨みつけ、そして表情が一気に青ざめた。


「も、申し訳ございません! 不注意です。どうか、命だけは許してください!!」


 縮こまり、いわゆる胎児の形になって許しを請うカラーズの少女。


「アス――」

「貴様ッ!!」


 アスク・・・と言い終わる前に、体が動いた。

 足を振り上げるアスクと、縮こまり謝る少女の間に入った。


「グッ!!」

「なっ!?」


 飛び込み、全体重をかけて蹴りを止めたというのに、蹴り上げられた俺は女の子を巻き込み転がってしまった。


「マモル、何やっているんだ!?」


 駆けつけてくれるアスク。

 抱きかかえられ上半身を起こされた俺の視界の端には、吹き飛ぶ俺に巻き込まれた女の子がなぜ助けられたのか分からないといった表情でこちらを見ていた。

 ってか、筋肉がついていてそこそこ重いはずの俺が飛ぶような蹴り、の子に入れたら頭蓋骨が割れるくらいで済まんぞ……。


「今日は、アスクの誕生日だろ。怖い顔をするのはなしだし、流血沙汰なんてもってのほかだ。年に一度の記念日は、笑顔で迎えようぜ」


 アスクに笑いかけながらも、訓練用ボディーアーマーの下の骨に異常が無いか恐る恐る調べる。

 ボディーアーマーに守られていてもあの衝撃。

 恐ろしすぎるだろ。


 「マモル……、そんなに俺のことを考えて……」と感動してくれているアスクには申し訳ないが、俺はぶつかってしまった女の子に謝りながら「早く逃げてくれ」と指示を出す。

 女の子は俺の意図に気づき、頭を上げながら走って逃げていく。


「アスク、今日は最高に楽しい誕生会にしようぜ」


 笑顔でそう言ってやった。


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