第5話 学園長との邂逅

 そんなこんなでレイ達は学園長室にやってきた。


「さっさと話済ませて教室行こうか。仕事詰めだったのからやっと解放される」


「私達を守ったみたいな言い方してたけど、もしかして自分が仕事をサボりたかっただけ?」


「だって毎日魔物殺しをさせられてるんだぞ? さすがに飽きるだろ」


 ドゥーベがため息をつく。


 ルークは呆れた顔をするが、レイはそういう顔をしない。


「キス魔兼通訳。根暗がなんて思ったか聞いてみ」


「それならまず呼び方を改めなさいよ」


「それほ無理。それよりお前より俺の凄さが分かってる根暗に聞いてみって」


 ドゥーベがルークを急かす。


 ルークは不機嫌になりながら諦めたようにレイに向かい合う。


「あの変質者になんて思ったの?」


「いや、単純に魔物を殺してるっていうのが凄いなって」


「出現率?」


「それもだけど、毎日殺し合いをしてるのにこんなに余裕でいられるのが」


 毎日殺さないといけない程の魔物の数も気になるところだが、それ以上に魔物を毎日殺しているのに見たところ怪我一つなく、余裕を持っている。


 普通はそんなのありえない。


 毎日戦えば少なくとも傷の一つは付く。


 それに人間だから疲れるはずだ。


「毎日がどれだけにもよるけど」


「連勤百日からは数えなくなったな」


「逆にそれまでは数えてたの?」


「冗談だよ。忘れてたけど、多分百日は超えてるんじゃないか?」


 それなら本当に凄いことだ。


 人間の域を超えている。


「その連勤中にここに来たことは?」


「ないな。今日来たのはちょっとした気まぐれだから」


 ドゥーベがこの学園に最後に来たのは下手をしたら数年前になる。


 だからこの学園の生徒でドゥーベを教師だと

 知る者はいない。


「仕事は気まぐれで休めるんだ」


「正確には休憩中? ここに来る前に戦って、今は仕事待ちってとこかな」


「どれぐらいの頻度なの?」


「休憩に一時間取れたら多い方かな。今日はどうしようもないやつ以外は入れないように頼んだけど」


 ドゥーベはそう言ってため息をついた。


「頼めば休めるの?」


「これも仕事のうちだから正確に言うと休みじゃないけどな」


 ドゥーベもドゥーベで苦労しているようだ。


 だからといってそれを気にするレイとルークではないけど。


「そんな過酷なものを手伝わせようとしてるの?」


「学園でつまんない生活送るか?」


「それよかはいいんだろうけど」


「だろ? それにそんなに時間はかからないだろうしな」


 ドゥーベはそう言うと学園長室の扉を開けた。


「ノックをしろ」


「どうせ気づいてたろ?」


「長々と話してたな」


 少し不機嫌そうにレイ達を見る白髪の老人がこの学園の学園長であるシリウスである。


「お前は昔から──」


「長話を聞きにきたんじゃないんで本題をはよ」


「ほんとに変わらないな。お前のせいで何回校舎の工事をさせられたか……」


 シリウスはドゥーベの元担任で、昔からドゥーベに手を焼かされていた。


「ほんとそういうのいいから早く本題」


「はぁ……。本題と言ってもさっきドゥーベが話していたので大体合っている。担任はドゥーベになり、前任は解雇。君達が倒した生徒達はまだ治療中だから詳しい処分は見送りだ」


 シリウスが淡々と告げる。


「それとドゥーベ、仕事だ」


「よし、教室行くか。俺が担任としてみっちりしごいてやる」


 ドゥーベはそう言ってレイとルークの肩を掴んで学園長室を出ようとする。


「わかってるだろ。本職だ」


「……今日はそっちは無しって話だろ」


 ドゥーベがシリウスを睨みつける。


「特例だ。お前にしか出来ないことなんだよ」


「……条件がある」


「私に言っても仕方ないことだろう」


「そっちは俺が何とかする。だからお前に頼まないといけないことを頼む」


 ドゥーベの顔が初めて真剣なものになった。


「本気か?」


「その為に俺が来たんだろ」


「……さすがに私だけの判断では決めきれない」


「今決めろ。そうじゃないなら俺はここを離れる気はない」


 ドゥーベがシリウスに射殺そうかという視線を送る。


「本人達の意思だよ」


「そんな当たり前なこと言うんじゃねぇ」


 ドゥーベが一度深く息を吐いてからレイとルークに向かい合う。


「お前らも来い」


「命令?」


「違う、これから俺は死地に行く。お前達もそれに同行してくれるかを聞いているだけだ。断ってくれていい」


「そうしたらあんたも残るの?」


「お前達が断るなら一人で行く。だから選んでくれ、俺と行くかここに残るか」


 ドゥーベの顔は真剣そのものだ。


 だからルークも茶化したりしない。


「まぁ転入初日だけど、この学園で学べること無さそうだからあんたについてくよ。レイも行くなら」


「僕はルークが行くなら行く。どうせルークの居ないこの学園に居たって死んでるのと一緒だし」


「それは私と死ぬまで一緒っていう告白?」


「出来れば死んでも一緒がいいかな」


 いじったつもりがいじり返されたルークの顔が一気に赤くなった。


「いいぞ、約束する、俺はお前達を死なせない」


「死亡フラグ」


「そんなんに負ける程弱くないんだよ」


 ルークの皮肉にドゥーベがやっと小さく笑う。


「これが成功したら〈敗北者〉の扱い変えろよ」


「善処する」


「出来ないなら学園が無くなると思え」


 ドゥーベはシリウスを脅してからレイとルークを連れて学園長室を出た。

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