第4話 握られた手の温もり
二人で世間話を……するほど日々に彩りが無かったので、暇つぶしでじゃんけんをしていたら扉の前に人の気配を感じてルークが警戒態勢に入った。
「問題児共、今から開けるけど人に見せられないことはしてないな?」
「してる」
「じゃあ開けるぞ」
声の主はそう言うと扉を開けた。
すると流れるような動きでルークがレイに絡みつく。
「……いや、早く出ろよ」
「反応が薄い」
「せめて服を乱れさせてるか、キスでもしてろ」
「てか誰?」
歳は二十後半ぐらいの見た目で、黒髪で細身だけどキリッとしている男。
その男が顎に手を当てて何かを考えている。
「そっちも知らないか?」
男がレイに問いかけるとレイは頷いて答える。
「俺って結構な有名人だと思ってたんだけど」
「自意識過剰?」
「お前いいな。ズバズバ言う奴は好きだぞ、言葉の裏を読まなくてよくて話すのが楽だ」
男が顎に手を当てたまま「うんうん」と首を縦に振る。
「それで誰?」
「俺はドゥーベって名乗ってる。いずれ世界を手に入れる男?」
「自意識過剰の上に虚言癖が……」
ルークが本気で引いている。
ドゥーベは気にした様子も無く牢獄を出る。
「この学園では一番強いから。それより出たくないか? それなら死ぬまで仲良くこの中でもいいけど」
「私達にはやることがあるから死ねないよ」
ルークはそう言って立ち上がった。
「白昼堂々とキスすることか?」
「違うけど? アタ大丈夫?」
「ますます気に入った。キス魔と根暗、ついてこい」
ドゥーベが二人をそう呼ぶと、ルークがキレた。
部屋の入口が炎に包まれた。
「殺す」
「ルーク、いきなりすぎだし、それは危ないよ」
「そうそう」
いつの間にかドゥーベがレイの隣に座っていた。
(速い、じゃないか。飛んだのかな?)
「何した?」
「別に何も? 俺が強かっただけ」
答えにはなってないけど納得するしかない。
ルークが炎を放った時には確実にドゥーベはソトに居た。
だけど炎が消える前にドゥーベはレイの隣に座っていた。
「怒りで周りが見えなくなるタイプだな。ここは密室なんだからそんな馬鹿みたいに炎なんて出したらすぐ死ぬぞ?」
「お前が先に死ねば解決だろ?」
「怖。そんなにキス魔って言われたの嫌だった?」
「そんなのどうでもいい。取り消せ、レイを根暗と言ったことを」
それを聞いたドゥーベが驚いた顔になる。
「なるほどね。ただの猪突猛進バカではないのか。いいじゃん、まぁ取り消さないけど」
「じゃあ死ね」
ルークがドゥーベを殴ろうとしたけど、拳が当たる前にドゥーベが消えた。
壁に当たりそうだった拳をレイが受け止めた。
「瞬間移動だね」
「正解。俺はお前を〈
「……」
ドゥーベの質問にレイは沈黙で答える。
嫌いだからとかではない、〈敗北者〉であるレイは普通人と話せる権利はない。
ルークとは命令があるから話しているが。
「ルールは破る為にあるのに律儀だな。てかその話もしたいんだけど」
「レイ離して、男の子に手を握られるのなんか照れる」
「また無くなりそうなの?」
詳しくは話されていないが、ルークは魔力が無くなると色素が薄くなり、性格も変わる。
その兆候が出始めている。
「今は変質者が居るから後でお願いしてもいい?」
「別にいいよ。こっちのルークも可愛いからいいけど、なんか調子狂うし」
「酷い……」
ルークが頬を膨らませてレイの胸をポカポカと叩く。
「俺は何を見せられてんの? いいから早く出てくんない? 道すがら話すから」
「レイ、どうしたらいいと思う?」
「ずっとここに居る訳にもいかないから言われた通りにしよ。どっちにしろあの人には勝てないから」
ドゥーベには余裕がある。
殺そうと思えばレイとルークは顔を合わせる前に死んでいる。
「殺されてないから信じるんじゃなくて、勝てないから従うしかないか。信用の無さにショックを受けた」
