第10話 おじさん、盗賊にからまれる


「お待たせしました。こちらの【ステータスチェッカー】をご使用ください」


「出たな。冒険者の適性を見る謎の水晶玉」



 さっそく俺は水晶に手をかざす。


 説明しよう。【ステータスチェッカー】とは、手をかざすだけでPCの能力値を計測できる優れたマジックアイテムだ。能力に見合った職能クラスをおすすめしてくれる。たとえば……。



『――タクト・オーガン。メイン能力:筋力、技量。適性職業:剣士』



 水晶から音声が流れて俺の適正が判断される。

 これで魔法使いと出たら、すぐにでも剣術師範の仕事を辞めないといけない。

 それはいいんだけど……。



「おかしいな。能力値の具体的な数値とか、幸運やカリスマみたいな隠しステータスも表示されるはずなんだが」


「なんですかそれ怖い……。人の運勢や魅力を数値で計れるわけないじゃないですか」


「それはそうなんだけど……」



 どうやら具体的なステータスは閲覧不可能らしい。

 タッチパネルウィンドウも表示できなくなっていた。

 サービス終了と共に、世界の常識が書き換わったのだろう。

 


「リリムも見てもらえ。何かしらのクラスに就かないと冒険者になれないからな」


「ふふん。よかろう。ワシさまの隠されし実力に恐れおののくがいい!」



 リリムは水晶玉に向かって右手をかざして力を込める。

 ほわっ……と黒い光が水晶玉の内側に灯って――



『――リリム・メッチャボウクン・シュトロノーム18世。メイン能力:へっぽこ。適性職業:■■■の娘』



「おかしいですね。最後よく聞こえませんでした。故障かな……?」


「【タクトの娘】って出たんじゃないかな。あはは……」



 受付嬢は水晶玉を持ち上げて、あれやこれやと調べている。

 一方、俺は内心で冷や汗をかいていた。



(あっぶねぇ……。【魔王の娘】って出るところだったろ)



 イレギュラーな存在であるリリムには適性職業がなかったのだろう。それでエラーが生じたのだ。

 ステータスチェッカーは適性を見るだけのマジックアイテムだ。リリムが【悪魔族】だとわかったら大事になるが、カチューシャで角を隠しているのでバレないはずだ(たぶん)。



「ワシさまの能力が『へっぽこ』とはどういう了見りょうけんだ! 適性もおかしい。ワシさまは魔王の血を……むぐっ!」



 俺は慌ててリリムに駆け寄り、自分から正体を明かしそうになったおバカな口をふさいだ。



「思春期の娘は難しくて敵わないな。あはは~」


「むぐぐっ! はなせっ、ロリコン!」


「誰がロリコンだ! おまえみたいなガキは守備範囲に入らないっての!」


「それはそれで聞き捨てならん! これでもおっぱいは大人サイズなんだぞ。キャラデザ担当の趣味だ!」


「お二人ともお静かにお願いします。他のお客様のご迷惑にもなりますので」



 カウンターの前でワーキャーと騒ぐ俺とリリムを、酒場の方にいた冒険者たちが注目しはじめた。

 受付嬢はリリムと俺の顔を交互に見つめて、困ったように眼鏡の位置を直す。



「適性クラスがわからないとクエストの案内ができないのですが……」


「適性がなくても冒険者のライセンスは発行されるんだよな?」


「はい。その場合は新人冒険者である【ノービス】のまま登録することになります」


「それでかまわない。経験を積ませてから改めてクラスを選ばせるから。案内もいらないぞ。クエストの受け方もわかってる」


「かしこまりました。それでは、リリムさんには仮免許を発行しますね」



 俺は本ライセンスの証である銅の記章バッジ、リリムは木の記章バッジを受付嬢から渡された。


 冒険者にはランクがあり、駆け出しは銅からスタートして銀、金、プラチナと階級が上昇していく仕組みだ。

 木の記章バッジはランク外の新人冒険者の証で、受付嬢が言っていた通り仮のライセンスである。



「これでお二人は冒険者の仲間入りです。リリムさんは頃合いを見て再び適性を調べにいらしてください」


「えー。めんどくさーい」


「ウチの子が本当にすみません。ほら、リリム。お姉さんにお礼を言って」


「おせわになりーまーしーたー」



 リリムに頭を下げさせてから受付カウンターを去る。

 今日は長旅で疲れた。ひとまず宿を取って明日からクエスト開始だ。

 そう思ってギルドを出ようとすると……。



「くくくっ。おい、あのガキを見ろよ。わざわざ適性を調べに来たのに、ノービスのままだってよ」



 騒ぎを遠巻きに見ていた柄の悪い冒険者たちが、リリムに難癖を付けてきた。



「ははははっ! よっぽど冒険者に向いてねぇんだろうな。帰ってママのおっぱいでも吸ってな」


「なんだと!? ワシさまを愚弄するとは許せん。タクトが成敗してくれる。そこに直れ!」


「やるのは俺なのかよ……」



 今にも噛みつかんばかりに咆えるリリムを制して、俺は首を横に振る。



「ああいう輩は付き合うだけ時間の無駄だ。いいから行くぞ」


「あっ、こら! はーなーせーーー!」


「ははははっ! 父親の方もとんだ抜けだぜ。負け犬にでも再就職した方がいいんじゃないか~?」



 俺の背中に向けて小馬鹿にした揶揄やゆを浴びせてくる冒険者たち。

 俺は何も言い返さず、そのままギルドを後にした。



 ◇◇◇◇◇◇



 ギルドを出て宿屋がある下町の方へ向かう道中、リリムは頬を膨らませてプンスコと怒っていた。



「をのれ! 低脳クソ冒険者どもめ! タクトまでバカにするとは許せん! 下痢になれ!」


「俺のために怒ってくれるのか」


「当然だ。おぬしは命の恩人。イノシシを一撃でほふった剣技も見事のひとことだった」



 街へ向かう前に俺をバカにしていたはずだが、怒りで本音をポロリしているようだ。褒められているこっちは恥ずかしいが、ここは素直に気持ちを受け取ろう。

 リリムは腕を組んで我が事のように誇らしげに語ると、ポンと手を叩いた。



「今から戻ってタクトの技をお見舞いするのはどうだ? あやつらのケツの穴に剣をぶっさせ! 下痢にしろ!」


「そんなことをしてみろ。乱闘罪で騎士に捕まる。せっかく手に入れた冒険者ライセンスも剥奪はくだつだ」



 俺たちが手を出せないのがわかっていて、あの冒険者たちもバカにしてきたのだ。

 頭に血が上ってグーパンでも決めたら今夜の宿はブタ箱になる。



「ああいう連中は実力で黙らせる方が効果的だ。リリム、冒険者にとっての実力って何だと思う?」


「う~んと……岩も持ち上げられるほどの怪力か?」


「戦士が相手ならそうかもな。けど、冒険者という大きなだとランクが実力の指標しひょうになる」


「なるほど! ランク上げして舐められないようにするわけか」


「そういうことだ。俺にいい考えがある」




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バーチャルアイドル リリムちゃんの宣伝コーナー

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 リリム「”いい考えがある”はフラグなんだよなぁ……」



 おはボウクン! ここでワシさまからの宣伝だぞ!

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