庶子令嬢は家の為に政略結婚の駒になろうと決意したけれど、何やら義兄の様子がおかしいです

石月 和花

庶子令嬢は家の為に政略結婚の駒になろうと決意したけど、何やら義兄の様子がおかしいです

「はぁ……知らなかったわ。まさか我が家がそんなに逼迫した状態だったなんて……」


 侯爵令嬢のアデリナ・コールソンは、先程、偶然にも聞いてしまった義兄と父の会話を思い出してサロンで一人溜息を吐いていた。


 聞くつもりは無かったのに、たまたま通りかかった時に父の執務室のドアが空いていて、中の会話が聞こえてしまったのだ。



◇◇◇


「それで、アデリナにはいつ伝えようか。あの娘が十七の誕生日を迎えてからにしようか。」

「いいえ、それでは遅すぎます。早急に手を打つべきなんです。我が家には時間がありません。」

「確かにな……。向こうも待ってはくれないだろうしな。」

「はい。それで、この件は僕の口から彼女に伝えさせて下さい。」

「そうか、分かった任せよう。……けれど、もし失敗したら……」

「義父上、任せてください。もし彼女が断ったとしても、僕は絶対にアデリナを逃しませんから。」

「し、しかしそれではあまりにもあの娘が可哀想では無いか?」

「義父上、これは侯爵家の為なんでしょう?アデリナを変な男に嫁がせる訳にはいきませんからね。だから僕に任せて下さい。」

「……くれぐれもこの件でお前たちの仲を拗らせるのだけは避けてくれよな。家族の仲がギクシャクするのは嫌なのだよ。」

「……善処致します。」


◇◇◇


 聞こえてきた会話はこれだけだったが、これだけの会話でも状況を察するには十分だった。


 恐らく、このコールソン侯爵家は今、誰かと何らかのトラブルを抱えていて、それの解決案として、娘を差し出そうとしているのだと、アデリナは察した。


(もしお父様が本当に困っていて、私でお役に立てるのならば……今こそ恩を返す時だわ……!)


 父と義兄が自分を政略の道具にしようと企てている不穏な会話を聞いたと言うのに、アデリナはショックを受けるどころか、自分のやるべき使命を見つけたとばかりに、心が震い立ちやる気に満ちていた。

 

 なぜならアデリナは、正妻の子ではなかったにも関わらず自分を引き取って、侯爵令嬢として何不自由なく育ててくれた侯爵夫妻に恩返しがしたいと、ずっと思っていたからだ。


 アデリナの出自は少しだけ複雑だった。父であるコールソン侯爵は独身時代にメイドだったアデリナの母と愛し合っていたのだが、しかし、身分違いから二人は引き離されてしまったのだ。そしてその後、アデリナの母は人知れず一人で娘を産み育てていたのだが、アデリナが十歳の時に流行病で亡くなってしまったのだった。


 そんな時に、身寄りがなくなったアデリナを、侯爵とその夫人は庶子として引き取り侯爵家の娘として、今日まで何不自由なく育ててくれたのだ。


 そんな父母の窮地を救えるならばと、アデリナはどんなに縁談を言い渡されたとしても、笑顔で承諾しようと一人決意したのだった。



***



「ここに居たのかい、アデリナ。」

「お義兄様!」


 サロンで一人、アデリナがこれから自分に言い渡されるであろう事を考えて物思いに耽っていると不意に後ろから声がかけられたので彼女は後ろを振り向いた。

 そして、その声の主の姿を見ると彼女はとても嬉しそうに顔をパァっと明るくしたのだった。

 そこには、アデリナの最愛の義兄アレクシスが立っていたのだ。


 二歳年上の彼は、名目上はアデリナの兄という事になっているが、コールソン侯爵の遠縁からの養子の彼と、アデリナには血の繋がりは無かった。


 まだアデリナの存在が侯爵夫妻に知られる前の事だが、コールソン侯爵夫人には長く子が出来なかったので、アレクシスは八歳の時に侯爵家の後継としてこのコールソン家に連れてこられたのだ。


 しかし、その四年後の彼が十二歳の時に、侯爵と血の繋がりがあるアデリナが見つかりコールソン家に迎え入れられたので、養子の彼は微妙な立場になってしまい普通なら関係がギクシャクするのが当たり前なのに、けれどもアレクシスはそんな素振りを一切見せずに、本当の妹のようにアデリナをとても可愛がったのだった。


