テレパス

げど☆はぐ

第1話

 一


「今日は何をするのかな?」

 長身の男が正方形の狭い部屋に通され、置かれたパイプ椅子に座るように促された。扉が閉じると、天井に設置されたスピーカーから男の声が聞こえてきた。

「今日からは少し趣向を変えてね。お話をしてもらう事になった」

「へーそう。この目の前のお姉さんと話せばいいのだろうか?」

 長身の男は後ろで縛った髪の毛を撫でるように指を滑らせるとカリカリと頭を掻いた。おどけような口調だがどこか棒読みのような音程で話す。座った目の前にはガラスのような仕切りがあり、向こうにも同じような椅子以外に何もない部屋が用意されている。椅子には肩までの黒髪の女性がスーツを着て座っていた。

「初めまして。私は理絵と言います。あなたが斉藤さんね?」

「ああそうだ」

「これから一か月間、定期的にあなたと話す事になりました。よろしくね」

「それは良い事だ。こっち側にはむさい男しかいないんだ。あなたのようないい女を見ると嬉しくなるよ」

「それは良かった。あなたのデータを読んだの。確認してもいい?」

「別に構わない」

 対談はこうして始まった。


 二


「田中さん。あなたは休日に何をして過ごす事が多いのかしら?」

「あー。それは外の世界でって事でいいんだろうか?」

「ええ。何かスポーツとかやってた?」

 黒いタンクトップを着た筋肉質のスキンヘッドの男は下を向いて少し考えて答えた。

「ジムで体を鍛えてるよ。鍛えると何かと便利だからな」

「ジムで!いい体してるものね!私も行こう行こうと思ってるんだけど時間が無くて。」

「よくそういう答えを聞くが一度行ってみるといい。楽しいんだぞ」

「ええそうするわ」

 理絵は腕時計を見た。

「ごめんなさい少し時間を過ぎてしまったわね。楽しかったわ。また今度ね」

「ああ」


 三


 左上を見ながら口を開け、下唇に指を当ててボケッとしている黒髪の女が座っている。スカジャンにホットパンツ、黒いタイツを穿いた少しパンクな女だ。

「梓さん。どうしたの?」

 首をクリッと動かして梓は理絵を見据えた。

「ごめんなさい。私は気になってたの。あの壁の模様が」

「模様?」

「私が住んでいたアパートの白い壁もこんな風に、網目のような模様がついていたわ。一体何故このような模様が付いているのかな?」

「上から壁紙を貼ってるんじゃない?きっと」

「へえー。理絵さんは物知りだ」

「まだ十代くらいに見えるんだけどアパートで暮らしてたの?一人暮らしをしていたのかしら?」

「ううん。母親と二人で暮らしていたから。二人なら大きな家は必要無かったんじゃないかな。多分」

「そう。お母さんは今どこにいるの?」

「分からない。お母さんに会いたい」


 四


「斉藤さんは学生の時バンドをやってたんですって?」

「そうだよ。コピーバンドだけど。ドラムをやってた」

「すごい!ドラムっていっぱい叩く所あって難しそうじゃない?」

「そんな事はないよ。ジャンルが決まるとやる事はだいたい同じになる。あとは経験が物を言う」

「そうなんだ。どんなジャンル?」

「ロック」

「ロック・・・」

 理絵は資料のページをめくって顔を上げた。

「何をもってロックってロックっていう区分分けされるのかな?魂のありようとか?」

「よく分からない」

「え?」

「よく分からない。もっと具体的に話してくれるか?」

「あ、ええ。ごめんなさいね」


 五


「田中さんは本は読むのかしら?」

「どうだろう。人並み程度には読むと思うが」

「例えば?夏目漱石とかはどう?」

「吾輩は猫であるなら記憶しているが。虫について書かれた本も読む」

「む、虫?」

「虫は苦手か?」

「ええ、ちょっと苦手ね。足とか気持ち悪いし」

「そうか。女性は虫が苦手な人が多いと聞く。まあ、そういう事もあるだろう」

「働きバチがほとんどメスだという事実についてはどう思う?オスも働くべきじゃない?」

「なぜだ?」

「なぜって?」

「ハチはそういう仕組みなのだから仕方ない。諦めろ。ハチの社会構造を変える必要は人間には無い」

「人間の男女は平等であるべきはないか?という問題を暗に加味して聞いてみたんだけど。別にハチに限った話じゃないわ」

「なるほど。それは言われるまで分からなかった。でもそれはそちらが考えるべき問題だと思う」

「そちら?」

「そちらだ。俺はまず俺をきちんと扱って欲しいと思う」

「そうね。大事な事よね」


 六


 梓は自分の指の爪を見ている。

「梓さん。部屋、少し寒くない?」

