第19話 おじさんと女魔法使い、共闘する


「くっ、殺しなさい……!」



 女魔法使いはテンプレな台詞を吐きながら、悔しそうに肩を震わせる。

 


「殺しはしない。俺も伯爵を捕まえにきたんだ」


「どういうことですか? 反乱でも企てているんですか」


「地下に奴隷がいるだろ? そいつらを助けたいだけだ」


「奴隷を助けに……?」



 俺の説明が功を奏したのか、女魔法使いの肩から力が抜けていくのがわかった。

 警戒を解いてくれたのだろう。



「ようやく話を聞いてくれる気になったようだな」



 そう言って無銘を下ろそうとすると――



「伯爵! ご無事ですか!?」



 大きな音を立てて入り口のドアが開かれた。

 ドヤドヤと入り口に群がる衛兵たち。

 俺は下ろそうとした無銘を構え直して、女魔法使いの隣に並んだ。



「騒ぎすぎたか」


「そのようですね」



 女魔法使いは首筋を軽く撫でながら、懐から杖を取り出した。

 俺たちの背後には手足氷漬けにされたままの伯爵がいる。

 昨日の敵は今日の友。俺たちは捕えた伯爵を守るように前に出た。



「遅いぞキサマら! そこの騎士も敵の一味だ! 女ともども始末しろ!」



 伯爵は助けが来た途端に強気になったのか、大声で衛兵に命令を下す。


 女魔法使いのせいで途中経過は変わったが、これが本来のクエストの流れだ。

 雑兵がいくら増えようが敵はPCたちに倒される。それが定めだ。

 だが、その間に伯爵は宮殿の外に逃げ出してしまう。

 そのあとは奴隷に見つかり、復讐の刃によって命果てるのだが……。



「ええい。鬱陶うっとうしい氷だっ。その女を殺して早く私を解放しろ!」



 伯爵は手足が氷漬けになって逃げられない。

 俺も逃がすつもりはなかったので結果オーライだ。

 これで伯爵を気にせず戦えるな。



「ワタシが氷で足止めしますので、剣士さんは衛兵を無力化させてください」


「不殺を誓ってるのか?」


「無益な殺生を好まないだけです。この兵士たちは伯爵の命令に嫌々従ってるだけ。盾の騎士シェルフィみたいに」


「シェルフィを知ってるのか」


「知ってるけど会えませんでした。こんな展開も想定外です。何はともあれ……」


「ああ……」




 俺と女魔法使いは同時に頷き、迫り来る衛兵にそれぞれの得物を向けた。



「外野を黙らせる!」



 俺の叫びが戦いを始める合図となった。女魔法使いは床に向けて杖を向ける。



「【アイシクルバインド】!」


「なっ!? 床が凍って……う、動けないっ!?」



 部屋に足を踏み入れた途端、衛兵たちは足が氷付けになる。



「こりゃ楽ちんだ」



 剣を振るうまでもない。

 俺は無銘を鞘に収めると、当て身の要領で衛兵たちを昏倒させていく。



「お務めご苦労さん」


「ぐぅぅ……っ」



 パタリパタリ、と倒れていく衛兵たち。

 その場から逃げようとした者も、女魔法使いの魔法によって氷漬けにさせられていた。



「これで静かになりましたね」


「あとは伯爵を突き出すだけだな」


「くっ……! ふがいない連中め。こうなったら……!」



 追い詰められた伯爵は凍傷で腕の肌が剥がれるのをいとわず、懐から小瓶を取り出した。そのまま口の中に含む。

 次の瞬間――



 ――――ボンッ!



 伯爵の体が真っ赤な炎に包まれる。いきなりの出来事に俺は目を見開いた。



「自爆した!?」


「違います。伯爵の体内にものすごい魔力を感じる。やはりこれは……」


「ぐふふふ……。魔力がみなぎってくる。何も恐れることはない。最初からこうしておればよかったのだ」



 炎によって伯爵を捕えていた氷が溶かされる。

 伯爵は灼熱の炎を全身にまとわせながら、力を確かめるように右手を握りしめた。



「試し撃ちといこう……。【ァイアーール】!」


「伯爵の声がバグった……!?」





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