 だからアデリナは、そんな義兄が大好きだった。


「どうしたんだい、僕の可愛い天使。何やら難しい顔をして。何か困っているのかい?」


 アレクシスはそう言って、心配そうにアデリナの顔を覗き込み、そのまま向かいの席に座った。

 彼はしばしば、アデリナの事を”僕の天使”と称するのだ。アデリナはその呼び方は恥ずかしかったが、その反面、妹として彼に愛されているなと実感できるので、嬉しくもあった。


「少し、考え事をしてましたの。でも、もう大丈夫ですわ。結論は出ましたから。」


 アデリナはニッコリと笑ってアレクシスに答えた。いきなり知らない人へ嫁ぐだなんて心の準備が出来ていなくて少し不安であったが、義兄の顔を見たら勇気が出たのだ。


(えぇ、お義兄様もそれを望んでいるんだから。お義兄様の為ならば、私は政略結婚も頑張れますわ!!)


 それからアデリナは、感慨深げにアレクシスの事をじっと見つめた。他家に嫁いでしまったら、このように義兄と気軽に会えなくなるのだ。だから、その姿をしっかりと見て、目に焼き付けておきたかったのだ。


 血が繋がっていないのだから当然ではあるが、アレクシスとアデリナは全然似ていなかった。アデリナ自身も母親に似て美形ではあるが、可愛らしいと表現するのがしっくりくるのに対し、アレクシスは眉目秀麗で美しかった。

 そんな彼をまじまじと見つめて、アデリナは我が義兄は本当に美形だなと、その美しい顔も、輝く様な金の髪も、何度も見ているのに、それでも彼に見惚れたのだった。


(あぁ……、このままお義兄様のお側に居れたらいいのにな……)


 そんな事を考えてしまったが、その想いは直ぐに打ち消した。アデリナは、コールソン家の為にどんな縁談でも受け入れると決意したのだから、例えどんな相手だったとしても受け入れようと自分に言い聞かせた。父の為にも、そしてなによりコールソン家を継ぐ義兄の為にも。


 アレクシスはアデリナにとって初恋の人であり、今でも一番大切な人であった。

 だから、彼が継ぐコールソン家の基盤を立て直す為ならば、アデリナは何だってするつもりだった。彼からのお願い事ならば、どんな事でも受け入れようと前から決めていたのだ。

 子供の頃のあの日からずっと、アデリナのその気持ちは変わらなかった。


 それはアデリナがコールソン家に引き取られて間もない頃、それまでずっと平民として暮らして来たアデリナは侯爵家に馴染めずに、人知れず


“母に逢いたい”

“前の暮らしに戻りたい”


と泣いていたのだが、アレクシスはそんな一人で泣いている彼女を必ず見つけては、隣に寄り添い、泣きじゃくるアデリナの頭をそっと撫でてくれたのだった。


「僕はアデリナのお母様には慣れないけれども、僕はずっとアデリナの側にいるよ。絶対にどこにも行かないから、だから安心して良いよ。」


 そう言って、アレクシスはアデリナの事をしっかりと抱きしめたのだ。


 この時の彼が、アデリナには本当に王子様に見えて、だから彼女は、いとも簡単に恋に落ちたのだった。


 義兄だと言われても、今まで全くの他人で存在さえ知らなかった、格好良い男の子に優しくしてもらったら、好きにならない方が無理があるのだ。アレクシスの為だったら何だってする。若干十歳のアデリナは、この時にそう決めたのだった。


 そしてそれ以降、アデリナは侯爵家にも慣れて泣くことは無くなったが、それでもアレクシスは常にアデリナの側で優しく見守り、微笑みかけてくれていた。


 なのでそんな恰好良い義兄がずっと側にいるので、アデリナはもうすぐ十七という年齢になると言うのに、他の男性に全くときめいた事が無かった。何故なら、お義兄様以上の殿方など居なかったから。


 なにせアレクシスは見目が麗しいだけでなく、文武両道、品行方正で正に絵に描いたような貴公子であり、それに加えて、アデリナに対して盲信的に優しいのだ。そんな彼以上に魅力的な男性など、見つけられる訳が無かった。