「そうかしら?」

「外は雪が降ってるの。雪は好き?」

「よく分からない」

「どうして?」

 梓は顔を上げて理絵に見た。

「雪は雪だもの。それ以外に何かあるかしら」

「まあ!割とドライなのね」

「よく分からない。雪が好きって何?」

「うーん。子供は雪で遊べるから好きな子が多いわね。雪だるま作ったりとか」

「ふーん。暇なのね子供って。もっと勉強した方が有意義なんじゃないかな」

「ううん。遊ぶのに忙しいのよ子供は」

「面白い見方をするわね理絵さんは」


 七


「なあこれいつまでやるの?」

「ごめんなさい。斉藤さんは私と話すの退屈だったかしら?」

「違うよ!何も言われてないから分からないんだよ!イライラするだろそういうの?」

「そうね。でももうすぐ終わるから」

「頼むよまったく」

「それで・・・斉藤さんは本は読むのかしら?」

「急に何だよ。えっと、どうだかな。小さい頃に少し読んだくらいだ」

「例えば?夏目漱石とかはどう?」

「覚えてないな。今は音楽の雑誌を読むくらいだよ。本はあんまり読まない」

「ハチについての本を読んで気になった事があるんだけど聞いていい?働きバチがほとんどメスだという事実についてはどう思う?オスも働くべきじゃない?」

「ハチ?あー別に」

「どうして?」

「俺がハチだったら仕事しなくていいから楽だし」

「あら!」


 八


「梓さんは本は読むの?」

「どうかな。人並みには読んでるかも」

「へえ!意外ね。どんな本を読むの?夏目漱石とか?」

「漱石?吾輩は猫であるくらいなら読んだことあるけど。私は虫の本とか、生物学的な本のほうが好きね」

「む、虫?」

「虫は苦手?」

「ええ、ちょっと苦手ね。足とか気持ち悪いし」

「そう。まあ虫が苦手な女性は多いわよね」

「あっでも働きバチがほとんどメスだっていうのは知ってるわ。その事実についてはどう思う?オスも働くべきじゃない?」

「なぜ?」

「なぜって?」

「ハチはそういう仕組みなんだから仕方ないよ。諦めたら?ハチの社会構造を変える必要なんて人間には無いと思うけど」

「人間の男女は平等であるべきはないか?という問題を暗に加味して聞いてみたんだけど。別にハチに限った話じゃないわ」

「へえ。それは言われるまで分からなかった。でもそれはそちらが考えるべき問題だと思うわ」

「そちら?」

「うん。私はまず私をきちんと扱って欲しいんだけどな」

「そうね。大事な事よね」


 九


「斉藤さん。この前の事件についてはどう思う?」

「どうって?」

「もちろんレシーバーが一斉に暴れたあの事件の事よ。私はすごく怖かったわ。レシーバーは見た目では区別が付かないんだもの」

「仕方ないだろ。俺達レシーバーは逆らえないんだ。命令を受けたら実行するだけだよ。俺達の責任じゃない。早く出してくれよここから!早く!」

 斉藤は立ち上がってガラスをバンバンと叩いた。天井のスピーカーから声がした。

「座れ斉藤。座れ!」

 斉藤は急に静かになると椅子に座り直した。

「ごめんなさい。あなた達は悪くないわよね」

 斉藤は下を向いてそのまま黙っていた。


 十


「田中さん。この前の事件についてはどう思う?」

「どうって?」

「もちろんレシーバーが一斉に暴れたあの事件の事よ。私はすごく怖かったわ。レシーバーは見た目では区別が付かないんだもの」

「仕方ないだろ。俺達レシーバーは逆らえない。命令を受けたら実行するだけだ。でも迷惑を掛けたのは事実だと思う」

「ごめんなさい。あなた達は悪くないわよね」

「分からない。でも謝りたいとは思ってるのは確かだ」


 十一


「梓さん。この前の事件についてはどう思う?」

「どうって?」

「もちろんレシーバーが一斉に暴れたあの事件の事よ。私はすごく怖かったわ。レシーバーは見た目では区別が付かないんだもの」

「仕方ないわ。私達レシーバーは逆らえない。命令を受けたら実行するだけだもの。でも迷惑を掛けたのは事実だと思うわ」

「ごめんなさい。あなた達は悪くないわよね」

「分からないわ。でもあなた達には謝りたいとは思ってるわ」


 十二


「この前は悪かった」

「気にしないで斉藤さん。私の聞き方も良くなかったの」

「本当なんだ。俺達レシーバーは逆らえない。命令を受けたら実行するだけなんだ」

「そう。この部屋、少し寒くない?」

「別に?急に話題を変えることが多いな理絵さんは」

「外は雪が降ってるの。雪は好き?」

「好きだよ」

「どうして?」

「雪合戦とかできるだろ」

「あら。割とかわいい所あるのね」


