雪人形

めいき~

雪人形

雲がゆっくりと動いている。



宝箱の蓋をゆっくりと上げ、今日も笛を吹く男に合わせて人形が踊り出した。


拳の様な小さなシルクハット、紅い眼、全てが透けそうなレースに白いドレス。



口づけた、場所から燃え上がる炎。



冷たい箱からあふれ出す様に、人形が今日も一礼して起き上がる。



侘しい空気すら、偽物のそれは。



手を振れば、赤と白の薔薇が咲き乱れ。

その輪をくぐって踊りだし、口元だけで笑いながら。


無表情の人形が、その下を舞う。


茨の下で、人形なのに数多の血を流し。


無表情で、踊り続け。



羽が舞い散る様に、血に染まるレースがふわりと舞い上がる。




笛を吹く男の胸で、懐中時計がかちりと鳴れば。



童話を一人で演じる、人形がカーテシーをした。



そして、また宝箱の中に戻っていき自分で蓋をしめた。



人形になってしまった少女は今日も広場で、道化を演じる。



笛吹の男もまた、精巧な美しい人形だと思っていて。

その事実を知らない……。



今日もまた雲がゆっくりと動いて、蛍の様に雪が舞う。


空が焼き付いたように、同じ空を繰り返し。




天咲くが如く、光は誰にでも降り注ぎ。


しかし、宝箱の中に光は届かず。



誰にでも祝福する、希望の朝も。


人形は、いつ訪れたのかも知らず。



今日も、笛の音が聞こえたら。


自分で、ゆっくりと蓋をあけて踊りだす。



それを、お客は拍手で迎える。



真実は、いつの日も残酷で。

真実を知らぬものだけが、笑い続ける。



その、真っ白な雪人形が溶け消えるその日まで。

そして、次の雪人形は観客かそれとも笛を吹く男か。




その虚空が朽ちるまで、その世界が消えゆくまで…。



人形の細められた目じりから、光がこぼれ。



それすら、雪景色に消え。



手を重ね合わせ、体温の無い手が動く。



祈る様に歌いあげ、空の果てまで怨みを届け。



又、宝箱の暗闇へ。



夢を届ける少女の物語、怨みを重ねてく人形の物語。




ようこそ、道化の世界に……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪人形 めいき~ @meikjy

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説