第5話 ゲノムアークの真実

「ゲノムアークは失敗をし続けたのだ。そして今も」


 ゲノムアーク計画、それがもし、彼らの世代だけではなく、もっと遥かな太古より行われて来た計画だとしたらどうだろう。まず、高度に成長した一つの星があった。ゼネックらの星と同様の荒廃の道を辿り、彼らもその星からの移住を考えざるを得なくなった。


 その際、彼らは初代とも言うべきゲノムアーク計画を開始させる。


 遥かな外宇宙へ飛び立った船団の内の幾つかは、新天地に到達し、彼らの持つ生物の鋳型を、その星々に定着させることに成功した。その地では生物が予め進化をした状態で誕生する。人間には言語もあり、技術と知識もある。発展速度は通常とは比較にもならない。


 だが、人間が世界の中心として回り続ける体制に変化がなければ、その星の寿命も短く、遠くなく破滅を迎えることに変わりはない。


 人類は発展し続けなければならないという、皮肉な運命に縛られている。幾度となく自然環境を侵略し続けても、それは変わらない。


 結果、彼らは降り立った星で再びゲノムアーク計画を発動させる。その計画は何らかの形で暗示されているか、もしくは人類を動かす巨大な歯車によって管理されているのかも知れない。


 宇宙は広いとはいえ、人類が移動できる距離には限りがある。ゲノムアークはこの宇宙で、これまでに何度行われて来たのだろうか。


 始祖たる人類が始めた計画を第一次ゲノムアーク計画と呼称し、それらが遠方同士の二つの星々に根を下ろしたとする。そして、続く第二次計画でも複数の星々が植民地化される。それらがまたゲノムアークを発動し、徐々に広がりながら宇宙の星々を食い散らかす。彼らは分裂を続け、星を食い、星だけでなく宇宙を侵略する。


 ゼネックの呟きに、キャスターが応えた。


「ゲイロンが別の星々、そして我々とは何世代か異なる祖から発展したとして、それが遂にこの広大な宇宙の中で出会ったのだ」


 シャハルが言葉を継ぐ。


「となると、この付近の星々は全て、もともと人類が生存不可能か、もしくは既に他の人類が住み着いているっていうことだ。お手上げだね、こりゃ」


 重苦しい空気が流れていた。彼らがゲイロンと別れてから数ヵ月が経過している。ゼネックらの宇宙航行はそう遠くなく開始される。


 結局、彼らはゲイロンの存在を上層部に報告しなかった。ゲイロンもまた、ゼネックらと別れる道を選んだ。その後、宇宙船の他の乗組員たちを探すと言っていたが、その後どうなったのかは分からない。彼らにとっても、もはやゼネックらと会わない方が良いだろう。


 恐らく、ゲイロンらの宇宙船がばら撒いたDNAは、この星の生態系に大きな変化を齎さない。既に、それらと多くの類似点を持つ、同様の生物がこの星にも存在しているのだ。少しばかりDNA同士が溶け合い、それが生体に突然変異を促した所で変化に限界はある。


 何も変わらないのだ。


 ゲイロンの別れ際の言葉が、ゼネックの脳裏に蘇る。


「私たちの母星には、この星が生存可能だと言う連絡が飛んでいることだろう。結局、私たちも私たちの上層部の思惑は分からない。彼らがここへやって来て、君たちの置かれている状況を見て絶望するのか、それでも、短い命と知りながら、この星を治めるべく戦争するのか。もしくは、この星に来ないのか……」


 これから先、俺たちは何の為に、何を求めて宇宙へ行くのだろう。ゼネックのその問いに答えられるものは、誰もいない。

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(短編)ゲノムアーク計画 石たたき @ishitataki

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