 だからアデリナは、幼い頃の初恋をずっと拗らせて、義兄に叶わぬ恋心を抱いていたのだった。


 けれども、それも今日で終わり。

 アデリナは、義兄の事は美しい想い出として胸に秘めて、これから言い渡されるであろう政略結婚へと気持ちを切り替えて、覚悟を決めた。




「アデリナ、お前に大切な話があるんだ。」

「何でしょうか、お義兄様」


 義兄からの言葉にアデリナは内心身構えた。これから、彼の口から、政略結婚の打診をされるのだと悟った。

 恋慕の情を抱いている人から別の人と結婚する様に言われるのは辛いものがあるが、他ならぬ大好きなお父様やお義兄様が困っているのだ。

 アデリナは自分の感情など捨てて、貴族の娘としての役目を果たす事を選んだ。


(大丈夫……どんな縁談でも受け入れるわ。)


 そう気合を入れ直して、アデリナは凛然と目の前に座るアレクシスを見つめて、彼からの言葉を待った。


「アデリナ、急にこんな事を言って驚くかもしれないが……」

「大丈夫です。お義兄様。覚悟は出来ていますから。」

「覚悟……?」

「あの、実は……。先程お父様の部屋の前を通った時に、偶然中の会話が聞こえてしまって……」


 このアデリナの告白に、アレクシスは動揺したみたいだった。侯爵家を継ぐ者として感情を表情に出さないように訓練を受けた彼の眉が僅かにピクッと動いたのだ。


「おや、立ち聞きとは困った子だね。」

「ごめんなさい……でも、お蔭で事前に覚悟が決めれましたから。お義兄様、私、侯爵家の為ならば、政略結婚も受け入れられますわ。例えどんな所にでも嫁ぎますから!!」


 アデリナの一世一代の決意表明に、アレクシスは口を軽く開けたまま、呆気に取られていた。

 それから直ぐに頭を振って正気を取り戻すと、額に手を当てて、頭を抱える様な素振りを見せたのだった。


「アデリナ……お前は一体何を言っているんだい……?」

「えっ……?違うのですか??」

「お前は何処にも嫁に出さないよ。ずっとこの家で僕と暮らすんだ。」

「えっ?えっ??良いのですか?お嫁に行かなくて。」


 アデリナは何がなんだか分からなかった。てっきり自分は政略結婚の駒としてどこかに嫁がさせるものだとばかり思っていたが、何やら義兄の様子がおかしいのだ。


 アレクシスはテーブルの上に置いていたアデリナの手にそっと自身の手を重ねると、真剣な眼差しで彼女の目を見つめながら、ゆっくりと問いかけを始めた。


「アデリナは、この家で僕とずっと一緒に暮らすのは嫌かい?」

「嫌な訳ありませんわ!お義兄様の事は大好きですから。」


 アデリナはアレクシスの事が大好きなのだから、こんな質問ならば、秒で答えられた。しかし、彼が何故この様な事を聞くのかが分からず内心は首を捻っていた。


「そうか。なら良かった。それなら僕たちはずっと一緒に居られるね。」

「そうなのですね!嬉しいですわ!」


 アレクシスの言った事は単純にとても嬉しい事だった。大好きなお義兄様とずっと一緒に暮らせるのならば、それほど幸せな事は無いのだ。


 しかし頭の端では、今回の件は何かの勘違いだったにせよ、いずれ自分は侯爵家の為にどこか有力な貴族と政略結婚をして恩返しをするものだと決めていたので、ずっと一緒には居られないだろうと分かっていた。

 それでもアデリナは、義兄が自分とずっと一緒に居ようと思っていた事だけで十分に嬉しかったのだ。


 けれども、アレクシスはどうやらそうは思っていなかったようで、彼の様子は、何やらおかしいままだった。アデリナの快諾にホッとするような表情を見せると、溶けるような甘い視線で、アデリナの事を見つめだしたのだ。


「アデリナ、これからは僕の事を、アレクって呼んでくれないかい?」

「……アレク……お義兄様……?」


 突然、自分のことを愛称で呼ぶようにとお願いされて、アデリナは義兄の意図が分からず戸惑った。


(どうしたのかしらお義兄様。そんなに愛称で呼ばれたかったのかしら?)


