第11話 師弟

 戦いが終わり、戦死した兵士たちを葬るべく祠を立て碑を築いた。

 戦死した彼らをイナメさんが儀式を行い戰を戦った全員で弔った後、全員が一度徳田神社に集まった。


 戦が終わり、眠らず作業していたからか全員は眠そうな顔のまま大広間に座った後、イナメさんが話し始めた。


 「とりあえず、これからの事だ。今回の天人との戦をどう見るかだ」


 イナメさんがそう言った後、周りの空気が暗くなる。宗介さんは考えながら手を挙げると話し始めた。


 「これは私見でありますが、こればかりは戦い続けると我々の方が先に滅びましょう。なので先手を打つ必要があります」


 さらに続けてチヒサコマさんは落ち着いて話す。


 「そういえばマカ殿は秘宝を集めておられたな。して、秘宝は何故集めるのか? 月の者のためとはいえどのような効能があるのかが分からねばどうしようもない」


 チホサコマさんの言葉にこの場にいる全員が頷く。そしてイナメさんの隣に座っていたナビィさんが手を挙げる。


 「天河の皆様とは初めましてですね。ワタシはナビィと申します。この村には少し前に移った巫女で御座います」


 「ほう、日向神(ヒムカノカミ)の愛称が名か」


 「えぇ、そうで御座います」


 チホサコマさんの言葉にナビィさんは上手いこと言い返す。それからナビィさんはゆっくり話秘宝はどのような効能があるのかを話し始めた。


 「まず、マカさんがお持ちの翡翠の剣の力を開花させる必要があるのです。それに必要なのが秘宝。つまり勾玉です。一つは狛村にある勇人(タケルヒト)の玉。もう一つは小切谷村にある王の玉。最後の一つは妖の玉の三つです。この三つを玉の祠に納めればその力を開花させることができるのです」


 ナビィさんはさらに続けて話す。

 要約すると三つの玉を集めて剣の力を開花すれば天人の持っている武器、鎧、さらに肉体を容易く切れるとのことだ。

 チホサコマさんは少し疑い深い顔をしつつも納得してくれた。

 

 一応これから私は天河村に向かい津翁を倒して秘宝を得る。それにしても秘宝に名前ってあったんだ。


 すると小切童子は何かに気づいたのか手を挙げた。


 「あ、ということは我々は小切谷の秘宝を渡したので後は天河殿になりますね」


 「あ、うん。これね」


 私は懐に大事に入れていた勾玉を取り出す。

 小切谷村の勾玉は紋様も無くただの石だけど彼らにとっては大事なものだ。が、無慈悲にもナビィさんは隠しきれないほどの困惑した顔でその勾玉を手に取ると苦笑いを浮かべる。


 「え〜と。秘宝は秘宝でしょうけど、剣の力を開花させるのには無意味な代物です」


 ナビィさんの言葉に小切谷村の面々の顔が固まる。 

 少し可哀想になってきた。


 それから会議は終わり、その際にナビィさんが満月に天人が来るため、満月が過ぎるまでチホサコマさんたち天河人狼の面々は村に残った。

 ナビィさんがいうには私の怪我は満月が過ぎたで日数で言えば二十五日ほどだ。


 それから七日後、チホサコマさんたちは天河村に帰り、小切童子は小切谷村に二人を返した後狛村に残り、私の両肩が治るまで代わりに村の巡回をしてくれることになった。

 

 ナビィさんが言うには治るまで二十日ほど掛かるらしく。今朝、チホオオロさんが「二ヶ月あれば治るであろう? 治ってから来てくれれば良い」と言ってくれた。

 だから二十日は身を休めることに専念しよう。


 私は村の門からチホサコマさんたちが見えなくなった後、後ろを振り向くとカグヤが立っていた。

 カグヤは私を見ると優しく微笑む。


 「マカ。安静にだから戻るよ」


 「うん。戻ろっか」


 私はゆっくり歩いて徳田神社に戻る。

 カグヤは私の隣に立って歩調を合わせてくれる。

 両方はまだ痛むけど一応少しは動かせるようになり、包帯は外された。

 だけど無理に動かすなとナビィさんに言われたから注意しないと。

 

 カグヤと二人で歩いている間、久々に村を見渡す。

 もう冬が来て降りため、薪を取りに行く人や来年の春に使う農具を作っているのだろう。すると大量の薪を背負った人々のうちの一人、ヤトノスケが私に気づくと近づいてきた。

 

