28 隠し事

 こちらの曖昧な問いに霞は少し間を空けてから、笑みを浮かべて答える。


「そりゃキミの言う通り腕が折れたからだろう、気が乗って無いのは」


「そう……ですか?」


「何を不思議がる事があるんだ。腕ぽっきり折られて、っしゃあ解決解決わっしょーい! って感じになっていたらそれはそれでおかしいだろう」


「まあ……確かに」


「それに頷くという事は、腕が折れてなかったら私がおんな喜び方をすると思っているって事でいいのかな? その辺は冗談のつもりだったんだが……」


「いやするでしょ、黒幻さんなら」


「えぇ……」


 まさかこの人は未だに自分がクールキャラでやれていると思っているのだろか?

 そんな事を考える真に霞は言う。


「とにかく大丈夫だよ。事件は考える限り良い感じに終わっている。引っ掛かる事なんて何も無いさ。今の私にはこの後の焼肉の事しか頭に無い」


「それはそれでどうなんですか……」


 流石に他にも何か考えろよとは思うが……とにかく。


(……考えすぎか?)


 別に読心術でも使える訳でもない。

 ただ何かあるのではないかと思っただけで、全くの見当違いかもしれない訳で。

 しつこく問い詰めるような事では無い。


 だとすればこの話は此処で終わりだ。


「じゃあ今の仕事は一段落って事で。黒幻さん、焼肉屋どこ行きます?」


「お任せするよ。キミのお金だからね。謙虚な私は高い店に連れていけなんて言わないのさ」


 ちなみに、とキメ顔で霞は言う。


「私は食べ放題の焼肉のコースだと、真ん中位で大満足な女だよ」


「謙虚なのかどうなのか微妙な提案来ましたね……」


「あ、でもその……これは可能ならで良いんだけど……アルコールの飲み放題とかは……」


「うん、謙虚じゃねえわ……良いですよ。今日の打ち上げのつもりでどんどん飲んでください」


「っしゃあ!」


 そんな風にやはりクールな感じとは程遠いガッツポーズを見せる霞を見て思う。


(……うん、やっぱ気のせいだな)


 今日起きたトラブルについては、金銭面のトラブル以外は全て解決した。

 全ては自分の思い違い。

 思い違いなのだ。


(……いや)


 一度終わりだと言った話をこう短期間で考え直している辺り、やはり自分はどこか引っ掛かる点があるのだ。

 なんの信憑性も無いが、きっと霞は何かを隠している。


 ただ……本人はそれを言うつもは無いみたいだけど。


(まあ俺に何でも言えって言う方がおかしいもんな)


 怪異の専門家に素人が何かを聞くのとは訳が違う。

 自分はまだあらゆる意味で、そういう何かを教えてくれる域に達していない訳だ。


 自分の様な何者でも無い人間にはまだ。

 ……何者でも、無い。


(……まずは自分の抱えてるもんどうにかしろって事かもな)


 ひとまずそんな解釈をしながら、一旦は自分の……もしくは双方の抱えている問題について蓋をする事にした。


 それが評価できる形なのかどうかは自分にはまるで分からなくはなっているけれど、どうであれ怪異絡みの仕事の初陣を無事終えたのだ。


 もう少し楽な気持ちで、この後の焼肉の事を考えたっていい筈だ。


「ちなみに黒幻さん、焼肉だと何が好きですか?」


「そりゃ当然王道中の王道の豚軟骨だよ」


「そんなど真ん中ストレート投げましたみたいなドヤ顔浮かべないでくださいよ。どう考えたって内角低めのスライダーみたいなメニューですよそれ」


「凄く良い感じのコース投げてるねえ」


「まあ美味しいですし」


「ちなみに白瀬君は?」


「王道ですけどカルビですかね」


「そんなど真ん中投げたら打たれるだろう」


「何言ってるんですか?」


「野球に例えだしたのキミだろう!? 急に梯子外さないでくれるかなあ!」


 とにかく、今日の仕事は終了である。


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