第20話 悩む俺、悩まないお前

 月宮にプレゼントって、何がいいんだろう? 陽キャの趣味というものがよく分からない。というわけで桜木先生に尋ねてみた。


「いや、私に言っても仕方ないでしょ……」

「つい最近までJKだったんですから、分かるでしょう?」

「最近って言っても、私はもう28歳……、あっ……」


 思いがけないところから年齢を知ってしまった。28歳……。見えない。もっと若いのかと。


「そうです私は28歳独身です……」

「いや、独身までは言ってないですよ」

「とにかく! 私に女子高生のことなんて分かるはずないです! 帰ってください!」


 職員室からぶっ飛ばされた。俺は先生の地獄の門を開けてしまったようだ。先生にもいろいろあるんだな。教師であるよりも前に、人間なのだ。

 次はどこに当たろうか。暇そうだし、気が進まないが金田にでも聞くか。金田は放課後にもかかわらず教室をうろちょろしているからな。


「え? 誕生日プレゼント?」

「ああ」

「そんなの、俺の方が知りたいぞ! 文化祭のときは月宮と一緒にいるところを見せびらかしてきやがって! 今度はプレゼントを考えろって!? うわー!!!」


 発狂した。こいつは大丈夫なんだろうか? 金田は床に倒れ込み、動かなくなった。AED持ってきた方がいいかな。


「だから、誤解だよ。俺と月宮は付き合ってねえよ」


 俺が声をかけると、金田はムクッと生き返った。


「付き合ってないのに手を繋ぐのか!?」

「あれはあいつが無理矢理……」

「……少なくとも、月宮は俺よりお前の方が好きみたいだな」


 金田はズーンと重い空気を放ちながら、俺と距離を取る。文化祭以降ずっとこんな感じだ。


「陽キャの癖にくよくよするな」

「俺って、月宮に本気だったんだな……」

「まだ可能性はある。頑張れ」


 あまりにも可哀想なので、つい励ましてしまった。俺の柄じゃないのに。


「……日野、いいこと言うじゃねえか。俺、頑張るよ。月宮に認められるように」


 なんだかよく分からないが、立ち直ったようだ。金田の目には輝きが取り戻った。


「俺もそのパーティ参加していいか!?」

「それは土屋に聞いてみないと分からないな」

「OKよ!」


 いつからいたんだよ。土屋はおそらく気配を消す魔法が使える。しかし、金田の急な参加を許可するなんて予想外だ。土屋と金田に接点があるとは思えない。


「たくさんいる方がいいからね。きっと光ちゃんも喜ぶわ」


 土屋は綺麗な黒髪をなびかせて笑った。確かに、この話は大勢でやる方が楽しいだろうな。月宮は特にそういうタイプだし。


「俺もプレゼント考えておくから。日野も頑張れよ!」

「ああ」


 金田なら、女子の心を掴むプレゼントを用意するのは得意だろう。なんせパリピ中のパリピ。金髪に染めるような輩は必ず女子に慣れてる。


「それじゃ、早速探してくるぜ! じゃあな!」


 金田は新幹線のスピードで教室を出て行った。土屋と俺だけが残った。


「土屋も、プレゼントに悩んでるのか?」

「うん……。私も実は悩んでてね……。長年一緒だとマンネリ化しちゃうの」

「それもそうだな」

「日野くんも、明日光ちゃんにちゃんと言うのよ? 好きなもの教えてほしいって」

「分かってるよ」

「それじゃあね」


 土屋もひらひらと手を振ると、教室を出て行った。俺も明日に備えて帰ろう。


 ☆


 翌日。駅までの道がいつもより長く感じる。おそらく、誕生日プレゼントのことで頭がいっぱいだからだろう。


「日野くーん!」


 聞き慣れた声が横から聞こえたので振り向くと、そこにはいつもと変わらない月宮が。髪を揺らしながら俺の方に走ってくる。輝くような笑顔で俺の名前を呼ぶ。


「早く行くぞ」

「待ってー!」


 何もかもがいつもと同じ。……のはずなのに、俺の気持ちだけが違っている。ただ、好きなものを一つ聞くだけだ。緊張するようなことはない。


「月宮……」

「今日の放課後一緒に遊んでいかない?」


 遮られた。ますます話を切り出す機会がなくなった。仕方がない。ここは月宮に合わせよう。


「どこ行くんだ?」

「それはねー」


 ☆


 放課後、俺は月宮に連れられて、駅近くの建物に入った。ここはアニメのグッズなどが置いている店。月宮がここを選ぶのは意外だな。


「じゃーん! ここなら日野くんでも楽しめるよね!」

「俺はアニメオタクじゃねえよ」


 入り口にあった巨大なポスターを得意げに指さす月宮。

 店内は賑やかな雰囲気で満ちていて、見渡す限りの商品に心が躍る。どれも名作揃いだ。


「一緒に見ようよ!」

「仕方ねえな……」


 月宮は本当に無邪気だ。悩み一つ無さそうな笑顔。これを見ていると俺まで能天気になりそうだ。

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