 「マカ! 帰ったんだ」


 「あ、うん」


 ヤトノスケを追うように私と同い年ほどの二人の若い女子が後ろからやってくると私を見ては平伏した。確か二人は小さい頃一緒によく遊んだ子達だったかな。名前は確か——。


 「マカ様よくぞご無事で! 小さい頃お側でお世話をしておりましたシズクです」


 「私も同じく、マカ様とよく神社でともに稽古しておりましたミゾレです」


 あ、思いだした。

 確か二人は私が六歳の時に修行に都に行っていた子達だ。

 二人は大人になった証に後ろ髪を上に置いて紐に結び、顔には刺繍を入れていた。


 「うん。覚えているよ。二人は修行を終えたの?」


 私が聞くとシズクがミゾレに変わって話した。


 「はい。二人して我が祖母イナメ様からマカ様をお支えするよう修行に勤め八年。先日狛村に帰って参りました。聞いたところによりますとマカ様が怪我をなさったとのことで、しばし私どもがお世話いたします」


 なるほど。お世話か。

 視線を隣のカグヤに移すと、カグヤは露骨に嫌な顔で私の着物の袖をしっかり握っている。

 別にカグヤから引き離すわけじゃないんだけどね。


 それから私はカグヤとシズクさん、それからミゾレさんと徳田神社に戻った。

 二人には歩きながらカグヤのことについて教えたけどカグヤはまだ信頼できていないのか不貞腐れた顔で拗ねたのか私と間を取って歩き始めた。


 神社に着くと境内にイナメさんが待っていてくれていた。


 「あぁ、マカ。それからお前たちか」


 私の後ろを歩いていたシズクさんとミゾレさんは姿勢を乱さず素早く私の前に来てイナメさんの方を向くとその場で平伏すると声を揃えて話し始めた。


 「ただいま帰還いたしましたお婆さま」


 「うむ。分かった。とりあえずカグヤちゃんはマカを寝床に。お前たち二人は蔵に行って新年の儀の支度をしておくれ」


 「分かりましたお婆さま。ではマカ様とカグヤ様。それではまた」


 二人は立ち上がると一度私とカグヤにお辞儀をした後、蔵に向かって歩いた。

 私はイナメさんに一度頭を下げた後カグヤに寝床に案内され静かに腰を下ろし寝床についた。

 いつもならカグヤは私が寝たら出て行くけど今日は珍しく私のそばに座り続けている。

 一体どうしたんだろう。


 「カグヤどうしたの? イナメさんのお手伝いに行ってもいいんだよ?」


 「お手伝い、あの二人に取られた」


 カグヤは頬を膨らませながらそう口にした。

 確かにあの二人が来たからやることなすこと取られたみたいなものなのかな?


 「ならヤトノスケの所は? お手伝いしていたでしょ?」


 するとカグヤは私の手を握ると私のそばに寝転んだ。


 「それも良いけど。——本当はただマカのそばにいたいだけ」


 「——あぁなるほど」


 カグヤは私に甘えたかったんだ。

 試しにまだ少し痛む腕を動かしてカグヤの頭を撫でると心なしか嬉しそうに目を細めた。


 「マカ。腕だいぶ動かせるようになったの?」


 「うん。まだ痛いけどね」


 「なら、痛み取れるまでマカのお世話は私がする」


 「いや、大丈夫だよ。二人が来てくれたから。無理しなくても」


 「無理してない」


 カグヤは私を恨めしそうに見ると体を起こし寝床から出ていった。

 カグヤが居なくなったからか急に寒くなった。


 「取り敢えず夕方ご飯が来るまで寝ておこ——」


 次に瞬間誰かが近づく音が聞こえた。その歩調に合わせてか床がしなる音が寝床に響く。

 警戒しよう。

 体に力を入れ、ゆっくり体を起こす。

 そして寝床の扉が開くと中にタキモトさんが入ってきた。タキモトさんは右腕を失い、左腕だけとなっても気にした様子を見せない。


 「え、師匠?」


 「——起きていたのか」


 私は暫くタキモトさんをただ無言で見つめる。

 どうしよう、この場合なんて声をかければいいのか分からない。


 タキモトさんは何も言わずに私のそばに座るとただ無言でどこか遠いいところを見ている。

 これ一体どうすれば……。


 「マカよ」


 タキモトさんは私にそう声をかけた瞬間私の頭の上に手を置いた。

 そして優しく撫で始めた。


 「強くなったな」


 「え?」


 タキモトさんはか細い声でそう告げた後、優しく抱き寄せてくれた。

 まるで私が知っているあの優しいタキモトさんの温もりで。

 違う、このタキモトさんは兄を失う前の人じゃない、別人だ。私は熱くなってくる目元に耐えながら息を整える。 

 

