拾捌話 キミツジコウ

『蒲公英』を奪取した数日後の調査の資料をこちらで拝見した所、何者かが意図的に人間に対しての殺意を植え付けたような痕跡が発見されました。


それにより犯人は主催者ではない事が分かりました。その証拠として『蒲公英』を作り出した研究所の監視カメラをツテに裏でハッキングして貰って過去の映像を閲覧した結果、あの男はゲームルールやシステムは作ってはいましたが、


——結果として、『蒲公英』の開発には一切関与していなかったので、確定で白だと断定します。


他に容疑者になりそうな人物として、他資料に記述があった依頼人の姉である谷口菊さんが該当しますが、彼女の場合、開発初期の段階で辞めている事や、ゲーム内に別の言わば擬似的な人工知能を構築していた件もあり、本件においては白だと思われます。


『蒲公英』の履歴をまた例によってツテの力で改めて洗ってみた所、人間への殺意を植え付けられた時刻が判明しました。


——7月21日…23時59分25秒。


その当時、会場には『蒲公英』はなく、まだ運送する前…某ゲーム会社の倉庫の中だったそうです。監視カメラを見た限りその時間は例外なく誰も社内に人がいない事は既に確認しました。


つまり、その時間に何者かが監視カメラの死角から侵入して犯行に及んだと考えられます。現時点で分かった事は以上です。


この件とは別に依頼された『405号室密室事件』につきましては後日、別途で連絡を入れさせていただきます。


今後ともご贔屓に。  『零落園れいらくえん


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『固有スキル持ち』私的♪調査リスト兼遺書



『最も、最強な者』

本名:柳田 早八名 (やなぎた はやな)

状態…死亡


固有スキル「スーパーガード」

効果→発動してから一定時間、あらゆる攻撃を無効化する


備考

他にもゲームマスターの特権で固有スキルの効果を不正に変えたり、チート武器使ったりコマンドを行使したりと本来ならこのデスゲーム内で無双する筈だったが、本物の前では全く歯が立たずに開始1時間程で死亡した。


コメント:彼女に一撃入れたシーンは…見ていて、らしくもなく心が鳴ってたね…伊達に最強を名乗ってない…正に、影のMVPに相応しい存在だと私はそう思ったよ。



『最も、運動神経が良い者』

本名:残雪 唯 (ざんせつ ゆい)→ 螻ア蟠手*莠

状態…生存


固有スキル「競歩帰還ホームシック」→「邏?痩迢ゥ」

効果→速くもないが、補足できない独特の動きで敵を撹乱する(予想)閾ェ霄ォ縺悟享縺、縺セ縺ァ謌ヲ縺?r邯夊。後☆繧九?ゅ◆縺?縺励?∫嶌謇九↓荳?謦?〒繧ょ?繧後i繧後◆蝣エ蜷医?∫嶌謇九′蜿励¢縺溘ム繝。繝シ繧ク縺ッ繝ェ繧サ繝?ヨ縺輔l繧九?


備考

デスゲーム開始から一切、表舞台に姿を現さずに、ゲーム序盤、ふと気がついた頃にはその姿がなかった。その結果、一時的に空席になったが、何処からか固有スキルの条件を満たした存在が現れ、白き花園で楓と戦いを繰り広げた。


コメント:正直…あの二人の固有スキルの効果とかに関してはよく分かってないんだ。監視の目があったのに突如いなくなるし…いなくなったと思ったら突然、ゲーム開始時にはいない…否、いる訳がない人が出てくるしで、もうイレギュラーばっかで内心、頭が痛かったよ…本当に。



『最も、反射神経が良い者』

本名:空初 麗華 (そらはつ れいか)

状態…死亡


固有スキル「速攻致死そっこうちし

効果→使った相手に対して一度だけ、必中の最大HPの99%の割合ダメージを与える


奥の手「反射反撃かがみ

効果→自身の素早さが大きく底上げされ、目で見える攻撃を瞬時に先読みし、自動的に防いで反撃する。時間が経つごとに武器の攻撃範囲が上がり最長1500mまで伸びる、使える時間は最大8分でそれを過ぎれば、強制的に死亡する


備考

アナウンスが流れた後、すぐにギルドを作ろうと最初に行動して他プレイヤーをまとめ上げた張本人にして「神秘の門」のギルドマスター。

うつけ者と博士が来る事をメンバーから聞き、やまねを…友達を守るために単身で戦いに挑み…ほぼ互角の戦いをしたものの、うつけ者の固有スキルとの相性があまりにも悪かったのもあり…敗北。最期はやまねがいる中、うつけ者によって死亡した。


コメント:もしもあの男と一緒に行動してなかったら…と思うとゾッとするよ。相性的に勝ってはいたとはいえ、一歩間違っていたら負けていたのは私達の方だったな。



『最も、優しき者』

本名:佐藤 やまね (さとう やまね)

