第7話 もしかして僕、最強?

「あれ、魔力が流されてそれから気絶したような……」


「セイくん!よかったぁ〜、魔力を流したらいきなり倒れて起きないから心配だったんだよ!」


 そう言って、横になっている僕を煌めいたルビーのような潤んだ瞳で覗き込むハルさん。今日の夕日なんて比べ物にならないくらい、綺麗だ。ハルさんのこんな顔を見たら、誰もが恋心を抱くんだろうな。僕以外に向けて欲しくないなぁ。何考えてんだよ僕!恋人でもないのにそんなこと考えて、恋なんて死にいく僕に必要ないだろ!そうだよ、必要ない、必要ない。そう心の乱れの答えを結論づけた。


「なんで、気絶したのかな?」


「たぶん、魔力への慣れが少なかったんだと思う。過去にあった事例なんだけど、魔力のない空間で育った子供が初めて魔力を感じた時に気絶したんだよ。だから、セイくんも今まで魔力の薄い場所か、全くない場所で育ったんだと思うよ。以前どこに住んでたか思い出せそう?」


 地球には魔力が全くなかったし、現在このマヨイ大森林も魔力がない、これらの環境によって気絶したのだと納得した。


 ハルさんに地球のことについて話すかについては、転生者、転移者の扱いがどうなっているかわからない以上、下手に言うべきではないと思う。だから、ここは記憶喪失のふりを続けていくべきだ。


「僕も魔力のない環境にいたかどうかは、まだ思い出せないんだ、ごめん」


「記憶がなくて辛いのはセイくんなのに、聞いちゃってこちらこそごめんね」


「僕は全然気にしていないから、大丈夫!それより、魔法の授業を再開しよう」


「セイくんは強いね。よし、張り切って教えるよ!」


「はい!」


「そしたら、もう一度魔力感知してもらうね。今度はゆっくり流すからら安心してね」


 今度は気絶しないことを祈りながら、両手をハルさんの前に差し出す。ハルさんが僕の掌を優しく包み、しばらくすると、段々と何か温かいものが掌から体へ血液のように伝わっていく。


「この温かいのが魔力?」


「そうだよ。はじめての魔力はどうかな?」


「不思議な感覚だけど、温かくて心地いい」


 魔力を知覚し始めると、体の至る所から少しずつ魔力が生成され、全身にくまなく流れていることに気づくことができた。どうやら、魔力は特定の器官が製造しているのではなく体の細胞全てから作られ、それが血管を通って全身を巡っているんだと推測した。どこかに魔力器官があると思って日々魔力の鍛錬をしていたあの時間が全て無駄であるわかり、虚しくなった。でもいい!これで魔力に気づくことができ、魔法を使える基礎が整った。


「魔力感知できだから、魔法教えてハルさん!」


「もちろんそのつもりだよ! 前も説明したけど、魔法には火、水、風、土、光、闇の6属性あって、それぞれに10段階の魔法があるよ。それじゃ、魔法の適正属性と魔力量を調べてから、セイくんの属性に合った魔法を教えるね」


 言い終えると、鞄の中からピンポン玉大の透明な水晶玉を取り出した。その水晶玉を手渡され、魔力を込めてと言われた。その通り、魔力を込めると、水晶玉が激しく光始め、その眩しさのあまり目を瞑った。


 まぶた越しに感じる光が弱まり、目を開くと、透明だった水晶玉の半分が黒に染まり、残りは5属性の色彩で染められていた。


「…………ちょっと待って私が一回試してもいい?」


 そう言って、ハルさんが水晶玉に魔力を流すと、目を閉じなくても大丈夫なほどの発光がおき、その後、赤が水晶の半分を占め、そのほかは均等に水晶の中を舞っていた。


「……えっと、セイくん、君とんでもない魔力を持っている上に、私と同じ全属性使いだよ。驚き通り越して、今の状況あまりわからないや」


「それじゃ、全属性10段階いけますか?」


「セイくんは、闇魔法が10段階目まで使えて、他は4から5段階目にかけて使えると思うよ。私が知ってる魔法教え終わったら、魔法師の中でもトップレベルになるよ」


 そう言う僕の水晶の変化が起きてた時は目が点になって動いていなかったハルさんは、かえって冷静になっているようだった。


「ハルさん!僕に魔法を教えてください!」


 僕に教える義理もないのに魔法を教えてくれると言ってくれたハルさんに、改まって敬語でお願いをした。


「1つだけお願い聞いてもらってもいい?」


 真面目な顔が崩れて、悪戯な笑顔を僕に向けてきた。


「はい!聞きます!」


 生きろ以外のお願いは受ける覚悟はできていた。


「私とセイ君で私がもういいって言うまで組んでよ!」


 予想外のお願いで、出鼻をくじかれた気分になった。だが、慣れない世界で効率的に強くなるために、こちらからお願いしたいことでもあった。それゆえに、あの悪戯な笑顔の裏に何かあるのではないかと感じたが、殺せるものなら殺してくれっていうスタンスを取っているので、気にする必要はない。もちろん答えは、決まっている。


