ショートカット

「足場を作っていきますニャー」


 タマが持ってきた資材を使って中央通路に地上へ向かう足場を作り始めた。それをシヴァ、ナンディ、ラタトスクが囲んでガーディアンの襲撃に備える。


「やめときなよ、みんなそこに道を作ろうとして失敗してるんだ」


 集結地の商人が指向性通信で忠告してくるが、そんなことは彼等も分かった上でやっている。ホワイトが軽い調子で返事をした。


「誰も成し遂げられなかったことを成し遂げてこそ価値があるんじゃないか。まあ見てな、失敗したら笑ってやってくれ」


 忠告した商人はその返答を聞いてしばらく呆気に取られていたが、三人の挑戦を応援しながら観戦する態勢に入った。難しいと分かって挑戦するのなら、それを止める意味はない。上手くいったら皆が楽になるのだし。


「来たよ、ゴブリン!」


「無理はしないでくださいね」


 タマが作業を始めたとたんに通路の横穴から次々と現れる二脚アルマの群れを確認し戦闘態勢を取るラタトスクに、ミスティカが声をかけて自分も意識を集中する。ナンディとの精神シンクロ率を上げるため、一旦目を瞑るのはまだ精神集中に慣れていないためだ。戦場においては命取りになりかねない数秒の隙が生まれるが、今は頼りになる仲間がいる。安心してナンディと心の対話を始められた。


「まずは肩慣らしといきますか」


 ホワイトが前に出る。シヴァの手には既に湾曲した刃が握られていた。その背中の頼もしさに甘えそうになってしまう自分の気持ちを心の中で𠮟咤し、クリオも操縦桿を握る。


「オイラも戦えるようにならないと。ラタトスク、真面目にやってくれよ」


『私はいつだって真面目ですよ』


 おしゃべりなラタトスクがクリオに返事をすると、シヴァと反対の方向を向く。敵は全方向からくるのだ、前のようにシヴァの後ろへ隠れたりはできない。さっそく襲い掛かってきたゴブリン二機をシヴァが一振りで両断したところに、またゴブリン二機が後ろから、つまりラタトスクの前から射撃を始める。ゴブリン達は上から落ちてきながら謎のビームを発射してきた。ラタトスクは軽やかに飛び上がると、壁を蹴ってゴブリン達に空中で肉薄し、大きな尻尾を振り回して敵を叩き落とす。


「ウォォォーン!」


 そこに準備の出来たナンディが吠えた。落ちてきたゴブリン達は飛び上がってすれ違いざまに爪で引っ掻くと、バラバラになる。そのままさらに上からやってくる数機のゴブリンに向けて電撃を放った。


「一段目完成したニャー」


「もう!?」


 タマの速すぎる仕事ぶりに舌を巻きつつ、その足場をありがたく使わせてもらう。ラタトスクが着地すると、今度は別の方向から現れたゴブリン達をシヴァが刃の一閃で鉄屑に変えた。


「タマは最高のメカニックだからな!」


 シヴァも足場に乗り移り、次の作業に取り掛かるタマを守るために拠点を変える。ナンディはというと、なんと壁を蹴って走り回り、まるで重力が存在しないかのように振舞っている。次々と撃墜されていくゴブリンの残骸が鉄の雨となって通路の底に降り注いだ。


「すげえ!」


「どうやってるんだ?」


「ええと、なんとなくです!」


 ナンディを駆るミスティカにも原理はよく分からない。壁を走ろうと思ったら走れたのだ。もちろん宙に浮いているわけではないので動きを止めれば地底へ真っ逆さまだ。とりあえず目に付いた横道に突入して一息ついた。


「なんつー化け物アルマ達だ……とんでもない腕利きがやってきたな」


 集結地は通路の真下ではないので底の横穴から観戦する形になっている商人とエクスカベーター達が、感嘆の声を漏らす。そういえばニュースになっていた、歴史に名を残す偉大な成果を上げた発掘隊が三人組だった。こいつらかと気付いた観戦者達は口々に応援の叫びを上げる。本当に通信で届けたら逆に迷惑になるかもしれないので、あくまで下から口で応援するだけだ。


『皆さん応援してますよ。私達も良いところを見せましょう』


 ラタトスクがクリオに話しかける。既に興奮状態のクリオが、この提案に乗って操縦桿を倒した。


 次から次へと襲い掛かるゴブリン達、目にも止まらぬスピードで足場を構築していくネコ型(?)ロボット、壁を走る二本角の巨獣ナンディに、負けじと飛び回る謎の生物ラタトスク。目まぐるしく変化していく状況に、シヴァは最小限の動きで敵を残らず片付けながらついていく。敵は全滅させないといけないし、思わぬ伏兵がいるかもしれない。周りが嵐のように騒がしいからこそ、白と金に彩られた人型アルマはただひたすらに冷静を保ち、戦況を見極め続けていた。


「すげえ……本当にやっちまいやがった」


 特殊なガーディアンなどは現れず。とにかく物凄い物量で押してくるゴブリン達を縦に200メートル延々と破壊し続け、ついに三機のアルマと一機のオペラは地上へと到達した。


「なんてことはなかったな」


 地面に立ち、タマを回収しつつ落ち着いた様子で言うホワイトの後ろで、ミスティカとクリオは操縦席で荒い息をついて声も出せずにいた。これが経験と実力の差かと、声も出せずに背もたれにへばりついて思うクリオなのだった。




 その夜、宿場で疲れを癒していた三人は宿の主人からカプテリオの情報を聞いた。


「今日も奈落に突入した討伐隊が帰ってこなかったよ。リゾカルポって言ったっけ」


 ある程度は予想していたので、三人は取り乱すことなくクリオの持つビーコンを確認する。


「うん、緑色のままだ。やっぱり何か出てこれなくなる罠があるんだと思う」


「困りましたね。どんな罠があるのか解明しなくては、皆さんを助けることもアーティファクトを探すこともできません」


「アリジゴクのように登れなくなるのなら、とりあえず命綱をつけて降りてみるか」


 そんな安易な方法で逃れられるなら、既に攻略されているだろうと思いつつ、他にいい案も思いつかないのでできる限りのアルマ回収用ワイヤーを用意する三人だった。


『……剣と魔法の世界じゃあるまいし、出られなくなる罠なんてあるわけないでしょう』


 駐機場で、誰にも伝えるつもりのない独り言をリス型アルマが呟いた。

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