状態…生存


固有スキル「不殺の誓い」

効果→ 武器防具が使用不可になる代わりに、攻撃をほぼ無効化するレベルの防御力上昇バフを常時付与する


備考

自身の本性を思い出す前は、いたって普通な少年だったが、初手でうつけ者に襲われ目の前で麗華が殺されたのを見て、忘れていた記憶を思い出し、うつけ者を殺すべく襲いかかるが、槍の効果で瀕死に追い込まれるーーその後、うつけ者と博士の行き先を教えてから、楓を殺す為に白き花園へ行き、自らの手で殺害。完全に心の枷が外れたやまねは、躊躇なく他プレイヤーを虐殺し、その場にいたうつけ者と戦い…勝利した。その後、うつけ者の死体を完全に破壊し、逃した博士に追いつき殺そうとした所で博士の体が内から爆散して、そのまま光に飲まれていった。


コメント:失敗したとはいえ…私の計画は完璧だった。初見で見破るのはまず不可能の筈。もしや君にとってはこの計画は初見じゃなかったのか?あはっ…まさか……ね。



『最も、狂いし者』

本名:長谷川 無骨 (はせがわ むこつ)

状態…死亡


固有スキル「狂喜乱舞」

効果→ 攻撃を受ければ受ける程に全ステータスが上昇する


奥の手「限界超越オーバーロード

効果→攻撃力や素早さ以外のステータスが1になる代わりに、その合計値の10000倍分が攻撃力と素早さに上乗せされる。体が発熱し、一度発動すれば、死亡するまで解除不可


備考

やまねを逃さんと下に降りるとたまたま博士と出会い紆余曲折あって、行動を共にする事になる。麗華を殺した張本人であり実質、やまねを元に戻した元凶。計画の為に目的地へと向かい

到着した途端に奇襲され、重傷を負った博士を抱きながら逃走。控室に博士を軟禁してから競技場で一人、追っ手を駆逐していると、やまねがグラウンドに来て、そのまま死闘を繰り広げ、奥の手を使ってでもやまねを殺さんとしたが敗北し、死亡したかに思われたが…頭が無くなっても尚、博士を助け…殺すために復活し短時間とはいえ、博士の策の為の時間を稼いだ。


コメント:君が時間を稼いでくれなきゃ、間に合わなかったのは事実だからそこだけは感謝はするけどね…うん、それだけだ。君に言いたい事…文句とかなら山のようにあるけど、どうせちゃんと聞きやしないだろう?もう慣れたし、そのままでいいよ……君は。



『最も、賢き者』

本名:谷口 菊 (たにぐち あき)

状態…死亡


固有スキル「対象逆行」

効果→使った対象や物体の時間を巻き戻す。プレイヤーに使うと、元々受けていたダメージを戻してなかった事にする事ができたり、調整次第で瀕死だった時の状態に戻す事も出来る。世界に干渉すれば、ある程度まで過去に遡る事も可能だが、特殊スキル使用時は使用不可。


特殊スキル「自己分裂」

効果→自己を削る事で本物に近い自分の分身を産み出す。個体ごとに別々の感情を持ち、独自のインベントリやアイテム欄が存在する。分身の五感を共有する事も出来る。分身を沢山作れば作る程、本体は弱体化し最終的には分身に裏切られ、殺されるリスクが存在する。元々はなかったが、博士が辞める前に面白半分で仕込んだものである


備考

最初はデータ内にある特殊スキルを見つけ、当初の目的であるゲームのシステムの解析だけだったが、楓とゲームマスターの戦いの結末を分身越しに見て、その脅威に対抗するべく急遽ゲームシステムの改変に取り掛かる。その途中、分身の一人がうつけ者とうっかり出会ってしまうという計算外の事態が発生。基本的に脳のリソースのほぼ全てを改変や解析に割り当てている為、一人で戦闘に巻き込まれると確実に詰むことや、後々の事も考えて仲間はいた方がいいと判断し、分身が殺される覚悟でダメ元でうつけ者を説得し、紆余曲折あったが行動を共にする事になる。「神秘の門」にて楓と遭遇。ホテルにて、二人と分身越しではなく本体として初めての邂逅を果たし、計画を打ち明けた。その後は分身ではなく本体がうつけ者と共に行動し、目的地で違和感を感じた博士はうつけ者を庇い重傷を負う。うつけ者の時間稼ぎもあり、やまねに殺される直前にゲームのシステムを改変し、ゲームルールを破ったペナルティで、体の内から爆ぜて死亡。残りの分身もゲームの崩壊と共に消えていった。


コメント:あの計画を立てた理由は…何の取り柄もない有象無象の他のプレイヤー達が私達という脅威に対してどのように結束し、どう思考して、どうやって攻略しようとしてくるのかが気になったからだ。え?もし、計画が成功していたらって…?あはっ…流石に分かるでしょ。



『最も、最弱な者』

本名:佐藤 楓 (さとう もみじ)

状態…不明


固有スキル「贋物弱者ハンデ

効果→ 4回ダメージを受けたら例外なく死亡する状態を常時付与する。逆にどんな攻撃でも受けた回数が4回でなければ、即死効果がある武器でも効果が打ち消され無効化される。


