第4話 『ハンチバック』 【小説】

 芥川賞のニュースで市川沙央さんのコメントに衝撃を受けたのは、残暑というよりまだ猛暑が続く9月のこと。授賞式のコメントを動画で拝見して、これは本を買いに行こうとなった。それだけ受賞の言葉のインパクトは強かった。


 今や様々な対談や記事になっているのですべてを読み集めるのは諦めてしまったけれど、とにかくこの方の登場は私の中でかなりの衝撃を与えた。


 なにしろ、それまで読めなかった小説を読みたいと思わせたのだから。


 本屋に行って書籍を買った。けれどビニールカバーを取らずに実はまだ読んでいない。かわりに、早々にオーディオブック化された音声を聞くことができた。


『ハンチバック』

著者: 市川 沙央

ナレーター: くわばら あきら

再生時間: 1 時間 50 分

https://qr.paps.jp/8NAv


 音声で小説を聞いたのはこの作品が初めてなので、初体験。けれど、聞き終わってから思ったのは「やっぱり今度は文字で読んでみよう」だった。


 音声で聞く、紙で読む。これほどまでに違うのかと思いつつ、小説を読むのが億劫になっている頭にプロの朗読はひたすらありがたい。そして臨場感あふれるゆえの、一人の時間でないと聞くことができないジレンマもあった。


 イヤホンではなくネックスピーカーで、家族が同じ空間で仕事をしている横では聞けないからだ。子供もまずい。手にとって開かせるのもちょっと流石にまだ早い。


 結果的に、一人の時間を確保しなければ聞けない読めないという状況に、今の自分の読書ハードルの高さを改めて感じる。


 ともあれ、二度読みを決意する作品であることは間違いない。そしてそれは、この記事や解説動画の多さを見るに、他の人も同じような衝撃を受けているのだろう。


「読書バリアフリー」

「当事者文学」


 読書バリアフリーはその後シンポジウムにもなったと、今書くために調べて知った。


■日本ペンクラブ シンポジウム

「読書バリアフリーとは何か――読書を取り巻く「壁」を壊すために」

https://www.youtube.com/watch?v=bQq1FQ9ynAY


 聞き始めると止まらなくなるので、まずはこちらの記事を書き上げてしまおう。


 実は先に読んでいたのはこちらの対談。


■【対談】高瀬隼子×市川沙央「小説家になるために必要なもの/差し出したもの」

https://note.com/bungakukai/n/n0e9b4cc0b9a9


 この中でも小説や文学における「当事者性」が今後取り上げられる時期に来ているのではとある。ここあたりはなかなかうまく言葉にできないのだけれど、映画の配役に関しても当事者性が広がりつつあるということで、小説だけの問題ではないのだろう。


 その一方で、当事者以外が描く場合、どうなのか。当事者でなければ語ってはいけないのか、家族ではだめなのか……色々考えてしまった。


 例えば、何らかの当事者の家族や支援側が描くこともあるだろう。むしろそのほうが多いのかもしれない。けれど、そこで描かれる「当事者」たちは、本当はどう思っているのか、という問題が「ハンチバック」ではものすごい鋭いパンチとなって描かれている。


 それは問いかけでもあり、答えを何らかの形で返さなければと、どうしても揺り動かされた。


 そして誰かとこの作品について語りたい。そう思ったことが、カクヨムに戻った自分でも気づかないきっかけだったのかもしれない。

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