僕達のかくれんぼ
葱巻とろね
『生贄新聞』令和4年 2月19日 発行
カクヨム:淡雪 Twitter:呂尚 (敬称略)の短歌からです
1:ここ、行ったことある!
いつか見た
竹林に
思い馳 せ
笑みを浮かべる
新聞の記事
※いけにえが見えましたか?
_______________________
「かくれんぼしようよ!」
僕は元気いっぱいに声を上げて目の前の女の子__ゆうかちゃんを誘った。
「いいよ」
彼女は無表情を崩さず小声で返事をする。
「やったぁ! じゃあ、ゆうかちゃんが鬼ね! 30秒数えてよ!」
「うん」
僕の事を見つめた後、背を向ける。そして数を数え始めた。僕はそれを確認して近くの竹林へ駆け出した。
発展が乏しい村にいる子供は僕とゆうかちゃんだけ。だから僕たちは今日も夕焼けの中、竹林の近くで遊ぶ。
自分の身体より小さい竹から彼女を覗く。ゆうかちゃんは数え終わったのか周りをきょろきょろと探していた。僕は足元に落ちていた小石を拾って投げる。それは音を立てて転がり、どこかへ消えた。彼女はその音を聞いてこちらへ向かってくる。
また僕は竹林の遠くへ逃げて様子を見る。これではかくれんぼになっていないが、僕達にとってはこれでいい。逃げては探して、逃げては探してを繰り返している内に竹林の奥深くへとやってきた。この竹林は昼間でもやや薄暗いので、夕方になると遠くが見えなくなっていた。僕達のかくれんぼには都合が良い。
しばらくした後、一つの祠を見つけた。かなり古ぼけていているが、蜘蛛の巣や落ち葉は一つもついておらず不思議な雰囲気を出していた。
僕は自分の身体よりとても大きな竹に隠れて、ゆうかちゃんを待つ。一分もしない内に彼女はやってきた。僕を見つけたのか少し嬉しそうに走ってくる。
「見つけた……!」
「うわぁ、見つかっちゃった! じゃ、今度は逃げてね!」
「うん」
口角が上がって優しそうな彼女の表情に背を向ける。
「いーち、にーい、さーん、よん、ご…………もう、いいよね」
振り返るとそこに彼女はいなかった。当たり前だ。これは僕達のかくれんぼ。見つかったら終わりなのだ。
前に大人たちが話している声を聞いたことがある。
「__どうにか対処できないんですか!?」
「無理だ。仕方ないだろ、この村は見守り様があってこそだ」
「だ、だからって子供を生贄にだなんて……」
「お前が代わりになってもいいんだぞ。確か、最近籍を入れたらしいな」
「……! そ、それは」
「それに、子供ほどの純粋な奴の方が見守り様も気に入るだろう」
「で、では、どちらを生贄に……?」
「さあな、まぁ、この村の未来を考えると女の方を残した方が良さそうだな」
「そ、そうです、よね__」
この村はとても古臭い風習を今もなお続けている。見守り様なんているはずがない。すべて人間の作り上げたでまかせ。しかし、僕が恐れるべきは出まかせを信じる大人たちの方だった。
「__おら、大人しくしろ!」
「嫌だッ! 離して!」
「ゆうまくん、怖くないわよ。ちょっと出かけるだけだからね」
「嘘だ! ぼ、僕知ってるよ、僕、生贄にされるんでしょ!」
「なっ、何でそれを……」
「き、聞いたんだ。ぼ、僕よりゆうかちゃんの方が純粋だよ! 純粋な子供の方がいいんでしょ!?」
僕を取り囲む大人たちは顔を見合わせる。何かをこそこそと話しているようだった。
「……だったら、お前がゆうかを生贄に連れてこい」
「っ……わ、分かったよ__」
今日は計画していた日。竹林の奥深くで
風が吹き、カラスが声を荒げる。何かを企むなんて純粋な子供にはできやしない。少し態度が変だったかもしれないが、当事者もいなくなったので分からないだろう。僕はすまし顔で竹林を出る。そこには数人の大人が立って僕を見ていた。さすがに何かを感じ取ったのか何も言わず、一日が終わった。
そこから数年が経った。部屋の掃除をしていると一枚の新聞が目に留まる。
『少女が行方不明 竹林で迷子か』
一面には詳細が大まかに書いてあった。もちろん、記事には風習の事、僕の事については一切触れていない。僕は一つの写真が頭に残り、竹林へと足が動いた。あの日と同じ夕暮れ時、竹は成長しより薄暗く不気味だ。古臭い祠の前に僕は立つ。少女のおかげで僕は今もこうして生きている。徐々に口角が上がる。
「ありがとう」
新聞の切れ端を祠にお供えする。写真の少女はとっても笑顔で僕を見ている。こちらも嬉しくなった。僕はこの村で唯一の子供。
僕達のかくれんぼ 葱巻とろね @negi-negi
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