 そんな風にキョトンとした顔で首を傾げるアデリナを見て、アレクシスは自分の思ていることが全く伝わっていないと悟った。話を立ち聞きしたと言っても、アデリナは肝心なところを聞いていなかったのだ。


「そうか、アデリナはまだ分かっていないのか……。義父上との会話を聞いていたんじゃなかったのかい?」

「会話の一部だけ聞きましたわ……。あの、私は窮地の侯爵家を救う為に、どなたかに嫁がさせられるのでは無いのですか?!」

「何でそんな風に思っているんだ?!そんな訳ないじゃ無いか!!僕がアデリナ、君を手放す訳が無いよ!!」


 思わず椅子から立ち上がってそう叫ぶと、アレクシスはアデリナの手を両手で強く握って、縋るような目を向けた。彼は、何かを訴えかけるように、じっと彼女の目を見つめたのだ。


 そんな彼の余りの真剣な眼差しにアデリナは、自分が何か言ってはいけないことを口にしたのでは無いかと思って、目線を逸らすと慌てて何故自分がそのように考えたのかを弁明した。


「そ……そうだったのですね。私何か勘違いをしてしまった様ですわ。早急に対処しないと時間が無いとか、向こうも待ってくれないとか聞こえたので、私てっきり、どなたかに急いで嫁がさせられるのかと思ってしまいましたわ。」

「それは、公爵家の次男がアデリナの事を見染めて婚約を申し込もうとする動きを見せていたから。だからこちらも早く動く必要があったんだ。」

「早く動く……とは一体??」

「……」

「……お義兄様……?」


 義兄の言っていることの意味が良く分からず、アデリナは聞き返したのだが、そうするとアレクシスは急に黙ってしまい、益々彼女は困惑したのだった。


(どうしましょう……私何かお義兄様を怒らせるようなことをしてしまったんだわ……)


 アデリナは不安になって恐る恐るアレクシスを見つめると、思い詰めたような顔の義兄と目が合った。


 恥ずかしくはあったのだけれども、なんだか目を逸らしてはいけない気がして、アデリナはじっと彼の目を見つめて、アレクシスの言葉を待った。


 するとアレクシスは何かを決意したかのような顔をすると、熱い眼差しをアデリナに向けてその想いを彼女に伝えたのだった。


「アデリナ、僕と結婚して二人でこの侯爵家を守っていってくれないだろうか?」


 それは、予想だにしなかった一言だった。


「えっ……えええええええええっ?!」


 アデリナはおそらく今まで生きてきた中で一番大きな声を上げた。それから、自分でもこんなに大きな声が出るとは思わなかったから、慌てて両手で口を塞いで、目を白黒させて激しく動揺したのだった。


 そんな彼女をアレクシスは愛おしそうに見つめて、優しく語りかけるようにたしなめた。


「淑女は大きな声を出すものじゃ無いよ。」

「あっ……はしたなくてごめんなさい……。でも、お義兄様……今なんと仰いました……?」

「僕は、アデリナと結婚しようと言ったんだよ。」

「わ……私がお義兄様と夫婦になるのですか?!」

「そうだよ。断らないでくれると嬉しいな。」


 そう言うとアレクシスはアデリナの手を握る力を強めると、いつもと同じ、でも少し緊張しているような笑顔でアデリナを見つめて彼女の返事を待った。


 アデリナはというと、この急展開に頭がついていかなかった。

確かに、アデリナはアレクシスの事が好きなのだけれども、彼は義兄なのだからと、この秘めた恋心は成就などするわけが無いと思っていたのだ。


(お義兄様と私が結婚……本当に?!)


 これが彼の本心ならばこんなに嬉しいことは無かった。


 けれども、ふと、ある可能性にアデリナは思い至ってしまった。もしその考えが当たっていたら、アレクセイのその言葉は本心ではなく言わされている可能性もあるので、アデリナはおずおずと、そのことについて確認を取った。


「あの……もしかして、お父様に言われて断れないのでしょうか……?」


 もしかしたら、父である侯爵が自分の血筋をコールソン侯爵家に残したいが為に、後継者だけれども養子であるアレクシスに実子のアデリナと婚姻しろと命令をしたのではないだろうかと思い至ったのだ。


 貴族社会では良くあることだった。


 そして、もし本当にそうだったならば、アレクシスの立場では、養父の意向を断れる訳がないのだ。


「もしそうなら言ってください!私からお父様に抗議いたしますわ!」


 これが彼の意思では無く、父からの命令であるなば、アデリナは父に強く抗議するつもりだった。アレクシスの事は確かに好きであるが、それが彼の本心でなければ、そんな物は要らなかった。彼が、彼自身の心のままに幸せになってくれなかったら意味がないのだ。

