第5話

 テストも終わり、終業式間際。ホワイトデーはそんなときにやってくる。

 優衣は1ヶ月、変わらず接してくれた。

 部活でも、毎日の行き帰りのときも。

「ほら」

 角を曲がれば家が見える、というところで俺が出した紙袋の中身を見て、優衣は驚いた顔をした。

 可愛いラッピングは、市販のものではない。

「……手作り?」

 俺は頷き、ふざけた調子で言う。

「どーぞ、召し上がって下さい」

 ひとくち、食べた優衣が目を見開いた。

 それはネットで見つけた長い名前のケーキのレシピだったけど、見た目と材料を見て美味そうと直感した俺の舌は間違ってはない。

「美味しい!」

「だろ?だてにいつもプロ志望のお菓子を食べてるわけじゃないからな」

 あ、と優衣が言った。

「姉ちゃんが教えてくれた。まだ1年だけど、もう、だいたい決まり?」

「うん。あとは学校を選ぼうかなって。いずれ海外にもいけるように」

「そっか」

 俺は歩きだす。

「頑張れよ」

 うん、と言い、優衣が隣に並んだ。


「集合」

 顧問の話を聞くまでもなく、今日はタイムを測る日だ。テストも、ホワイトデーも終わり、春休みを過ぎたら2年になる。高校で陸上をやるのも、あと、1年ちょっと。

 名前を呼ばれ、スタート位置についた。

 もともと俺は、中長距離走者だ。一息に焦ることはない。


 走れ。


 その声は、少しだけ前にある未来の自分のものなのだ。

 俺は、走る。



 その先へ。

 自分のために。


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その先へ ロジーヌ @rosine

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