 十三


「田中さん、この部屋少し寒くない?」

「まあ少し寒いかもしれないな」

「外は雪が降ってるもの。雪は好き?」

「うーん。嫌いだ」

「どうして?」

「ジムに行く時に電車に乗らなきゃいけない。電車が止まると予定が狂うから」

「そう。私は好きだけどな」

「そうかな。なぜだ?」

「少しロマンチックって気がするのよね。クリスマスに降ったりすると嬉しいわ」

「そうか。何かいい思い出があるのかな?」

「ふふ。それは秘密よ」


 十四


「現在の状況を順を追って説明します」

 会議室に組織の上層部が列をなして座り、様々な資料が貼られたホワイトボードの前に立っているガッチリとした体格をした捜査官が話を始めた。

「少子高齢化対策により労働力として作られた人造人間ですが、稼働し始めた後に人造人間の脳に干渉できる特殊な才能を持つ者がいる事が発覚しました。これはいわゆるテレパシーのような物で、我々はこの才能を持つ者をテレパスと呼ぶ事にしております」

「うむ。テレパスの存在については一般公表はされていないんだったな?」

「はい。もはや人造人間の労働力無くしては生活できませんから。そしてテレパスが送信した命令を受信した人造人間、すなわちレシーバーは命令を拒否する事はできません。どんな非人道的な命令でも従います。しかしレシーバーは情状酌量の余地があり、もし命令によってレシーバーが罪を犯した場合、課せられる刑罰を軽くしようという事になりました」

「まあ色々問題がありそうだが今はそれはいいだろう。続けたまえ」

「はい。しかしこの決定が何らかのルートでテレパス側にリークされ、それ以降テレパス達は犯罪を行う場合にレシーバーを隠れ蓑にし、自分達の罪を逃れようとするようになりました。つまり今まではテレパスと不本意ながら受信したレシーバー達が別々の場所で同じ犯罪を犯していたため、逮捕されたそれぞれの場所で取り調べを行うとすぐに区別が付いていました。レシーバー達が犯行を行うまでの経緯に脈絡が無さすぎる為です。しかしリーク後、テレパスは生活環境が近しいレシーバーとグループを組んで犯罪を行うようになり、レシーバーのフリをすることで区別を付きにくくし、レシーバーと誤認させ自分の罪を軽くしようと考えたようです」

「ちょっと待ちたまえ。犯罪者が全員レシーバーという事は無いのかね?テレパスは命令するだけで犯行に加わらないかもしれないじゃないか」

「それはありません。命令と言うより共感に近いようです。テレパスが犯行に及ぶ時の興奮状態の脳波がレシーバー達に送信されるとレシーバー達が同じ犯行を行うようです。テレパス自身が犯行に加わらなければこの状態は発生しません」

「なるほど」

「そして捜査を続けた結果、テレパス達にもう一つ能力がある事が分かりました。どうやらテレパスはレシーバーの記憶を読む事ができるようなのです」

「どういう事かね?」

「つまりレシーバーの趣味や経歴、そして何より我々が行った取り調べの内容はテレパスには筒抜けという事です。これは当初、捜査を大きく混乱させる物でした」


 十五


「田中さん。人間とは何だと思う?人間と人造人間の違いって何だと思う?」

「人間が何かなんて考えるのは人間くらいだ。人造人間は作られた人間だ。人間とは当然違うだろう」

「あなたは特に悩んだりはしないのかしら?」

「悩まないな」


 十六


「梓さん。人間とは何だと思う?人間と人造人間の違いって何だと思う?」

「人間が何かなんて考えるのは人間くらいね。人造人間は作られた人間だもの。人間とは当然違うわ」

「あなたは特に悩んだりはしないのかしら?」

「悩まないわ」


 十七


「斉藤さん。人間とは何だと思う?人間と人造人間の違いって何だと思う?」

「人間が何かなんて考えるのは人間くらいだろ。でも人間の女の子に人造人間ってだけでフラレた事があって、それはやっぱりショックだったな」

「あなたはそれで悩んだ事はある?」

「ああ。だから音楽をやってみたりしたんだ。でも俺にはよく分からなかった。だから今は人間は諦めて人造人間の女の子と仲良くしてるよ」


 十八


 上層部の一人が手を上げて発言した。

「という事はレシーバーの記憶を読んだテレパスが口裏を合わせて来る、という事かね」

「その通りです。しかしこれを逆手に取る事でテレパスを特定する事が可能になりました」

「どういう事かね?」

「テレパスが記憶を読んでいる、という事を我々が把握している事まではテレパスは知りません。注意深く対話をする事でレシーバーになすり付けようとする偏った回答をする傾向が分かります」

