第22話 おじさん、英雄として讃えられる


 エルメリッヒ伯爵を討伐してから3日が経過した。

 溶岩が流れ出す前に凍らせたので、街には被害が出なかった。


 とはいえ、宮殿が半壊するほどの大騒動だ。

 伯爵の悪事もろとも、一連の事件は街の住民に知られることになったのだが……。



 ◇◇◇◇◇◇



「皆も知っての通り、タクト・オーガン殿の活躍によって悪は討たれたであります!」



 商業都市バイデンを護る白銀はくぎん騎士団。

 その騎士団長であるシェルフィは、騎士団宿舎の広間にて部下に熱弁をふるう。



「皆の中には貴族である伯爵に逆らえず煮え湯を飲まされていた者、家族を人質にされた者までいた。だが私たちを縛るかせはもうない。これから己が信じる騎士道に基づき、職務をまっとうしていきたい。皆もそうでありますな!?」


「おーーーーー!!」



 シェルフィの言葉に騎士達が雄叫びをあげる。

 それは魂の解放を喜ぶ、心からの叫びに聞こえた。



「タクト殿は伯爵の不正をただして街を救っただけでなく、我ら騎士団の魂までも解放してくれた。よってここに特別騎士勲章を授与したいであります」


「やあ、どうもどうも」



 シェルフィに目で合図されて、俺は頭を掻きながら壇上に上がる。



「あの方がタクト殿か。どこか冴えないが人は見かけによらないと言うからな」


「オレは見たぞ。氷の魔法剣で一瞬にして溶岩を凍らせたところ。ただ者じゃないぜ……!」



 俺の顔を見た騎士たちは、思い思いの反応をしていた。

 宮殿を半壊させた犯人としてではなく、まさか英雄扱いされるとは……。

 道場に篭もりきりで人から注目されるのに慣れていない。正直、恥ずかしかった。



「リリム・メッチャボウクン・シュトロノーム18世殿も、奴隷の解放に一役買ってくださった。その剣さばきは鬼人の如し。リリム殿にも勲章を授与するであります」


「ふはーーーはっはっ! 当然だ。ワシさま、めっちゃ活躍したからな!」



 壇上に上がったリリムは大きな胸を張って、アホみたいな笑い声をあげていた。

 リリムの姿を見た若い騎士たちが一斉に色めき立つ。



「おお……! アレが噂のちびっ子魔剣士か」


「可愛い……。オレ、ファンになっちゃうかも」


「ちびっ子と聞こえた気するがまあいい。今日のワシさまは気分がいいから不問とする。ワシさまのファンになった者は、チャンネル登録と高評価をお願いするのだ!」


「うおぉぉぉ! よくわからないが応援するぞーーーー!」


「リリム様! こっち向いてくれーーー!」


「ハハハハ! くるしゅうない! よきにはからえ!」



 元バーチャルアイドルのリリムは高笑いをあげながら、騎士たちの賞賛の声を気持ちよさそうに浴びていた。



(あいつ、こういうの好きそうだもんな)