ドゥーベがわざとらしく胸を押さえる。
「それじゃあ行こ」
「うん」
レイがルークに手を差し出すと、ルークはその手を恥じらいながらも握った。
「若くて甘い空間。胸焼けする歳でもないはずなんだけどな……」
ドゥーベは胸を押さえながら先に歩くレイとルークの後に続いた。
「それで私達はどういう扱いになるの?」
少し歩いたところでルークが振り返ってドゥーベに聞いた。
「忘れられてなかったんだ。まぁ扱いも何も、お前達は模擬戦で相手を倒しただけだからそもそもあそこに入る必要も無かったんだよ」
「知ってるよ。だけど入れられたのはなんでか聞いてるの」
模擬戦で相手に重傷を負わせるのは学園では当たり前のことだ。
そんなことでいちいち独房に監禁なんかしていたら独房が足りなくなる。
「なんか話し方が柔らかくなったな。それはいいとして、理由としてはアホな担任のくだらないプライドと、形的に〈下克上〉が成立したからだな」
「なんか教室で騒いでたけど、どういうシステム?」
「簡単に言うと、〈敗北者〉が人としての権利を得る為のものだな」
〈下克上〉とは、底辺である〈敗北者〉がクラスの誰かを倒すことで立場を入れ替えることが出来るシステム。
昔は行われることがあったが、最近では行われることは無かった。
理由としては勝てる訳がないから。
〈敗北者〉に武器の支給なんて無く、素手で戦うことしか出来ない為近づくことすら出来ない。
そんなことが続けば先にメンタルがやられるのは当然のことだった。
「実際に戦って倒したのはキス魔だけど、根暗も含めた二対二なのは事実だからな。だからその揉み消しをする為にお前らを閉じ込めた訳」
「じゃあ無かったことにされたの?」
「いんや? その為に俺がいる」
ドゥーベがドヤ顔を見せる。
「俺は非常勤講師みたいなやつでな。気が向いた時だけこの学園に来てるんだけど、たまたま来たらそんな話を学園長としてたから割り込んでみた」
「それで結果は?」
「お前らの担任は解雇。倒した学生達は今まで通りだ」
ルークが不思議そうな顔をする。
「つまり今までと何も変わらないってこと?」
「変わるぞ。俺がお前達の担任になるからな」
「たまにしか来ないのに?」
「詳しく言うなら、お前達二人の担任だな。直属の部下って言ってもいい」
それを聞いたルークが露骨に嫌そうな顔をする。
「そんな悪い話じゃないぞ。俺の仕事についてきて直で仕事を見ることも出来るし、普段はこの学園で暮らしてればいいから」
「でも結局レイの扱いは変わらないんでしょ?」
「そりゃ、戦闘中にただ突っ立って女子に守られた挙句にキスされてる奴の扱いなんて変わらないだろ?」
ルークが怒って魔法を放とうとしたのをレイが手を強く握って止めた。
「それをもっと出してけってことだよ」
「私のストッパーって言いたいの?」
「それだけじゃなくても、キス魔と一緒ならでもなんでもいいから有能性を見せればいい。実際根暗はこの学園の学生のほとんどよりは強いだろ」
その言葉にルークが驚き、レイが無反応を貫く。
「どうしてそう思うの?」
「魔法が使えないのに素手でキス魔の拳止めたろ。あの時魔力込めてたんだろ?」
「手を握られたことで頭がいっぱいすぎて気づかなかった」
いくら女子と言えど、魔力を込めた拳は込め方によっては岩をも砕く。
そんな拳を伸ばした片手であっさり止めるのは〈敗北者〉には絶対に不可能だ。
「何か理由があって力を隠してるのなら別に構わないけど、これからはもう一人の体じゃないんだからな?」
レイはドゥーベの言葉には変わらず反応しない。
だけどルークには伝わってきている。
手の温もりとその強さから。
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