第2話 入浴

「あの〜…」


指湯には、一人目の客がいた。そのおじさんは、異性の私に大事な部分を堂々と見せつけてくる。


「女湯、どこか知りません?」


私は、恐る恐る尋ねた。


「すまにゃ、お嬢ちゃん」


おじさんは続けた。


「わしもわからんちゅうにゃき、親指用の風呂っぺ浸かっとるんにゃがよ。ほれ、見渡っちゃにゃきー」


そう言われて、周りを見渡す。


地面から一本の腕が生えており、その腕は看板を持っていた。


その看板を見てみると、人差指用と書かれている。


「ほげ、こんがわしゃさっとおったやーにゃきー」


訛りすぎてなんと言っているか、曖昧なのに何故か理解できる言葉。

それが、おじさんの訛りだった。

あえて区分するなら、おじさん弁といったところか。


私は言われた方向を見る。確かに、親指用と書かれていた。


「そげか、おじちゃんっち入っとべやべにゃかー。すまっぺにゃ、ちーとっとで上がりにゃるきー」


「ありがとうございます」


おじさんは、風呂を出ると、後ろに置いていた布束を無造作につかむ。よくわからないうちにその布を着終えたおじさんは、


「まっちゃー、どげかそでにゃるげ、まー話すきなー」


と言って、山を降りる道に向かって歩いていった。


「じゃあ、私も浸かるかな…」


そう思い、服を脱ぎ、太陽と向かい合う形で湯に浸かる。


この二日間の思い出が蘇る…



「ヴァァァァ‼︎‼︎」


突然、おじさんの声が叫んだ。

私は、急いで指湯を出、服を着てから来た道を走り下った。

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