 実際、リリムはよくやった。馬車で運ばれていた奴隷を救ったあと、シェルフィと協力して地下に囚われていた奴隷たちも解放した。

 事が上手く進んだ背景には、ある人物の協力があったみたいだが……。



「タクト・オーガン殿に敬礼!」



 シェルフィの号令で、騎士たちが一糸乱れぬ敬礼を行う。

 胸に右手を当てて相手に御心捧げる、この国独自の敬礼ポーズだ。



「あ、どうもどうも」



 胸に勲章をぶら下げた俺は、もう一度頭をかいて礼を述べる。

 表彰されたのは初めてなので勝手がわからない。ピースでもすればいいんだろうか。



「タクト殿。ひと言お願いするであります」


「えっ? マジで」


「はい! 皆、タクト殿のお言葉を心待ちにしております!」



 リリムと違って俺は人前に出るのが苦手だった。

 けれど、押しの強いシェルフィのからは逃れられない。

 やむを得ず俺は腹をくくり、総勢30名の騎士たちを前に演説を行う。



「え~、本日はお日柄もよく……」



 ◇◇◇◇◇◇



 俺は当たり障りのない言葉を並べ、お立ち台から降りた。

 緊張していて、何を喋ったかは記憶にない。

 しかし、シェルフィはいたく感動したようで……。



「うぅ……。すばらしい演説でした。生きる勇気を頂いたであります! このシェルフィ・カタローグ、今日という日のことを生涯忘れないでしょう」


「ふっ、やるではないかタクト。目指すか、芸能界のテッペン」


「誰が目指すか」



 リリムまで無駄に感じ入ったようで、訳知り業界人風に親指を突き上げていた。

 俺はリリムをスルーして、シェルフィに語りかける。



「まさか勲章を貰うとは思わなかったよ」


「何を仰いますか。タクト殿はそれだけの働きをしたであります。誇っていいであります」


「けど、いくら悪事を働こうが伯爵は貴族だろ? 反逆罪でお縄になってもおかしくなかった」


「ご安心ください。ギルド長が中央に掛け合ったであります。宮殿を崩壊させた件も不問にするそうです」


「そいつは助かった」



 あれだけ暴れておとがめなしだなんて。

 ギルド長はずいぶんと俺を買ってくれているらしい。


 元のクエストでも、伯爵を倒したあとはギルド長が街を治めることになる。

 宮殿の跡地に孤児院と学校、交易所が新たに設けられ、解放した奴隷もそこで面倒を見る流れだ。

 イレギュラーな事態が発生したが、オチとしては収まるところに収まった感じだ。



「とはいえ、もう一人の協力者……」


「エリカのことか?」


「はい。彼女は見つけ次第、事情聴取を行わなくてなりません」


「理由も告げず姿を消しちまったからな……」



 伯爵を倒したあと、崩れ落ちる宮殿を急いで脱出した。

 その騒動にまぎれるようにして、エリカと名乗った魔法使いは忽然こつぜんと姿を消した。



「地下に囚われていた奴隷を助けられたのも彼女のおかげです。ひと言お礼を伝えたかったのでありますが」


「あの子は奴隷を解放するために動いてたのか?」


「そのようです。タクト殿が宮殿に忍び込むのと同じタイミングで別口から侵入して、地下の奴隷を解放したようです。おかげでスムーズに安全を確保できました」



 エリカが事前に奴隷を解放したおかげで、彼らは溶岩に飲み込まれずに済んだ。

 伯爵が暴れ出す前に衛兵を逃がしたことも功を奏して、人的被害は最小限に抑えられた。



「エリカはシェルフィを知ってる感じだったけど、連絡はつかないのか?」


「はて? 私の知り合いに氷の魔法使いはおりませんが」


「そうなのか? ますます謎な女の子だな……」


「名誉や報酬のためではなく、ただ弱者を救うために力を奮う。もしかしたら伝説にうたわれる勇者様なのかもしれませんね」


「勇者……か」



 勇者と呼ばれる存在=PCプレイヤーキャラのことだ。

 けれど、サービス終了したこの世界にPCはもういない。

 自分の意思で動けるようになった【上位権限NPC】なのだろうけど、エリカという名前の魔法使いに心当たりはなかった。



 ◇◇◇◇◇◇



 昼から夜にかけて祝賀会に出席し、美味しいお酒と料理を頂いた。

 これにはリリムも大満足。宿に戻ったらすぐに寝息を立てて眠ってしまった。



「ふぅ……。今日は月が綺麗だ」



 宿の2階、そのベランダに出て葉巻煙草をくゆらせる。

 煙草は騎士の一人から貰った貴重品だ。

 1本しかないので、ありがたく吸わせていただく。


 雲ひとつない、虫の声すら聞こえない静かな夜。

 ピリっとした苦みのある煙を口に含んで、ゆっくりと吐き出す。

 まさに至福の一時……。



「だから邪魔するな」


「やはり気づかれましたか」



 綺麗な月を背にして、女魔法使いエリカが音もなくベランダに現れた。

 途中から虫の声が止んでいた。

 エリカがまとう氷の魔力に驚いて、身を潜めたのだろう。



「騒ぎは起こすなよ。子供が部屋で寝てるんだ」


「ご安心を。アナタをパーティーへ誘いに来ただけです」


「勘弁してくれ。二次会に出るつもりはない。今夜は飲みすぎた」


「そうではありません。アナタには””を見せた方が早いでしょう」



 俺が酒とメシで膨れた腹を撫でていると、エリカは空中に””を表示させた。



「改めまして。ワタシの名前は【夜渡よわたり 絵里香えりか】。この世界……です」





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バーチャルアイドル リリムちゃんの宣伝コーナー

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 リリム「これにてシーズン3終了。ワシさまのファンも増えて大満足なのだ。次回もバリバリ活躍するのでこの先も絶対読んでくれよな★」


 おはボウクン! ここでワシさまからの宣伝なのだ!


 この作品は、カクヨムコン9に応募しておるぞ。読者(おまえだ)の★がランキングに影響する。面白いと思ったら★をくれるとワシさま大喜び。コメントで応援してくれるとワシさまがお返事するのだ。作品のフォローも忘れずにな。がははは!


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