「はい!僕でよかったら、どこまでも」 


「魔法教えてから、逃げたしないでよ。逃げたら、泣いちゃうからね」


 ハルさんは手を目に当てながらチラチラとこちらを見てくる。そのわざとっぽい泣き真似に、子供っぽさを感じたがその思いは胸に秘めることにした。


「そんな、恩知らずじゃないから大丈夫だよ」


「よかった〜!なら、さっそく火魔法から教えいくよ!最初は、魔法を見せるね。その後、お楽しみの時間だよ」


「ハルさんを超えられるよう頑張る!」

 やはりその目には、泣いた後なんて様子はなかった。よっぽど、火魔法が好きなのか顔が綻んでいた。


「その気概はいいよー!それじゃ1段階目火魔法ファイヤーからだよ。まずは、魔法を出したいところに魔力を集中させる。次に、それを魔法の言葉ファイヤーって唱えるとこのように魔法が放たれる。最後は、次の魔法を撃つのに備えるため、状況判断を怠らない。よく、魔法を撃って満足する魔法師がいるけど、その多くが魔法の準備が遅れて死んじゃってるから気をつけてね」


「気をつけるよ」


 ハルさんは説明しながら、器用にファイヤーを見せてくれた。ファイヤーは、弱りかけていた焚き火の息を吹き返させた。やっぱり、魔法は何度見ても胸にグッとくるものを感じさせてくれるんだよな。厨二病を患ったことはないが、この魔法を見たらつい闇の炎に抱かれて死ねって言いたくなる。最後のハルさんの説明は近接が苦手な魔法使いの弱点を減らすための策なのだと思う。この忠告は、忘れないようにしよう。


「次は、前も見せた2段階目魔法ファイヤーボールだね」


 そう言うと、手を前に素早く出しファイヤーボールと唱えた。放たれたファイヤーボールは、以前の半分程度の規模になっていた。


「見てて分かったと思うけど、魔力を錬る時間を集中すると、集中してない時よりも、攻撃力が高い魔法を放つことができるんだよ。しかも、同じ魔力量でね。ここ大事だから忘れないようにね〜!」


「疑問があるんだけど、いいかな?」


「はいセイくん、どうぞ」


「攻撃力を上げられても、近接になったら魔力を錬る時間が命取りになると思うんだけど、どうすればいいの?」


 きっと、剣と魔法の世界であるこの異世界は、魔王と戦う過程で絶対近接使いと戦うことになりそうだから、魔法使いの弱点、近接の弱さの課題を解決したいと考えていた。


「答えは2つあるよ。1つは、消費魔力を増やして段位の高い魔法を使えば、すぐに攻撃力の高い魔法が出せるよ。もう1つは、剣とか槍とか武器を使えるようにするのもいいかもよ。私は、魔力でゴリ押ししてるけどね」


「そうすると、魔力量の多い僕はハルさんと同じ戦法が合ってるから、魔法に集中することにして、強くなるよ」


 魔王討伐をできるだけ早く成し遂げるためには、下手に剣に手を出して器用貧乏になるよりも、魔力量が豊富かつ全属性使える利点を生かして魔法使いとして最強になろうと思う。


「意外かも、ほら男の子ってよく剣とか振りたがるでしょ、だから、セイくんもそうなのかと思ってた」 


「僕はハルさんの弟子だから、ハルさんみたいに強くなるよ」


「おっと、嬉しいね〜!」


 そう言って、頭を撫でてくれる。相変わらず、頭を撫でられると対応できないで固まってしまう。


「強くなりたいので、次の魔法を見せて!」


「じゃ、3段階目火魔法いくよ。……ファイヤーストーム!」


 目の前に、嵐のように荒れ狂う高さ5mほどの火の塊が現れた、その熱風に後ずさんだ。僕より火に近いハルさんの方を見ると、全く熱を感じていない様子だった。


「ハルさんは熱くないの?」


「これはね、私の魔力で作った火だから、私の体の一部みたいなものなんだ。ほら、こうして触っても、火傷してないよ〜」


 ハルさんの絹のように繊細な手は、綺麗なままだった。これは、もしかすると、魔法使いは最強なのかもしれない。と言うのも、自分にファイヤーストームやそれ以上の魔法を使い人の接近を拒み、そのバリアの中で魔法を放ち続けることでどんな相手にも勝てると考えたからだ。やばい、頭が良すぎる僕が怖い。このまま魔王ぶっ倒せるかも。そうと決まれば、魔法の言葉全て教えてもらおう。


「魔法、魔法の続きやろう!」


「う、うん……」


 セイはハルの肩を掴んで顔を近づけ、満面の笑みを浮かべていた。彼の漆黒の髪が夜風に舞い、深く黒い瞳は星のような美しい輝きを放っていた。そんな彼をハルは見つめることができず、顔をそらした。



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死にたがり高校生は、異世界で魔王討伐しないと死ねない。〜不死の能力で、自殺は不可能!?魔王討伐しか道はないのである〜 はしもん @AS1025

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