第8章 来訪者6

 ……時間移動か。こいつは自分の能力を明らかに自覚している。俺や古泉はもちろん、SOS団全員が恐れていた事だ。

 太陽が地球の周りを周り、象と亀が平面世界を支え、昼には宇宙人に地底人に恐竜に魔法使いが地上を闊歩し、夜な夜な百鬼夜行と魑魅魍魎と妖精邪神が空に跋扈する、暗黒の未来世界を俺は幻視した。

 あとはこいつの良識と、理性主義者、常識家としての側面に期待する他ないってことで……


「心配しなくてもいいわよ。今のあたしにはもうほとんど力が残ってないし」


 そ、そうなのか?


「古泉くんから聞かなかった? 高校入ってしばらくしてから、あたしの力ってどんどん低下してるらしいのよ。今じゃ欠片ほどしか残ってないのよね。つくづく勿体無いことしたわー」

「へえ」

「今じゃ精々おみくじで大吉引いたり、卵割ったら黄身が二つ出てきたり、アンタの頭に猫耳生やすのが関の山ってところなの」

「……おい待て」

「最後のは冗談よ」


 お前の冗談は悪質でシャレにならんし、心臓に悪い。

 まあ、そういう事なら心配ない、か……。

 俺は取り敢えず胸を撫で下ろした。

 

 古泉とか、機関の人間がこの事知ったら喜ぶかな。言ってしまえば、大魔王ハルヒから世界を守る正義の味方があいつ等なわけだし。


「誰が大魔王よ」


お前だよ。


「ともかくそれはダメ。みくるちゃんが言うにはさ、あたしがここに来るのは規定事項から外れたイレギュラーなんだって。だから知り合いに会ったら記憶を消せって言われてるのよ」

「ふーん」

「あんたの記憶も別れる時、消させてもらうわよ」


 そりゃ残念。


「どうやって記憶を消すんだ?」

「これで消せるらしいわ」


 ハルヒがゴソゴソと懐から取り出したのは、20センチぐらいの光る銀色の棒だった。

 それ、以前見たSF映画で見たことあるぞ。『メンインブラック』だっけか。


「有希が作ってくれたの」


 ほう、長門がね。

 映画の内容を思い出し、俺は呆れ果てる。こっそりやってきた宇宙人が地球に住み着いているという話じゃねえか。ずいぶんあいつも洒落のきいたことしやがる。


「有希が呪文を唱えたらさ、目の前でTVのリモコンがあっというまにこれに変わっちゃったの。びっくりしたわ」


 長門の正体も力もバレバレか。何があったのか知らんが、SOS団もずいぶんと今とは違った関係性で成り立っているようだな。

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