第3話 入指

「ううん…」


私は、立ち上がってすぐ体に付いていた泥を払った。

そして、状況を整理する。


「そうだ…おじさんっ‼︎」


「やっとば目、覚めちゃるにゃぁ?」


おじさん弁が鼓膜を震わせる。


はっと目を開く。しかし、そこにあったのは、二本の腕。


腕と腕の間には横向きに開いた口があり、同じような形で一つ目が輝いていた。


「おじさん…?」


そう、これが、指湯に浸かった代償だったのだ。気づけば、私のコートの切れ目から長い腕が見えていた。


触ってみる。こそばゆい感じだ。私から生えているらしい。


「頭もふれちゃーにゃいよ」


言われた通り頭も触る。すると、右目の10cmほど上に、何かが生えていた。


「そんにゃ、指にゃるべ、お嬢ちゃんっぺこべと成らんで良にゃるきにゃー」


そうだ。私より、おじさんの方が酷いことになっているのだ。私が泣いてはいけない。


「でんぺ、そーべか時間みたいにゃき、にゃるべ会えるべっぺーにゃ、あにゃせんべにゃすかにゃー」


おじさんは、「にゃ、またにゃ」と言い残し、目と口を閉じた。それと同時に左右の手が分離し、それぞれ地面に叩きつけられる。

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