第二話


 手が滑ってピザが地面へと急速に近づいていく。しっかりと焼き目が付いてあるお陰でトッピングがそこらにまき散らされたりはしなかった。そして宇宙船は案の定、トマトソースの面を下にして無事地球に着陸した。


「ナイスキャッチ」

 

 二人前を毎回頼まなければならない要因、ぼくの厄介な友人が汚れたフローリングの弁護人みたいに口を開いた。ぼくは落ちた欠片を拾い上げると箱に入っていた厚紙にくるんで、ゴミ箱に捨てる代わりに奴に投げ渡してやる。


「服が汚れるだろ」

「でももう汚れてる」

「そうだな、今汚れたんだ」


 いつも僕が指摘するのは、食べ方とか姿勢とか、そういった些細な所作についてだった。口うるさく言うつもりはなかったが、気になってしまう時もある。

 勿論、友人として。


「だけど、口を上手く閉じられないのに『零すな』って言うのか?」

「そういう時は何にも言ってない」

「神経質だ」

「もういいから、それ全部片付けてくれ」

 ぼくは軽口を聞き流して箱と残り物を机の向こう側に押しやった。


「おい!要らないからって他人ひとに押し付けるな」

「腹が減ってるっていうから注文したんだ」

「言ってない」こちらを態々向き直って続ける。

「それに、あれだけ種類があってチーズの載ってないコレを注文したのは気に食わないし、恩着せがましい態度も、このペパロニだかセサミだかも一等気に食わない」


 そして段ボールの蓋を閉じるとこちらに押し付けた。ぼくは億劫だったがまた蓋を開け、片手で一切れを半分に分けるとぼくはそれをなるたけ噛まないよう口に放り込んだ。奴はそれを見届け終わると、ベランダのサッシに手を掛けながら忠告してきた。


「明日も惨めな朝を迎えたくないなら、もう寝た方が良いな」


 素直にそうする事にした。

 


 

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