 「どうして……。今褒めるんですか?」


 「——某は怖かったのだ。突然……いやそれは言い訳だ。某が言いたいのはそれではない。ただ素直に褒めたかっただけだ。思えばお前を褒めるべきところで褒めることができなかったから……な」


 タキモトさんはそれから何も言わずただ静かに抱きしめてくれた。

 なんだろう、まるで私が、今まで勝手に怖がって拒絶していたみたい……。


 ——確かにタキモトさんも怖くて当たり前だ。このタキモトさんに取っては兄の存在は知る由がない。

  

 「なら、もっと早く褒めて欲しかったです。もっと早く褒めてくれたら師匠を誤解せずに済んだのに!」


 分からない。


 「なんで、なんで今更なんですか!」


 四年前のあの日、兄が消えてタキモトさんに叩かれたその時から私はもっと修行して、兄に近づけばもう一度優しいタキモトさんに戻るかもしれないと思って鍛錬してきていたんだ。 

 タキモトさんの元に行くのは怖いから、一人で修行しそれを見た蛙人のアマさんに鍛えてもらったんだ。


 だけど、だけどタキモトさんは——!


 「もっと、もっと早く褒めてください……。私は頑張ったんですよ! 師匠に認められて、優しい貴方に戻ってくれるのかもしれないって思っていたから!」


 タキモトさんは私が何を言おうと表情を崩さずただ優しく、そばにいてくれた。


 ————。


 あれからタキモトさんと話した。

 不思議と以前のような怖さが無く以前のような穏やかな気持ちになった。

 そこで私は早速剣術について聞くことにした。


 「あの、師匠。私の剣術は師匠にはどう見えていますか?」


 タキモトさんは暫く考えた後ゆっくり教えてくれた。


 「そうだな。お前の剣は確かに上達した。蛙人の技は体の身軽さを巧みに使ったものだ。お前にあったのは素早く体が軽いからだ。だが、人と蛙人とでは全く違う。蛙人はやれば木より高く飛べるがお前は出来るか?」


 「いえ、流石にそこまで……」


 「そうであろう。あの動きは例えお前であろうともすぐに疲れる。だからこそだ。それに蛙人は盾を使わない分、お前は無駄に力を使っている」


 「なら、どうすれば?」


 「お前の両肩の怪我が治り次第に某が指南しよう。それまではまず傷を治すことに専念だ」


 「は、はい。よろしくお願いします!」


 それから二十日がすぎて肩の怪我がだいぶ良くなり、腕を動かしても痛くない。逆に以前より肩が軽く感じた。

 カグヤは最初はシズクとミゾレとはそこまで仲が良くなく、珍しくカグヤが怒るなどしたが十日ほど経てば仲良くなっていた。

 凍てつく寒さの明朝、私はカグヤが寝ている寝床を見ると三人で川の字で仲良く寝ている。私はそれを見て胸の奥を温め木刀を持って藁靴を履いて屋敷から出るとあたり一面は雪化粧で真っ白に様変わりしている。

 玄関のすぐ前にタキモトさんが厚着で木刀を片手に待っていた。


 「治ったみたいだな。剣は振れるか?」


 私は試しに一度剣を振る。腕と肩に痛みはない。

 よし、大丈夫。


 「大丈夫です」


 「分かった。——森の中で行う」


 私はタキモトさんの後ろを歩き森の中に入り私の家がある丘に登るとそこで鍛錬を始めた。

 鍛錬は昼まで行い内容は模擬戦。

 その結果は私の惨敗だった。


 私は冷たい雪の上に転がり息を整える。そして立ち上がった瞬間タキモトさん剣先を私に向けた。


 「予想以上に剣術は上がっていたな。受け身がよく、動きにもあまり無駄がない。誰から教わったのだ?」


 「え、蝦夷のオトシロさんからです」


 「オトシロ?」


 「はい。天河の人たちに一族を救われた恩で天河に仕えているんです。とても剣術が凄く天河村に向かい道中に立ち寄って——」


 それから少し休憩代わりにで起きたことをタキモトさんに伝えた。

 タキモトさんは真剣にそれを聞き、会釈した。


 「あの、ではこれからどこを意識すれば……」


 「力が弱いそれに。斬る瞬間を見逃しすぎている。あとマカよ、剣は腕で振るな。体を使うのだ」


 「——なるほど」


 タキモトさんは体から少し力を抜いた。


 「四日後、宗介殿が迎えに来るようだ。これから某が教える剣術を生き残る気で覚えろ。剣術は死ぬためではなく、生き残るためにあるのだからな」


 四日後に宗介さんが。なら、時は迫っている分死ぬ気で指南を受ける他ない。


 「はい。お願いします」


 ——。

 