「例えば?」


 十九


「梓さん。二千二十一年に流行したテレワークについてどう思う?」

「うーん。自宅でパソコンを使って会議するあれよね?でもあれだけだともったいないんじゃないかしら」

「どういう事?」

「会議の場所を変えてるだけで同じ時間に会議に出ないといけないのよね?あれってオンラインゲームでよく使うボイスチャットを仕事で使っているだけじゃない?」

「まあそうね」

「時間や場所にとらわれない働き方なんだからさ、例えば一つのキャンバスがあるとして、複数の人が別々の場所から、違った時間帯でそれぞれ編集したりしてそれを皆で共有し、期限内に一つの絵を作る、という風に仕事をした方がよりテレワークの恩恵を受けられるんじゃないかしら?」

「そうね。ITに強い会社はそういう形態を実施していたかもしれないけど、普通の会社はそこまでしなかったかもしれないわね」


 二十


「斉藤さん。二千二十一年に流行したテレワークについてどう思う?」

「俺はどうかと思うね。ライブをする時に目の前に客がいるといないのではまるで違うだろ?」

「テンション上がりにくいって事かしら?」

「ああ。やっぱり目の前に人がいる方が何でも気持ちに影響して来ると思うぜ」


 二十一


「田中さん。二千二十一年に流行したテレワークについてどう思う?」

「まあ、やった方がいいんじゃないか。通勤時間が無いし、寒い時は外に出たくないしな」

「そうね。子供の面倒を見ながら働く事もできるととても助かるわよね」

「そうだな。働き方の一つとしていいと思う」


 二十ニ


 捜査官はホワイトボードに貼られた三人の写真を指差しながら話を続けた。

「例えば今回はこの三人です。彼等のように三人以上に対して捜査官が順番に対話を行います。すると報告にあるように、やがて誰か一人が異なった答えをするようになります」

「うむ」

「そして途中で対話をする順番を変えると回答パターンが変わります。これによってテレパスの当たりが付きます」

「何故かね?」


 二十三


「田中さん。今日が最後になるんだけどね。今日は一つあなたに面白い物を見せようと思うの」

「何だろうか?」

 田中の前のガラスが突然黒くなったかと思うと、次の瞬間理絵はがっしりとした体格の男に変わった。

「え・・・?どういう事だ?」

 男はマウスを操作し、スイッチを入れて話し出した。

「驚いたかな?」

 男の声が理絵の声で再生されている。男がスイッチをオフにした。すると低い男の声に変わった。

「騙して悪かったね。理絵というのは警戒心を下げるために用意したバーチャルの女性アバターなのだよ」

 田中は口をあんぐりと開けている。

「カメラで私の視線などを認識し、君の前の画面には理絵というアバターが同じ動きで再生されるという訳だ。ゲームの実況動画などでかわいいアバターが使われているだろう?あの技術の応用だよ」

「へえ。すごいな。全然分からなかったよ」

「気を悪くしたならすまない。謝るよ」

「いや、まあ気にはしてないよ。ただ理絵に会えない事が分かって少し寂しいよ」

「これで対話は終わりだ。協力ありがとう」

「ああ」


 二十四


「梓さん。今日が最後になるんだけどね。今日は一つあなたに面白い物を見せようと思うの」

「何よ?」

 梓の前のガラスが突然黒くなったかと思うと、次の瞬間理絵はがっしりとした体格の男に変わった。

「え・・・?どういう事?」

 男はマウスを操作し、スイッチを入れて話し出した。

「驚いたかな?」

 男の声が理絵の声で再生されている。男がスイッチをオフにした。すると低い男の声に変わった。

「騙して悪かったね。理絵というのは警戒心を下げるために用意したバーチャルの女性アバターなのだよ」

 梓は口をあんぐりと開けている。

「カメラで私の視線などを認識し、君の前の画面には理絵というアバターが同じ動きで再生されるという訳だ。ゲームの実況動画などでかわいいアバターが使われているだろう?あの技術の応用だよ」

