#18 ダンタリオンやります!
「アスタロトはまだ帰ってないのか」
あの後ボロボロのまま帰ってきてにゅうめんをベルゼブブに作ってもらったところであったが、ようやく気づいた。ようやく。
「知らないわよ。あんた置いてったの?」
「あ」
「図星なのか」
「んご」
「……どうしよう」
「仕方ないわね、あとでごめんなさいしよう?」
「ここは保育園なのか」
「ぐごぁ」
「ずっと思ってたんだけど」
「なんでしょう」
安藤はベッドに寝っ転がっていた。疲れたのかな。
「お前って戦えんの?」
「戦えないこともないですけど」
「じゃあなんで戦わないんだよ、こないだも俺覚醒までしてよ」
「昔だったら楽だったんですけど、今じゃ被害がでかすぎるんですよね」
「相手のこと検索して晒し上げるの?」
「陰湿!」
「じゃあなにが違うの」
「私今スマホの中にいれてるじゃないですか」
「あぁ」
「そんな感じのことです」
「わかるようなわからないような」
「まぁ戦わないことがベストなんです」
「ふぅん」
翌日!
「通販で送ってもらえないなんて」
「内装からしてボロボロじゃないですか、あの店」
「すごく衰退を感じる」
安藤たちは予約した美少女ゲームを取りに店まで向かっていた。
「ん?」
向かい側からなにやら昨日会ったばかりの影が見える!
「西宮!」
「安藤!」
随分早い再会である!
「なんだリベンジが」
「誰がするか。アスタロト知らないか」
「いや全く知らんよ、どうした」
「いや、昨日からアジトにいなくて」
「へ〜」
「なんでそう世間話みたいにできるんですか」
———すると、安藤と西宮が消えた!
「なっ!」
「やぁ———ダンタリオン」
アスタロトが安藤と西宮のいた位置に現れる!
なんか目の下にクマができている!何かやることがあったのだろうか。
「安藤さんと西宮さんをどこに!」
アスタロトは一枚のタロットカードを見せる。
「『世界』のカード……二人まとめてどっかに飛ばさせて貰った」
「安藤さんはわかります……なぜ仲間まで!」
「……思い通りにならないのは邪魔なんだよッ!」
アスタロトはタロットカードを投げる!
『運命の輪』のカード!
それはそのまま巨大な棘付きの車輪になり、ダンタリオンの元にやってくる!
「———やるしかないのか」
「な」
するとスマホからダンタリオンが消えた!
「———貴方は知らないから、こういうことができるんでしょう?」
民家から主婦らしきエプロンをつけた女性が出てきた———それはダンタリオンであった。
「———電光」
ダンタリオンがアスタロトを指さす。
瞬間。
光がアスタロトを襲い———
———黒い姿と成す。
「ガッ……」
この程度で倒れるアスタロトではない。しかし、それでも相当なダメージを受けていることは見てとれた。
「単純な電気の操作———これが私の能力です。まぁ今は少し違いますが」
「さすがは三大悪魔って?なめるなよ!」
「我は道化———」
黒いもやがアスタロトの周りを漂い始める!
「薄氷よりも浅き世を 嘲り戯けて舞い踊る
いつか割れる いつかなくなる
そんな舞台でただ一人
ああ靴底はすり減って しかし私は止まれない
この世は地獄 時と運 私になにができようか
ならばただただ観衆も 役者と成してみせようか
故に軽薄 故に残酷
我を称えよ———運命の
もやが集まり、固まり、ドームが割れた!
その姿は、まさに道化師というものだった。
いくつもの仮面が重なり合った顔面。
ビビッドな色で水玉模様を描かれた体と帽子。
しかし———何故だか胸にあるカードケース。
これが異彩を放っていた。
「頑張ってくださいね」
そうただ見ていたダンタリオンは、また指を指す!
眩い光がアスタロトを包むものの、彼女は無傷であった。
「どんな手品ですか」
アスタロトはカードをダンタリオンに見せる。
『皇帝』のカード!
