仲間発見

 リベルタは考えた。成り行きに任せてアルマに乗りレンコントの町までやってきたが、これでは塔でガラクタを拾っていた生活と何も変わらない。自分の意思で決め、自分の力で歩き出さなければ、どんな変わったことをしてもそれは結局誰かの言いなりになって生きているだけだ。そんなのは人間に使われるオペラと何も変わらない。水や食料を必要とし、シャワーやトイレも無くてはならない自分よりもオペラの方が便利なぐらいだ。とはいえ、気持ちだけでは何もできない。自分で決めるためには、世界のことを知らなくてはならない。


「ねえフレスヴェルグ、この世界のことを教えてくれる?」


『リベルタさんが望むのなら、何でもお教えしましょう。何が知りたいのですか?』


「そうね……そういえば、この国の王様のことを何も知らない。ラトル家のこと、なにか分かる?」


 特別区はラトレーグヌの王家であるラトル家の所有する土地だが、そこに生まれ育ったリベルタはラトル家のことを何も知らなかった。ガラクタ拾いをさせる代わりに衣食住の保証をしてくれるということだけだ。それだけ知っていればあそこで生きていくのに何の不自由もなかった。だが、リベルタはあの土地を飛び出してしまった。もう籠の鳥に戻ることはできないのだ。場合によってはエーテルナを勝手に外へ持ち出した自分を処罰しにやってくるかもしれない。これほどの能力を持つ機械があの塔に眠っていたということは、ラトル家の目的がエーテルナのような機械を発見させることだったとしても不思議はない。問題はずっと眠っていたこの機械がラトル家のことをどれだけ知っているのか、ということだが。


『ラトル家は、先ほど話題になったスコーピオンと同じ砂海賊でした。今から百年ほど前にこの国を治めていた王を打ち倒し、国を乗っ取った一族です』


「そうなの!?」


 予想外に詳しいフレスヴェルグにも驚きだが、この国の王家がそんな連中だったとはこれまで想像したこともなかった。話を聞いていくと、この世界の多くの国家は砂海賊が遺構を占拠して力を付けた末に独立国家を名乗り始める、という成り立ちによるものだという。そういった国家は隣国と争い、勝者が敗者を吸収することでだんだんと大きくなり、無数にあった小国家がいくつかの中国家へと成長する。ラトレーグヌはずっと隣国を吸収し続けた結果、大天回教の支配する最大国家カエリテッラにも比肩する超大国にまでなったのだ。


『ラトレーグヌはこの百年で版図を四倍ほどに広げました。それまではいくつかある大国の一つでしたが、今では同盟国も含めると世界の半分を実質的に支配しています』


「へえー」


 ラトレーグヌがそんなに大きな国だとは思ってもみなかったリベルタは、ただただ感嘆の声を上げて説明を受けるのだった。そうこうしているうちに補給品店の駐機場に到着する。買い物をするためにフレスヴェルグから降りたところで、リベルタはすぐ近くに見慣れない人型アルマがやってきているのに気付いた。前にキャンプで見た、美しさすら感じた白と金のアルマと違い、左右非対称の姿をしたこのアルマはなんとも不思議な印象だ。何より、人型アルマがそんなにいくつもあることが意外である。聞いていた話と違うじゃない、と思っているとそのアルマから白いスーツを着た男が降りてきた。


「やあ、初めまして! 君がその人型アルマの操縦者さんでいいんだよな?」


 男はにこやかに挨拶してくる。茶色い髪に薄い色の肌は明るい印象を与えるが、リベルタより頭一つ背の高い男に近寄られて、少々戸惑ってしまった。


「え、ええ。ちょっと補給品を買いに」


 何と返事をしていいか分からなかったリベルタは、言わなくても分かることをもごもごと口にする。すると男は腕を組んで頷きながら話をつづけた。


「補給品か。そうだな、旅をするには大事なものだ。君はそのアルマでどこへ行くつもりだい? あ、名乗ってなかったな。俺はボヤジャント。ジャンって呼ばれてる」


「私はリベルタ。実は人を探していて、その人も人型アルマに乗って旅をしているんだけど」


 ジャンの質問に答える必要などないのだが、隠すようなことでもない。友好的な態度で名乗りをしてきたのでいくらか警戒心も消えた。この男もキャンプの男達とは違って紳士的なように感じる。何となく、自分は特別にろくでもない人間ばかりを見てきたのかも知れないと思い始めた。キャンプのろくでなし男だけでなく、友人の女達も含めてだ。


『ジャン、私の紹介もしてください』


 すると、急にジャンのアルマが喋った。リベルタはアルマに詳しくないので、人型アルマというのはよく喋るのだなあと思いつつジャンの言葉を待つ。だが、そんなリベルタの態度を見たジャンは信じられないものを見たような顔をする。


「リベルタ、君はアルマが喋っても驚かないのか」


「え? 人型アルマってよく喋るものじゃないの?」


 ジャンの反応に不思議そうな顔を返すリベルタだった。通常のアルマは無口な機械なのだという知識は一応あるのだが、人型アルマは特別なアルマだと聞いてきたのでそういうものなのだろうと自然に受け入れてしまった。もちろんそんなわけはない。ジャンもロキが突然人前で喋ったので驚いた。これまでそんなことをしなかったのに。門番との対話もジャンの声音を使って操縦者を装っていた。


『ふふふ……やはりそうですか。私はロキ。そちらのアルマは何という名前ですか?』


『フレスヴェルグです。他の人間に聞かれると面倒なので、町中での発声は控えるようお願いします』


 ロキとフレスヴェルグの会話を聞いて、リベルタはやっとこの二機のアルマが普通ではないということを理解するのだった。

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