 アデリナは、アレクシスが自分の心を抑圧する事なく、自由であって欲しかったのだ。


 だからアデリナは、じっとアレクシスの目を見つめて彼の口から言葉を待った。

 彼の本心を。


 するとアレクシスは、少しだけ寂しそうに微笑むと、アデリナの手をしっかりと握って、真っ直ぐに言葉を返したのだった。


「そんな事を言わないでおくれよ、アデリナ。確かに打診があったのは侯爵からだけれども、これは僕の意思だよ。」


 アレクシスは、アデリナからの問いかけに少し悲しそうな目をすると、彼女が想像していたことをキッパリと否定したのだ。


「侯爵から打診を受けた時、チャンスだと思ったんだ。僕は、アデリナをどこにもお嫁にやりたくなかったし、ずっと一緒にいたかったから。」


 これは、紛れもなくアレクシスの本心だった。


「あの日、アデリナがこの家に初めてやって来た時、僕は天使に出会ったのかと思ったよ。そしてこの可愛らしい子が自分の妹になる事が嬉しかった。幼かった僕はお前の気を引きたくて、色々と世話を焼いたりもしたね。その度に僕のする事に素直に喜んでくれるアデリナが愛おしかった。けれど、成長してくるにつれて理解したんだ。この感情は妹としてではなく、一人の女性としてアデリナ、お前を好いていると。」


 アレクシスはそこで一旦話を切ると、アデリナの目を見つめて、真剣な表情で言葉を続けた。


「アデリナ、僕はお前に嫌われたくは無い。けれども、お前を逃したくも無い。だからどうか、”はい”って言ってくれないか?」


 初恋を拗らせていたのは、アデリナだけではなく、アレクシスも同じだったのだ。


「お義兄様……それはお義兄様の真のお気持ちなのですね……?」

「そうだよ。家の事など関係なく、アデリナだから結婚したいと思ったんだ。お前と義兄妹である事を恨んだことさえもあったからな。」


 アデリナは、そんなアレクシスの言葉を聞いて、胸がいっぱいになって、涙が出そうになった。

 アレクシスが自分をそんな風に想っていてくれた事がとても幸せで、そんな彼が愛おしくて仕方が無かった。


「嬉しいです、私もお義兄様のことが好きです。大好きです。」

「あぁ、よかった。もし断られたらアデリナの事をこの屋敷に閉じ込め無いといけなかったからね。そんな事をしなくて済んで良かったよ。アデリナ、僕の想いを受けてくれて有難う。」

「えっと……お義兄様……?」


 何やら不穏な事を口走られたような気がして、アデリナはアレクシスを見上げて怪訝な顔で聞き返した。


 すると目があったアレクシスは、蕩けるような笑顔で、アデリナの言葉を訂正したのだった。


「アレクだ。」

「えっ……?」

「僕の事はアレクって呼んでって言ったよね?」

「アレク……なんだか恥ずかしくて呼び慣れませんわね。」

「時期に慣れていってね。」


 そう言って、アレクシスは嬉しそうにアデリナの頭を撫でた。


「あぁ、それにしても本当によかった。これでやっと、婚約者としてアデリナを狙う悪い虫を牽制できるね。」

「……お義兄様??」

「あっ、ほら、ダメだよアデリナ、呼び方が戻っちゃってるよ。」

「あっ、はい、すみません……。じゃなくって、私を狙う悪い虫ってなんなのですか?」

「アデリナは気にしなくていいよ。害虫は僕が全部対峙しておくから。」


 アレクシスはニッコリと笑って「何も心配しなくていいからね」とアデリナに言った。


 引っかかりはしたものの、アレクシスのその笑顔の前では、アデリナはこれ以上深く話を聞けなかった。何となく、詳しく聞いてはいけないような、そんな気がしたからだ。


 そう、アデリナは知らなかったのだ。

 彼女がアレクシスを想っている以上に、アレクシスのアデリナへの愛は重く、彼女の預かり知らぬ所で、アデリナに近づこうとする貴族の公子達を、今までずっと、ことごこく潰していた事を。


 そして、アレクシスの愛の重さ故にそのような事がこれからも続く事を、アデリナが知るのはまだ少し先の事であった。


―――――

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庶子令嬢は家の為に政略結婚の駒になろうと決意したけれど、何やら義兄の様子がおかしいです 石月 和花 @FtC20220514

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