「なるほど、勝負に出ましたね」
———『皇帝』のカード。
———効果は、五分間の自分に対する攻撃の消滅———
「この姿のボクを止められると、まだ思っているのか」
彼女は二つのカードを、カードケースから取り出した!
(やはりアレは厄介だな……カードが再生しない代わりに、ランダム性を排除できる。その上2枚の使用が可能ときた)
その二枚は『戦車』と『悪魔』!
瞬間、どこからか現れた大砲群が、釘をダンタリオンに向かって連射する!
しかしダンタリオンはなんともなさそうである———よく見ると、ダンタリオンの近くで溶けているのだった。
(電気でバリアを作ったか……)
鉄は1,500℃前後で溶ける。
しかし落雷の温度は3万℃———これは文字通り桁が違う話であった。
そしてそのまま限界が来たのか、大砲群は連射を止めた。
そのためダンタリオンもバリアを解いた———
がしかし。
大砲群が消えていく際、何やら爆発のようなものが起きる!
そしてそのまま釘が空から降ってくる!
(まさかさっきのは囮か!大砲の下にでも隠していたのか……すぐバリアは出せない!)
そのままある程度は放電して弾き出したものの、しかし流石に難しかったのか、腕に一本だけ刺さってしまった!
(やった!)
これでその能力はアスタロトに移動した!
———と思われた矢先、ダンタリオンがさっきまで入っていた主婦の身体が、文字通り何か抜けたようにその場に倒れる!
(———まさか!)
すると近くに停車していた電気自動車がアスタロトに突っ込んできた!
(差し出したのは悪魔の知識の能力か!)
読みが外れたアスタロトは歯ぎしりをする。
「面倒なっ!」
アスタロトは胸のカードケースからまたカードを一枚取り出した———『力』のカード。
アスタロトが蹴っ飛ばすと車は吹っ飛んでいった!持ち主が可哀想だ。
しかし今度は高速でトラックが、しかも二台、アスタロトをはさみ撃ちするようにやってきた!
「あなたを五分間足止めさえできれば、あとは楽なもんですからね」
「クソッ!」
アスタロトは一台を持ち上げるともう一台にぶつけ止めた———だがその包囲網は終わることがない。
次々と、バイクから電動自転車から果てには高速で動くルンバまで、アスタロトに向かっていく!
「うざってぇ!」
アスタロトはイラつきながら再びカードケースから一枚取り出す。
『隠者』のカード。
アスタロトの周囲で、木が強固な形に入り組んだ!
どうやら木はかなり硬いらしく、電化製品たちは次々と自爆していく!
「へぇ」
ダンタリオンはさっきの主婦の身体にいつのまにか戻っていた。
「そう余裕かませるのも今の内だ!」
アスタロトがそう叫んで取り出したのは『正義』と『死神』のカード!
「殺せないならしばらく眠ってろ!」
アスタロトの手に巨大な鎌が握られた———しかし羽が生えた見た目は荘厳な彫刻のような印象を与える。
「これでも食らえ!」
アスタロトはその鎌を振り下ろす!
(ただでさえ『必ず相手に傷を与える』能力の死神と『自分が憎んでいるものに憎んでいるほど与えるダメージを二乗する』正義の合わせ技だ!ただでは済むまい!)
———しかし、ダンタリオンはそれを片手で掴んで止めてしまった!