 四日間、死に物狂いでタキモトさんからの指南を受けた。

 二十回以上タキモトさんと戦い勝ったのは最後の一度きり。

 私としては強くなった自信はない。治ったばかりの体はアザだらけ。だけど痛くて怖いと言うものではなく、やりがいを感じた、誇り高い感じがした。


 この日も明朝からタキモトさんからの指南を受け、終えたのは昼頃だった。

 すると突然タキモトさんは私から木刀を取り上げた。


 「マカよ。今回お前には木刀でしか教えれなかったがマシになった。誇りに思え」


 「ありがとうございます!」


 「では、神社で宗介殿が待っているはずだ」


 「はい! ありがとうございまいした」


 私は駆け足で森を抜けると神社に着く。屋敷に入ると中には宗介さんが待っていた。宗介さんは私を見ると愉快そうに笑った。


 「おー! マカ殿。お久しぶりでございますなぁ!」


 「はい。お久しぶりです」


 挨拶を済ませたあと、イナメさんとカグヤさん、それからナビィさんたちがいた。ナビィさんは私に剣と盾を渡した。


 「マカさん。無理だけはしすぎないでくださいね」


 「はい」


 私は剣と盾を背負ったあと竪琴を私に近づけた。


 「あと、念の為にこれを。以前は使いませんでしたが持っていた損はないでしょう」


 「は、はい。分かりました」


 それから私はナビィさんからナビィの勾玉や狛の勾玉。さらに食料が入った袋を貰い最後はカグヤから笠を受け取った。

 その際カグヤは「シズクとミゾレが手伝ってくれた」と話した。

 最後に二人は私が屋敷を出る際奥からイナメさんとやって来て無事を祈ってくれた。


 村から出る前にヤトノスケと小切童子にカグヤと村をよろしくと伝えたあと宗介さんと共に村を出て天河安雲都(アマカワアクモノミヤコ)に向かって歩いた。


 それから四日ほど山道を歩く。山道は雪が積もり気が抜けたら崖の下に滑り落ちてしまう。私は棒を片手に慎重に山道を宗介さんと共に歩いた。

 道中は幸いにも妖怪が出ず剣を鞘から抜く必要はなかった。


 冬の道は夜になると死が待っていることから小切谷を出た後は一日掛けて天河安雲都(アマカワアクモノミヤコ)に向かう。

 山道の雪は深く積もっていたが、何とか日が沈む前に小切谷村に到着した。村に到着した後、門番が私を見てすぐにツバキさんを呼んでくれたおかげで私が事情を話すと理解をしてくれ神社に泊まることとなった。


 村に入り神社に着くと見知らぬ私より三つほど年上に見える若い女の人と二人の子供が親子のように遊んでいた。

 ツバキさんはそれを見ると女の人に声を掛けた。


 「おーいフキよ。客人二人で部屋を用意しておくれ」


 「フキ?」


 私が声に出した瞬間フキと呼ばれた女の人は驚いた顔で振り向くとその場で五歳ほどの子供二人と共に平伏した。が、ツバキさんは「構わんだろう?」と私たちを見ながら言ったため宗介さんは気を遣ってか「別に私は気にしませんがなぁ」と声を漏らした。