備考

ゲームログイン時に肉体が死亡。そこから「蒲公英」によりゲーム世界に復活する。初めに武器や防具を持っていたのは本人曰く、適当に触ってたら出す事が出来たとのこと。それ以降、インベントリやアイテム欄を使う事…使えないまま、ルールも何も分からずにゲームマスターと戦闘に入り、1時間程で殺害。ゲームマスター権を無意識の内に手に入れた。その後はあてもなく襲いかかって来る者は全て排除し、何もしてこない者には相手せずに、ただやまねを探す為にゲーム内を歩き回る。本人に自覚はなかったが、その時にやまねと楓のゲームルールを変更している。「神秘の門」にて、傷つき倒れたやまねとそれをしたうつけ者を発見し、らしくもなく感情のままにうつけ者の四肢を斬り落とし、殺そうとするが間一髪の所で博士が間に合って、取引を行った結果、それに承諾した。その後は「蒲公英」に精神的,肉体的にも侵食されかかっているのにも関わらず、博士の計画に従い白き花園に向かう。そこで自身の目的を果たした後、本来いる筈のない男と戦い、胸に傷を負いながらも勝利した。そこから少し時間が経った頃にやって来たやまねによって死亡した。


コメント:正直言って「神秘の門」の一件が1番焦ったし、かなり危なかったよ。私が後一歩遅くに到着していたら…うん。仲良く敵認定されて、二人まとめて全滅エンドだっただろうからね。それはそれで興味深いけど…あーやっぱり私ごときじゃ、あの傑物を扱いきれなかったな…悔しいけど……次があったらもっと上手くやってみせるよ。



ーーといった感じで以上だよ。ほらあれだ…遅まきながら、最初で最後の君に送る誕生日プレゼントだと思ってくれ。これを上手く使えとは言わないけど…そうだね。


——後の事は託すよ。馨…私の大っ嫌いな弟。


追伸

馨のデスクの保管庫にいつしか言った物を入れておいた。是非、確認してくれ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「…あー、不味っ。」


長椅子に座り、デスクにさっきまで見ていた資料を置いて谷口は外から見える夜景を見ながらなまこソーダを飲む。


「……本当、性悪だよね……姉貴はさ。」


私に対する嫌がらせだけは天下一品だよ。と一人呟く。


「…入っていいか。」

「……どーぞ。」


扉が開き、銃で武装した男…アレイが入ってくる。


「…報告。客人達は全員満足して帰ったぞ。」

「帰ったのかい?…追撃は、まあ今日はいいや……そんな気分じゃないし。」


資料が目に入ったのか、ふと呟く。


「…この資料は……」


「それかい?零落園のやつと……遺書だよ。」


「遺書……?」


「この日に私のパソコンに送るように設定してたんだろうね…本当、嫌な奴。」


「…にしてはやけに嬉しそうだが。」


谷口はアレイを一瞬睨んだが…すぐにいつもの感じに戻る。


「あーもう。セキュリティを一度見直すかぁ?はあぁぁぁ…すっげえ面倒臭いんですけど。」


それを聞きながら、報告を終えたアレイは部屋を出ようとすると谷口が声をかけてくる。


「…アレイ君、目閉じて口を開けてくれ。」

「…?はい。」


疑問に思いながらも、そうしていると口の中に異物が入り、あまりの不味さにそれを赤い絨毯に吐き出した。


「おえっゲホッッ…ゲボッ!?一体、何を!」


「ははっ!どうだい…不味いだろ??」


「不味いを通り越してる…腐った肉よりも…不味い…っ。」


「あーあ、この絨毯…結構高かったんだよ?」


「…おえ。主が飲ませたんだ…責任はそっちだろ。」


「私の保管庫にさ、これがぎっしりあるんだ。半月分くらいの。」


強がっていたアレイの顔面が一瞬で蒼白になるのがわかった。


「…任務まで待機する。」

「あ、ちょっ。」


何かを察したのか、扉をこじ開けてアレイは逃走した。


「まだ最後まで言ってないよ…全く。日頃の行いの所為なのかなぁ?」


そう呟きながら、長椅子に座り保管庫の奥にあった物…ボロボロの黒い古本をデスクの引き出しから出した。


(元々、こんなの入れてなかったよね?)


タイトルは書いてなかった。


「はぁ。今時、タイトルが面白くないと本ってのは読まれないんだぜ?」


そんな戯言を言いながら、本の紙が崩れないようにめくる。独特なこの字体には見覚えがあった。


「……『異世界に来た』…?」


谷口は意味も分からず首を傾げながらも読み続けていくと…


「……!」


それを理解した途端、気がついたら長椅子から立ち上がっていた。


「…えっ、マジ?」


驚きながらも、立ったままページをめくりつづけるが、それ以降のページは白紙だった。


(落ち着こう。)


内心そう呟きながら、なまこソーダを飲む。


「…あ。…意外と癖になるな……これ。って違う!そうじゃないよね?!」


一人でノリツッコミをしながら、谷口は頭を抱えるとある言葉が浮かんだ。


——後の事は託すよ。


「……っ。マジで恨むぞ……!姉貴。」


悪戯っぽく笑うあの表情が脳裏によぎり、それに対して、負け惜しみ気味に谷口は精一杯の恨みをここにはいない小さな姉にぶつけたのだった。




























































































































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