「なんでだ⁈」
「少しデータを弄らせてもらいました。死神の与える傷に確率を加え、正義は1.2倍に変えたら、ほらこの通り」
そういうと、ダンタリオンは鎌をもう片方の手で割って潰してしまった。
「そろそろ5分経ちましたよ」
ダンタリオンはそう笑いながら耳元で囁く———安藤に見せたことのないような顔で。
アスタロトは声も出ないようだ。———この悪魔のことを、舐めていた。
「それじゃ、お開きといきましょうか」
そう楽しそうに笑うと———指を鳴らした。
「なんだこれ……繋がんなくなっちゃった」
その時ちょうど近くの民家に、見覚えのあるその人物はいた。
「春樹がいたからつけてたら、なーんか面白いことになったけど……ダンタリオンすごいなー」
相川陽奈……いやそう呼ぶべきか悩ましいその存在は、先ほどから戦いを観戦していたのだった。
そして今、周辺あちこちで携帯が繋がらなくなっているのか、色んな人の叫びやら笑い声やら怒号やらが飛んでいた。
「にしてもまったくつながる気配がないなー、まさかインターネットの大元から一時的に取っちゃったとか、そんなんかな」
彼女はダンタリオンを見る。
「まぁ、そりゃ戦いたくないよね、これだけ被害が出るんだったら」
事実戦いの場は真っ黒焦げかつ、さまざまな電化製品の残骸が散らばっている。
御業があるにしても、いちいち被害が大きすぎる。
そして今も———。
「……何をする気だ」
そうアスタロトは勘繰る。
だが。
すぐにその思考は奪われる。
(———なんだ。なにもみえない。なにも、わからない。な、にが、どう、な……)
アスタロトは言葉を出すことさえ困難になっていった……!
「私の必殺技というか、まぁインターネットの回線を電波として集めて自分の回線にしてぶつけて、あなたの思考やら全てを私が掌握するって、小技ですね」
思考に直接声が響く。そしてそのままダンタリオンの姿も、直接。
「あ……あ……」
「そう怯えないでくださいよ……少しあなたを切断するだけです」
そういうとダンタリオンはアスタロトの首を切断した———思考の中で。
「ふぅっ」
ダンタリオンはさすがに疲れたのか、汗をぬぐう。
そばには気を失ってぶっ倒れたアスタロトがいる。神秘圧縮も解けていた。思考が繋がるまでしばらくかかるだろう。
「こうしちゃいられない、安藤さんと西宮さんを探しにいかねば」
そうその場から立ち去ろうとした時。
アスタロトの腕がダンタリオンを掴んだ。
「———は⁈」
そのままアスタロトは自分の首をもう片方の手で、———ぐちゅ———と、もぎ取り、その場に捨てた。
「———何を、している⁈」
すると、首から溢れ出る血が、だんだんとダンタリオンを侵食していく!
カードが転がっているのがわかった———『愚者』のカード。
———本来ならば意味のない、しかしどうしようもない時の切り札になる、文字通りの「道化師」。
見越して用意していたのだろうか?
「こんなのデータになかったッ!まさか……『完全に別の存在だからこそ』のフィルター!」
振りほどこうにも掴む強さは凄まじい!しかもどうやら根のようなものを全身から伸ばして、その場から動かないようにしているようだった。
血は顔の位置にまでのぼり、まるで意図しているかのように、口や鼻に入り込んでいく!
「がっ……嘘!嘘!こんなはずじゃ……がぼっ!がぼぼ……」
そのまま気を失い、血に包まれてしまった。
するとそれは主婦の体から分離し小さな血の球になり———何かを落として割れた。
「なんだこれ!なんだこれー!」
———カードになったダンタリオンであった!!!
「これはまずい!」
相川も流石に焦って下に降りようとする!
「それはいけない」
———何者かが、相川に声をかける。
紫がかった髪型をした少女である……しかしその瞳はどこか超然的な輝きを持ち、それに肩からは妙な柄のマントを羽織っている。
「——悪魔」
そう相川が思った瞬間。
かなりの高さまで吹っ飛ばされた。
(……どうやら物理法則とか全然関係ない力みたいだ。今行くのは悪手だな)
そう思って飛ばされた方向を見てみると、どうやらその影は消えていた。
———おそらくダンタリオンも回収した上で。
「どーなっちゃうのかなー。まぁ多分春樹なら帰ってくるからそのときに、また」
そう気楽そうに言うと、屋根を飛び移ってその場から去っていった。
一方その頃安藤と西宮は!
「ねぇここ白くね」
「見ろ!キツネだ!」
北海道の雪原にいた。
悪魔憑きのオーバーロード 乱痴気ベッドマシン @aronia
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