第43話 おじさんと魔王女、チカラを授かる



「エリカが【アトラク=ナクア】に捕まった!」


「やはりキサマ、BBA蜘蛛の仲間だったか! そこに直れ、成敗してくれる!」



 リリムはブラッディソードを構えてモルガンに突撃する。



『――落ち着け』



 だが、霊体であるモルガンを斬ることは敵わず剣はすり抜けてしまった。



『――妾もこれは想定外じゃ。まさかエリカだけでなく【運命の石】まで盗んでいくとは』


「……っ!? いつの間に!?」



 エリカがさらわれた衝撃で気づくのが遅れた。

 運命の石も【アトラク=ナクア】に奪われていた。



『――姿を見せんと思ったら石を引き上げるまで待っておったのか』


「おいこら幽霊BBA! おぬしの落ち度だぞ。責任を取るのだ!」


「言い争ってる場合か。いいから早くエリカを助けるぞ!」


「だが、どうやって居場所を見つけるのだ!? 相手はどこでもテレポートで移動しまくるのだぞ」


「逆の立場ならマップで見つけられるんだがな……」



 元PCのエリカならマップガイドシステムが使える。相手がテレポートを使おうが瞬時に場所がわかる。

 だが、NPCである俺とリリムではマップを表示できない。しらみつぶしに探すしかないか。



『――運命の石が遠くに……。時間が……い。通信が切れる前にチカラを授けよう』


「なにか策があるのか?」


『――タクト・オーガン。無銘を掲げよ』



「こうか……?」



 モルガンを疑っている時間はない。

 俺はわらにもすがる思いで無銘の刀身を天に掲げる。



『――灰の魔女【モルガン・ルフェ】の名の下に命ずる。【繧ォ繧ェ繧ケ繝悶Μ繝ウ繧ャ繝シ】よ。勇者の元へ彼らを導け』


「うおっ!? タクトの剣がめっちゃくちゃ光っておるぞ! ゲーミングソードなのだ!」


『――光の差す方向にエリカがお――。パーティーマーキング機能の応用――よ』


「助かる!」


「まだ消えるな! ワシさまにも何かないのか!?」


『――ふふっ。そう言うと思っ……。この欲しがりさんめ』



 モルガンは途切れ途切れの音声で笑う。

 すると次の瞬間、リリムの全身が黒い光に包まれた。



「うおおぉっ! 魔力がみなぎるのだ。ワシさま、スーパーゲーミング魔王になったのだ!」


『――え……? なにそれ怖い……』


「おい! おぬしの仕業ではないのか!?」


『――くくっ。冗談じゃ。妾の魔力をリリムに与え――。悪魔族の角は魔力の制御装置――……。暴走する危険はな――……』


「格好いいじゃないか、リリム。急いでエリカを助けにいくぞ!」


『――最後のサービスじゃ。地上への出口を開いてやろう』



 モルガンの声がさらに遠くなる。

 次の瞬間、俺とリリムの足下に魔法陣が描かれた。

 【アトラク=ナクア】が使っていたテレポートと同じ魔法陣だ。



『――け、最後の勇者たちよ。”バグ災”から世界を救うのじゃ』




◇◇◇◇◇◇



 不思議な浮遊感と共に、俺とリリムはテレポートの魔法で地上へ飛ばされた。

 目を開けるとそこは中央広場の噴水前だった。



「振り出しに戻る、か」


「タクト。無銘の光が向こうの建物を指し示しておるぞ!」



 リリムが言うように、無銘から放たれてる白い光が街の一角を指し示していた。

 光の先にあるのは宮殿のような建物、その一番高い場所にある鐘撞かねつき堂だった。



「急ぐぞ! ついてこられるか?」


「誰に言っておる!」



 俺が【ムーブ】を駆使して短距離瞬間移動を繰り返すと、リリムは魔力を燃やして同じ速さで後ろについてきた。

 建物の屋根を伝いながら宮殿に近づいたところで、リリムが声を上げて鐘撞き堂を指差した。



「鐘撞き堂にBBA蜘蛛とエリカがおるぞ!」


「間違いないのか?」


「魔力のおかげでめっちゃよく見える。BBA蜘蛛がエリカを巻きにしておるのがわかるぞ。それと……ああ!」


「なんだ!? もったいぶらずに言え」


「あの蜘蛛、【運命の石】を掲げて何かしようとしておる!」


「まずいな。何するつもりか知らないがとっとと止めるぞ」


「ここはワシさまに任せるのだ! 超絶パワーアップした今のワシさまならやれる!」



 リリムはブラッディソードを鞘から引き抜くと、鐘撞き堂に剣先を向けた。



「パパ上直伝! 【デンジャラスブラックサンダーDBTオーバードライブ】ッ!!」



 リリムの叫びと共に、黒い魔力の雷が降り注いだ!





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