「へえ。すごいわね。全然分からなかった」

「気を悪くしたならすまない。謝るよ」

「いや、まあ気にはしてないの。ただ理絵に会えない事が分かって少し寂しい」

「これで対話は終わりだ。協力ありがとう」

「ええ」


 二十五


「斉藤さん。今日が最後になるんだけどね。今日は一つあなたに面白い物を見せようと思うの」

「へえ?何かな?」

 すると斉藤の前のガラスが突然黒くなったかと思うと、次の瞬間理絵はがっしりとした体格の男に変わった。

「え・・・え!?ど、どういう事だ?」

 男はマウスを操作し、スイッチを入れて話し出した。

「驚いたかな?」

 男の声が理絵の声で再生されている。男がスイッチをオフにした。すると低い男の声に変わった。

「騙して悪かったね。理絵というのは警戒心を下げるために用意したバーチャルの女性アバターなのだよ」

 斉藤は口をあんぐりと開けている。

「カメラで私の視線などを認識し、君の前の画面には理絵というアバターが同じ動きで再生されるという訳だ。ゲームの実況動画などでかわいいアバターが使われているだろう?あの技術の応用だよ」

「て、てめえ騙したのか!ふざけんな!」

 斉藤が立ち上がりガラスを殴りつけた。

「無駄だよ。この画面は防弾ガラスの向こうに設置されている。壊す事はできない」

「ちきしょう!馬鹿にしやがって!お人形遊びに付き合わせんじゃねえ!」

 斉藤は怒りが収まらず部屋をウロウロし始めた。

「どうか落ち着いてくれ。せっかく君の罪が軽くなったんだ。これ以上罪が増えてしまっては困るだろう?」

 斉藤は動きを止めて男を見た。

「何だって?」


 二十六


「テレパスの目的はレシーバーに罪をなすり付ける事です。つまりテレパスが一人だけ人間なので、対話を続けるうちにテレパスだけボロを出し違った回答をするだろう。だからこいつがテレパスだ、という結論に誘導して来るのです」

「ふむ」

「実はレシーバーは個体差があり、同じ質問をしても色々な回答を返してきます。それに対話の途中で気付いたテレパスがレシーバーより順番が後になった場合、テレパスはレシーバーと同じような答えを返し、怪しい動きを見せるレシーバーが出て来るのを待つ、という行動に出ます。そしてまるでレシーバー達の答えが同じで、テレパスだけ違うよう見せかけるのです」


 梓の監房に捜査官が入って来て、梓に手錠を掛けた。

「な、なんで!?」

「君がテレパスだよ梓くん」

「ち、違うわ!私じゃない!!」


 捜査官は人差し指と中指をそれぞれ田中、梓にあてた。

「今回は田中と梓が同じ回答を返し、斉藤だけが違う反応を見せました。そこで」

 捜査官が一番左に貼られている斉藤の写真を一番右に貼り直した。左から斉藤、田中、梓だった写真の順番は田中、梓、斉藤になった。

「順番を変えてみました。すると、田中が最初になった場合は梓は田中と同じ答えで斉藤が違う答え、さっきとパターンは変わりません。しかし」

 捜査官が一番左になった田中の写真を一番右に貼り直した。左から梓、斉藤、田中の順番になった。

「梓が最初になった場合にのみ見事に三人の答えがバラけるのです」

「分かった・・・事前に田中の記憶を読んでコピーできないからだな?」

「はい。それに加えて、人造人間が驚くような状況に遭遇した時、やはり様々な反応を見せるという事をテレパスは予想し、怪しまれていなさそうなレシーバーと同じ行動を取ります。人造人間の反応だけ見ても人間かどうか区別するのは不可能です。しかしテレパスは『人造人間を驚かせればまるで映画のロボットのように思考停止し、同じ反応をするだろう、人間だけが違う反応を見せるはずだ、とこちらが考えている』と思っているのです。それを利用して念の為仕掛けを打ってからテレパスを確定させます。今回は田中の直後に反応をコピーし続けた梓がテレパスです」


「君は人間だよ梓くん。残念だ。人間として自由に振る舞えば気付かれなかっただろうに」

「くっ・・・!」

「人間が何かなんて考えるのは人間くらいだ。君もそう言っていたな。おっと田中くんの答えだったかな。ふふ、その通りだよ。人間と人造人間の区別など我々には不可能だ。いや、彼等にも不可能だろう。人間だけが人間とは何か、そして人造人間とは何かと余計な事まであれこれ考えて墓穴を掘るんだよ」

 梓はうなだれた。

「同じ人間として聞いといてやる。最後に何がしたい?」

「お母さんに会いたい。死んだお母さんに」

「すぐに会えるさ。連れて行け」

「あいつが悪いんだ。あいつが・・・」

 ぐったりした梓を捜査官が連行して行った。

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テレパス げど☆はぐ @RokkouMasamune

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