22 名称不明 魂の商人 アドバンテージ
辿り着いた偽札であると立証する為の術。
それが果たして有効なのかどうかは分からない。
だが有効だろうと無効だろうとまず第一に問題となってくるのは、いかにして立証し突き付ける為のテーブルに付くか。
もしくは付かせるかだ。
此処まで自分が無傷で居られているように、あの怪異は白瀬真という人間を一切意識に入れていない。
ただ此処に居るだけの部外者。
だから半ば想定通り、ただ呼びかけただけでは届かなかった。
そして霞を経由しても結果は同じ。
ならばもう一歩先へと進む必要がある。
もしかするとこの状況でも呼びかけるだけでテーブルに付かせる術があるのかもしれないが、自分にはそんな事は分からないから。
そもそももう時間的猶予が無い事は目の前の惨状を見たら一目瞭然だったから。
「この一万円札が偽札だと立証できなきゃ俺の魂をくれてやる! だから無効かも知れねえ契約に基づいた取り立ては一旦ストップだ!」
極力怪異へと近づいて、今思いついた術の中でハイリスクではあるが最も可能性が高そうな手段を選択した。
そして……怪異の動きは止まった。
霞に馬乗りになったまま……体が僅かにこちらを向いた。
明らかに意識をこちらに向けた。
交渉のテーブルの立たせた。
(よし……第一関門突破……ッ!)
これで一応は構築できた立証の為の理屈を怪異へと突き付けられる。
即ちもう逃げられない。
当然それに対する不安はある。
だが……此処について来るつ決めた時点で、今更怖気付くようなものでは無い。
何よりどちらかと言えば……安堵の感情の方が強かった。
だってそうだ。
(これでまだこの状況をどうにかできるかもしれない……)
このまま何もしなければ間違いなく霞は殺されるか魂を抜かれていた。
まず一つはそれを阻止できるかもしれないという安堵。
そして二つ目。
(それに……これなら最悪な展開はもう無しだ)
こちらの言葉に乗った時点で、想定される最悪なパターンを回避できる事が確定した。
それどころか最も有難い形で確定すらしたのだ。
もし自分が想定出来た最悪。
自分がなんとか組み上げた理論には目に見えた穴がある。
そしてその穴がこの疑惑の一万円札と契約の核となっているのであれば、少なくとも自分には圧倒的な暴力以外でこの怪異をどうにかする術は見付けられないと思ったから。
故にその点への懸念が杞憂で終わる事が半ば確定した事がこちらの大きなアドバンテージになる。
そしてもう一つ。
有難い形での確定。
こちらの勝利条件の制定。
霞が受け取った一万円札、及びこれまでの被害者が受け取ってきた一万円札が偽札である事を立証する為の議論を行う為に、そうであれば無効である取り立てを停止させた。
相手がそれで止まった以上、一万円が偽札であるかどうかと、それによって取り立てが出来るか否かは紐付けされていると考えても良い。
何せそれが全くの無関係であるのならば、霞の魂を吸い取った上で、それはそれとして一万円が偽札か否かの立証を行えなければこちらが魂を差し出すといった形の別々の、こちらに損しかない勝負になっていた筈だから。
だけど現実は止まった。
一万円札が偽札であれば、全ての契約が無効だったという事にできるというあまりにも大きなアドバンテージが。
自分達が想定した勝利条件が間違っていなかったという事実が与えられたのだ。
これ程の有利を得たのだ。
自分のような素人でも戦えるかもしれないだけの有利が。
だとすれば……安堵しない訳が無い。
(さあぶつけるんだ。拙くても良い。思いつきを全部)
「改めて言うが、お前が黒幻さん……今から魂を取り立てようとしている相手に渡したこの一万円札は偽札だ」
そして勝つ為に、言葉を紡ぎ始めた。
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