第2章 来訪者2

 うわ。もう何がなんだか。うわ。

 俺の部屋の中に俺と俺と俺。俺トリオ。シュールな光景だ。マグリットやダリもびっくり。


「俺はな、こっちの『俺』の一日だけ未来からやってきたんだ。つまりそっちの『俺』の8日後の俺ってわけだ」


 ああそうかよ。いやホントに朝比奈さん、すみませんね色々と。

 明日会ったら詫びを入れておこう。何のことだか、明日の朝比奈さんは解るまいが。

 

「ちょっと場所を借りるぜ。俺はこっちの『俺』に用があって来たんだ」


 もう好きにしろよ。


「怒るなって。お前にも悪くない話のはずだぜ。おっとこっちの『俺』への話だったな。よし……喜べ『俺』!」

「?」

「雨振って地固まるだ! 今日ハルヒと仲直りしたうえに、俺とハルヒは付き合うことになったぞ!!」

「何ぃ!?」

「何ぃ!?」

 

 喜悦の叫びを上げる俺と、驚愕の叫びを上げる俺。

 ななななななんでそうなった?!

 

「今日、古泉のお膳立てで部室で二人っきりになってな」

「ほうほう」

「それで今日はなんか素直に話を聞いてくれて……で、一生懸命謝ったら、許してくれてな」

「おお、それで?」

「会話の最後にハルヒが涙目で『喧嘩してる最中、あたしも淋しかった……』なんて言う訳だ」

「うは、堪らんなそれは」


 あのハルヒがそんな殊勝な態度をとるわけがないだろ。 それはたぶん悪い地底人が化けたニセモンか何かだ。


「そんなモン見せられたら告るしかないだろ、これは!」

「わかる! 分かるぞ!」


 さっぱり分からん。


「そうしたら……OKだってよ! しかも前から俺のことを気にしてたらしいぞ!」

「何てこった……信じられん」

「何てこった……信じられん」

「だろう」


 笑顔の俺が二人と、呆然とした俺が一人。

長門がねじり鉢巻に法被を着込み、揺れる神輿の上で「お祭りマンボ」を熱唱するくらいに信じがたい話だな。というより信じたくない。


「というわけだ。そっちの俺、明日は何もしなくていいからな。いや、むしろハルヒと喧嘩してくれ」

「お、そうだな。遠慮はいらん、明日は派手にぶちかませ」


……殴っていいよな、こいつら。


「いやあ、しかし参ったな、明日からあのハルヒと俺が……なんか急に世界が輝いて見えてきたぜ」

「ああ、バラ色の未来ってやつだ」

「だな」


 薔薇色の未来ねぇ……ハルヒと俺が男女のお付き合いなぞ、何かの死亡フラグとしか思えん。


「黙ってろ、この意地っ張りが」

「お前はもっと素直になったほうがいいぞ」


 未来の俺に(しかもステレオで)説教をくらう俺。俺自身に上から目線で喰らう説教ほどムカつくものはないな。さっさと帰れ、お前ら。

 

カチャリ


 再びドアが開く音がした。石化する俺と俺と俺。

 

「……」

「……」

「……」

「……よう、お前ら」


 入ってきたのは……やっぱり俺だった。妙にやつれた感じの。

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