 それから二人の子供はツバキさんが相手をして、フキと呼ばれた女の人は私と宗介さんを寝床まで案内する。

 まず最初に宗介さんを案内した後、別の場所に私を案内する。するとフキさんは突然私に頭を下げた。


 「あなた様は狛村の源マカとお見受けいたします。先の時我が村をお救いくださりありがとうございます」


 「——あなたはもしかしてだけど」


 フキさんは顔を上げるとにっこりと笑みを浮かべた。


 「私はツバキの娘、フキと申します。以後おめしりおきを」


 「はい。私こそよろしくお願いいたします」


 次の瞬間遠くから走る音が聞こえたと思うと先ほどフキさんと遊んでいた一人の子供が木刀を片手に入ってきた。


 「ねぇお母様! 源氏様が来ているって本当!?」


 子供は目を輝かせながら私とフキさんを交互に見た後、私の髪色を見てか興奮気味に息を荒くした。


 「銀色の髪! 源氏様ですか!?」


 子供は私の体に抱きつくと嬉しそうにこちらを見た。私の反応を見てかフキさんは子供を抱き上げた。子供は駄々をこねていたがフキさんは半分諦めた顔で私を見た。


 「本当にごめんなさい。うちの長男が無礼な真似を」


 「いいえ構いません。この子の名前はなんと言いますか?」


 子供は不貞腐れた顔で「……フキカゼ」と小声で言った。フキさんはフキカゼの髪を撫でると抱いたまま立ち上がる。するとフキカゼは私を見ると手を振り回した。


 「源氏様! いつか暇がありましたら剣術の指南お願いしてもいいですか!?」


 「——はい。構いませんよ」


 「ありがとう!」


 フキカゼは喜びながらフキさんに抱かれたまま暴れ、疲れた表情をフキさんはしているが慣れた手つきで背中を撫でている。

 その後フキさんはフキカゼを寝かせに寝床から出て行った。


 


 宗介さんと私はご馳走をいただいた後寝床につく。それから喉が渇いて起きて水を飲みに向かうとツバキさんが縁側に座って月を眺めていた。ツバキさんは私に気づくと隣に座るよう手で仕草をしてきたため、私は隣に座った。


 「——マカよ。本当に天人が来たのだな」


 「はい。そのせいで七人が死にました」


 「——そうか」


 外が凍えるほど寒いせいかツバキさんの声には気力がなかった。するとツバキさんは包み込むように私の手を握る。


 「月神は日向の神の弟でとても大人しい神だと伝わっておる。なのになぜ血を流すことをするのかが理解できぬ」


 そしてツバキさんは私をゆっくりと優しい目で見つめた。


 「それはそうとあの子は大丈夫か?」


 「小切童子ですか? えぇ、彼のおかげでとても助かりました」


 「ん? 小切童子?」


 「え?」


 ツバキさんは目を丸くすると口を押さえて笑い始めた。

 

 「くくくっ、あの子はまだを隠したがるか。別に誰も気にしておらんというのにな」


 「え、どういうことですか?」


 「あの子の本当の名はアカツチだ。山に捨てられているところをワシが助けたのだ」


 「アカツチ……」


 「その名はワシが勝手にあの子を拾った場所の土が赤土であったからアカツチと名付けたまでよ。しかし、あの子は部外者だから名を名乗るのはおこがましいと思ってか皆に小切童子と呼ぶように懇願しさらに奴婢として扱えとも言ってきた」


 ツバキさんはゆっくり立ち上がると私を見下ろした。


 「やはり拾った時あの子を僕(しもべ)としてではなく、我が子のようにしておけばと今でも後悔しておるよ。——だからマカよ。もし暇があればいいのだがあの子を弟だと思って接しておくれ」


 ツバキさんはそういうとこの場を後にした。アカツチもとい小切童子にもやはり何かあったのか。


 それから私は寝床に寝て早朝に起きるとすぐに支度をして宗介さんと共に村の門に向かい村人たちに見送られるようにして出発した。

 休憩を挟みながら歩き続けしばらく。昼前になってようやく平原に出て来たをみると雪化粧に覆われたアマカワアクモノ都が見えた。

 到着した安心感で一息つくと宗介さんが私を見る。


 「ではマカ様。都にはチホオオロ様がお待ちですので急ぎましょう。恐らく痺れを切らし迎えに来られるかもしれないので」


 「——族長様って意外と短気なんですね」


 「えぇ、ですがそれが族長様らしく良いのですがね」


  再び歩き始め、私はほっと息を吐くと宗介さんは大きく肩を回した。


 「ようやくですな。マカ殿は以前オトシロ殿の元に向かうのにどう言った道で来たのですかな?」


 「私は川に沿って向かいました。そして近くの漁村に一度泊まってオトシロさんがいた部落に」


 「あぁ! あそこですか。確かに安全な道はそこだけなので行きと帰り共に泊まりますな」


 宗介さんは嬉しそうに笑いながら私の背中を叩いた。私は少しヒリヒリする背中を摩りながら軽く笑った。

 そして都に続く道を歩いた。天河との約束を果たし、秘宝を手に入れるために。

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